どの選手にコメントを取っても、返ってくるのは「暑い」という言葉。最高気温が38度まで上がった1月24日、ツアー・ダウンアンダー第3ステージの登りスプリントで、23歳のトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)が勝利した。

メカニックのアレハンドロとファブリツィオ・グイディ監督、宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)メカニックのアレハンドロとファブリツィオ・グイディ監督、宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji「気温48度まで上がった先週と比べると、まだマシ」。とは言っても気温38度はなかなかの暑さ。スタート地点では選手たちが日焼け止めを厚塗りする。

ツアー・ダウンアンダー第3ステージは、内陸のスターリング周回コースにゴールする139km。アデレード市内をスタートしてから標高550mのKOMを駆け上がり、全長21km・標高差420mの周回コースに入る。

スタート直後のKOMでアタックが繰り返されるスタート直後のKOMでアタックが繰り返される photo:Kei Tsuji登りと下り、そしてコーナーが連続する周回コースを6周。獲得標高差は3000mオーバーで、登りの先にゴールが設定されている。

スタート直後、アデレードを見下ろす丘に向かうKOMで集団は活性化。一時的に20名ほどが集団を飛び出したが、KOM通過後に先頭は2人に。サイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)とウィリアム・クラーク(オーストラリア、アルゴス・シマノ)。2人のクラークが逃げを開始した。

逃げるサイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)とウィリアム・クラーク(オーストラリア、アルゴス・シマノ)逃げるサイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)とウィリアム・クラーク(オーストラリア、アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji昨年ブエルタ・ア・エスパーニャで山岳賞ジャージを獲得したサイモンは、メルボルン生まれの26歳。この日と同じスターリングの周回コースにゴールする昨年のステージで優勝し、ツアー・オブ・ジャパンプロローグでトップタイムを叩き出したウィリアムは、タスマニア生まれの27歳。

血縁関係のない2人のクラークは、メイン集団から3分のリードを得る。

メイン集団を徹底的にコントロールしたのはスカイプロサイクリング。リーダージャージのゲラント・トーマス(イギリス)はスプリントポイントを集団先頭で通過し、ボーナスタイム1秒を獲得することに成功している。

厳しい暑さとアップダウンの連続により、調子を落として脱落する選手が続出。ダブルクラークとメイン集団のタイム差が1分を切ると、集団先頭ではカウンターアタックがかかり始めた。

この日もベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)が長時間集団を牽引この日もベルンハルト・アイゼル(オーストリア、スカイプロサイクリング)が長時間集団を牽引 photo:Kei Tsuji
いくつもの丘を越えるスターリングの周回コースいくつもの丘を越えるスターリングの周回コース photo:Kei Tsujiスターリングの周回コースを走る選手たちスターリングの周回コースを走る選手たち photo:Kei Tsuji


クリスアンケル・セレンセン、ジョナサン・キャントウェル、宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)クリスアンケル・セレンセン、ジョナサン・キャントウェル、宮澤崇史(サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsujiカウンターアタックでメイン集団から飛び出し、先頭2名に合流したのはダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)、スティーブ・モラビート(スイス、BMCレーシングチーム)、アンドレイ・アマドール(コスタリカ、モビスター)、ボイ・ファンポッペル(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)、ティエリー・ウポン(フランス、アルゴス・シマノ)、ブリアン・ヴァントボルグ(デンマーク、キャノンデールプロサイクリング)の6名。こうして先頭は8名に再編成されたが、メイン集団とのタイム差は30秒で頭打ち。スカイの支配下に置かれた逃げは、最終周回で全て捉えられた。

チームメイトに守られて走るゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)チームメイトに守られて走るゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング) photo:Kei Tsuji最終周回に入ると、宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)がチームメイトを連れて集団前方へ。「今日はクリス(セレンセン)とジョニー(キャンウェル)の3人で固まって走っていた。最終周回で、スカイのすぐ後ろまで上がってチームメイトをサポート。ゴールに向かう最後の登りの手前でクリスが遅れていたので、前に連れて行って仕事を終えた」。

樹々に覆われた周回コースを行く樹々に覆われた周回コースを行く photo:Kei Tsuji他のチームメイトが遅れる中、セレンセンとキャントウェルを集団先頭に送り込むことに力を尽くした宮澤は6分36秒遅れでゴール。また、ゴールまで45kmを残して落車したチームメイトのティム・ダッガン(アメリカ)は鎖骨骨折でリタイアしている。

ゴールまで5kmを切ると、スカイが率いる集団からキャメロン・ウルフ(オーストラリア、キャノンデールプロサイクリング)やティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック・レオパード)らが意を決してアタック。しかしスピードの上がった集団を振り切ることは出来ない。

最終的に、ビッグスプリンターたちを振るい落とした30名ほどの集団がゴールへ。早めに仕掛けたスラグテルが、勢い良く追い上げるマシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)を振り切った。

「なんて美しい勝利。プロ初勝利としてこれ以上の勝利は無い。ラスト1kmでチームメイトのタナーが加速して僕を好位置まで引き上げてくれた。そしてラスト350mでスプリントを開始