イタリア中部のトスカーナ州、斜塔で有名なピサにほど近いルッカの郊外に居を構える宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)。クラシックレースやツアー・オブ・トルコに向けて黙々とトレーニングをこなす様子を本人のコメント付きで。

ルッカを見下ろす山が宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)のトレーニング場所ルッカを見下ろす山が宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)のトレーニング場所 photo:Kei Tsuji
ルッカの街から北に車で10分、畑と山に囲まれた田舎町に宮澤崇史は住んでいる。ティレニア海近くのルッカから内陸のフィレンツェに至る一帯は、イタリア有数の自転車選手居住地帯だ。

宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsujiアマチュア時代からロンバルディアやエミリアロマーナでの生活を経験している宮澤曰く「トスカーナは住みやすくてトレーニングがしやすい。他の地域に住むイタリア人がうらやむほどトスカーナは良い」らしい。

ルッカ在住の選手のトレーニングを受けもつピーノ・トーニ氏ルッカ在住の選手のトレーニングを受けもつピーノ・トーニ氏 photo:Kei Tsuji「トスカーナでは標準語に近いイタリア語が話されていて、暑すぎず寒すぎず、スキーが出来る山もあるし、ビーチも近い。山に囲まれているので食材も豊富で美味しく、食べ物の歴史もある。それにオリーブオイルの名産地。イタリア人に『え?トスカーナに住んでるの?いいなぁ』と言われる。ルッカの悪いところは、少し温泉から離れていることぐらいかな」。

中でも今年のロード世界選手権のスタート地点であるルッカの近郊には、サクソ・ティンコフのデンマーク人をはじめ、多くの海外選手が住んでいる。その理由は、トレーナーのピーノ・トーニ氏がルッカにオフィスを構えているから。

国内外問わず、これまで多くのトッププロ選手を診てきた腕利きのピーノは、サクソ・ティンコフの契約トレーナーとして選手のトレーニングを全面的にサポート。ルッカ在住のサクソ・ティンコフの選手たちは毎日のSRMデータをピーノに送り、トレーニングメニューを受け取る。ピーノはバイクペーサーも行なう。

ちょうどルッカを訪れたのは、数ヶ月に一回ピーノのオフィスで行なわれるSRMのエルゴメーターを利用したテストの日。体重や体脂肪の測定後、100Wからスタートして1分毎に10Wアップ。ピーノに数値をチェックされながら、とにかく出し切るまで追い込んだ。

7〜8カ所の体脂肪を入念に計測する7〜8カ所の体脂肪を入念に計測する photo:Kei Tsuji出し切った宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)出し切った宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji

宮澤はシーズン初戦のツアー・ダウンアンダー終了後、ツアー・オブ・カタールとオマーンに日本ナショナルチームのメンバーとして出場する予定だったが、所属するサクソ・ティンコフが出場していたため出場は果たせず。宮澤は代わりにタイに飛び、そこでトレーニングに明け暮れた。

黙々とメニューをこなす宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)黙々とメニューをこなす宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji宮澤はタイの魅力をこう評する。「タイには全てが揃っていて、中川さんのおかげで練習に集中しやすい環境が揃っている。『わざわざ時差があるところに行くなんて』と監督に心配されるけど、ただ走りやすいだけでなく、タイではレースを走るような環境から練習の環境まで作れる」。

ルッカを見下ろす山が宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)のトレーニング場所ルッカを見下ろす山が宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)のトレーニング場所 photo:Kei Tsujiイタリア帰国後、宮澤はベルギーレースで落車し、右大腿骨の付け根辺りを打った。トレーナーのピーノは宮澤のペダリングを見てすぐにその落車の影響を察し、整体師に電話をかけて治療のアポイントを取る。

まだ寒さの残るイタリアでトレーニングを続ける宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)まだ寒さの残るイタリアでトレーニングを続ける宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji「とりあえずヘント〜ウェベルヘム。落車の影響があるから出場は確定していないけど、出来れば出たい」と宮澤。予定では3月20日のドワーズ・ドア・フラーンデレン(1.HC)にも出場。その後、3月24日のヘント〜ウェベルヘム(UCIワールドツアー)、シルキュイ・シクリストサルト(2.1)、ブラバンツペイル(1.HC)、GPドナン(1.1)、ツアー・オブ・ターキー(2.HC)が控えている。

「これからレースが続くし、春先なので一番大事。春先に走れるところを見せておかないとチームに相手にされない。だからみんな春先は必死。結果がすべて。結果を出さないと終わり。結局のところ選手の評価は結果で決まる。シーズンの最後に『ではあなたは何をしたんですか』と聞かれた時に、どんなにアシストしていようが、結果で判断される」。プロ選手の厳しい世界がそこにある。

「チームが出場レースを選ぶ時に基準となるのは、選手のテストやタイムトライアルの数値。とくにうちのチームはその傾向が強い。だからチームメイトの中にはすごくタイムトライアルで頑張るのに、ロードレースでは全く動かない選手もいる。ファルネーゼの時の方がレースの内容で判断されていた気がする」。

サクソ・ティンコフ2年目。チームから求められていることの変化を聞くと、プロならではの言葉が返ってくる。「チームから期待されていることをするのは当たり前。それ以上のことをしないと生き残っていけない。チームが期待することは『チームから期待されていること以上のことをすること』。そうして初めて評価される。期待以上のことをして初めて次のステップに進める」。

宮澤は個人的に「宮澤道場 プロライド」という若手選手育成プロジェクトを立ち上げ、昨年7月〜8月には小橋勇利と西村大輝を1ヶ月間イタリアで走らせた。宮澤は今後も継続的に若手の育成に力を注ぎたいと言う。その熱のこもった言葉には、やけに説得力がある。

text&photo:Kei Tsuji in Lucca, Italia