2013年のUCIワールドツアー初戦ツアー・ダウンアンダーは、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)の圧倒的なスプリントによるステージ3勝目で幕を閉じた。スプリントポイントでのボーナスタイム争いが加熱した最終ステージの模様を振り返る。

今日も元気に出走サインする宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ)今日も元気に出走サインする宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsujiツアー・ダウンアンダー最終日は、恒例のアデレード市街地サーキットで行なわれるクリテリウムレース。街の中心部に敷設された4.5kmの周回コースを20周する。

途中、8周目と12周目にスプリントポイント、10周目と15周目の緩い坂の上にKOM(カテゴリー山岳)が設定されており、レース展開にスパイスを与える。

最終日まで生き残った128名がスタートを切る最終日まで生き残った128名がスタートを切る photo:Kei Tsuji前日の第5ステージでリーダージャージを獲得したトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)は、総合2位のハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)に対して13秒のリード。現実的に1位と2位の逆転は起こらないが、総合3位以下は混戦状態が続いている。

ベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)がメイン集団を引き続けるベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)がメイン集団を引き続ける photo:Kei Tsuji総合3位のベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック・レオパード)から4秒以内にヨン・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)、ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)、ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック・レオパード)の3名が続く。スプリントポイントでは1位3秒、2位2秒、3位1秒、ゴール地点では1位10秒、2位6秒、3位4秒のボーナスタイムが与えられるため、総合表彰台を懸けた闘いが加熱した。

最終ステージのスタートラインに並んだのは128名の選手たち。ジョナサン・キャントウェル(オーストラリア)のリードアウト役を担う宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)は、スタート前に「すごく緊張している」とため息まじりのコメント。スタートライン最前列でスタートを切った。

アタックに次ぐアタックで、レースはハイスピードで進行。しかしスカイプロサイクリングが徹底的に集団をコントロールし、逃げグループの先行を許さない。1週間にわたって集団を引き続けたベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)が、この日も集団先頭で風を受け続けた。

アデレードの大通りを駆けるアデレードの大通りを駆ける photo:Kei Tsuji


集団中程で走る宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ)集団中程で走る宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji8周目のスプリントポイントが近づくと逃げは吸収。スプリントポイントに向けてゴールスプリントさながらのトレインを組んだスカイが、総合5位のトーマスを解き放つ。エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)に発射されたトーマスが1位通過を果たし、ボーナスタイム3秒獲得で総合4位に浮上。総合3位ヘルマンスとの差を1秒に詰める。

ボーナスタイム獲得のためゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)がスプリントボーナスタイム獲得のためゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)がスプリント photo:Kei Tsuji「昨日は残念な結果に終わったけど、リザルトを見ると、まだ総合3位のチャンスが残されていることに気付いた。ただ諦めて全て投げ出すわけにはいかなかった。今日という最後のチャンスに懸けて、全開で攻めたんだ」と、トーマスは語る。

逃げグループを牽引するジョルダン・カービー(オーストラリア)逃げグループを牽引するジョルダン・カービー(オーストラリア) photo:Kei Tsuji続く12周目のスプリントポイントでも、同様に逃げを吸収したスカイトレインが猛進。イサギーレの総合順位を守りたいフアンホセ・ロバト(スペイン、エウスカルテル)が一矢報いたため、トーマスは3位通過に終わったが(ボアッソンハーゲンが1位通過)、同タイムで総合3位に浮上。規定により総合表彰台の座を掴んだ。

スカイによるボーナスタイム作戦が一段落すると、ジョルダン・カービー(オーストラリア、UniSAオーストラリア)、マルティン・コーラー(スイス、BMCレーシングチーム)、ビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)の3人逃げが始まる。

果敢な逃げを披露した20歳カービーが、沿道に集まった大勢の観客(主催者発表11万人)を沸かす。しかしスプリンターチームの勢いは止まらない。ゴールまで2周を残して逃げは吸収された。

宮澤はエーススプリンターのキャントウェルとともに集団前方へ。しかし残り1.5周のコーナーで前を走るキャントウェルが落車し、宮澤も衝突してしまう。宮澤はすぐにレースに復帰したものの、ペースが上がりきった集団の前方には上がれず。サクソ・ティンコフの最終スプリントは失敗に終わった。

スピードが上がり、縦に長く伸びる集団スピードが上がり、縦に長く伸びる集団 photo:Kei Tsuji


チームメイトたちと寄り添って走るアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)チームメイトたちと寄り添って走るアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji最終周回に入ると、スカイとロット・ベリソルのトレインが熾烈なハイスピードバトルを繰り広げる。ラスト2kmを切って主導権を得たのはロットトレイン。ルーランズ、ヘンダーソン、グライペル、ボアッソンハーゲン、レンショーの順で最終コーナーを抜けた。

グライペルの発進を待たずして、ゴールまで250mを残して後方のマーク・レンショー(オーストラリア、ブランコプロサイクリング)が真っ先にスプリントを開始する。

圧倒的なスプリント力で3勝目をマークしたアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)圧倒的なスプリント力で3勝目をマークしたアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji「彼ら(ロット・ベリソル)を驚かせたくて、早めに仕掛けた。そうしないと、いつも通りグライペルが完璧な形で勝ってしまう」とレンショーは早めの仕掛けについて説明する。

一躍先頭に出たレンショー。しかし、グライペルは落ち着いてタイミングを読み、付き位置のボアッソンハーゲンを引き離して加速する。レンショーを勢い良く追い抜いたグライペルが、またもその太い両腕を突き上げた。

胸元のチームロゴをアピールするアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)胸元のチームロゴをアピールするアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji今大会ステージ3勝目、初日のクリテリウムを合わせると4勝目。「キング・オブ・アデレード」と讃えられるグライペルは、相性の良いダウンアンダーで自身プロレース100勝目をマークした。

この日、あまりのスピードに、ステージ15位と16位の間に4秒差がついた。しっかり前の集団でゴールしたスラグテルは、片手を上げてゴール。23歳のオランダ人がUCIワールドツアーレース総合優勝を掴んだ。

総合表彰台、左から3位ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)、優勝トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)、2位ハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)総合表彰台、左から3位ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)、優勝トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)、2位ハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター) photo:Kei Tsuji表彰台でリーダージャージを受け取ったスラグテル。「とにかくブランコチームの1週間にわたる闘いを誇りに思う。またアデレードに戻ってきたいと思う。また、ここで最高のシーズンスタートを切りたい」。また一人、期待の若手オールラウンダーの才能が開花した。

総合2位はハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)がキープ。ステージ6位に入ったトーマスが総合3位でレースを終えた。

総合リーダーの座を失いながらも、ボーナスタイムによって総合表彰台に復帰したトーマスは「自分はスプリンターではなく、特に疲労した時はパンチ力に欠ける。チームメイトたちのリードアウトは完璧だったよ。エドヴァルドに発射されてポイントを稼いだ。チームとして完璧な一日だった」と、チームメイトに感謝する。スプリントポイントでボーナスタイムと同時にポイントを量産したトーマスは、1ポイント差でグライペルを下してポイント賞に輝いた。

宮澤はステージ70位でゴール。前回のゴールスプリントでキャントウェルとの連携に手応えを感じていただけに「めちゃくちゃ悔しい」と漏らす。ツアー・ダウンアンダー閉幕後、宮澤は一旦日本に帰国し、カタールに向かう。ツアー・オブ・カタール(2月3日〜8日)とツアー・オブ・オマーン(2月11日〜16日)に、日本代表チームの一員として出場する予定だ。


レースの模様はフォトギャラリーにて!

ツアー・ダウンアンダー2013第6ステージ結果
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)            1h52'59"
2位 マーク・レンショー(オーストラリア、ブランコプロサイクリング)
3位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)
4位 マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
5位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)
6位 ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)
7位 クラース・ロデウィック(ベルギー、BMCレーシングチーム)
8位 バリー・マルクス(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
9位 ヤウヘニ・フタロヴィッチ(ベラルーシ、アージェードゥーゼル)
10位 ケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
70位 宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ)                   +25"

個人総合成績
1位 トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)     18h28'32"
2位 ハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)                 +17"
3位 ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)           +25"
4位 ヨン・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)                +32"
5位 ベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック・レオパード)         +34"
6位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ブランコプロサイクリング)
7位 ゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)               +36"
8位 ダニエーレ・ピエトロポッリ(イタリア、ランプレ・メリダ)
9位 ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック・レオパード)       +38"
10位 ユッシ・ヴェッカネン(フィンランド、FDJ)                 +41"
96位 宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ)                  +23'57"

山岳賞
1位 ハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)                22pts
2位 ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、ブランコプロサイクリング)     20pts
3位 ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)          16pts

ポイント賞
1位 ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)          46pts
2位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)             45pts
3位 トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)      41pts

新人賞
1位 トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)     18h28'32"
2位 ヨン・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)                +32"
3位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ブランコプロサイクリング)        +34"

チーム総合成績
1位 レディオシャック・レオパード                      55h27'54"
2位 モビスター                                +1'09"
3位 ロット・ベリソル                             +4'00"

敢闘賞
ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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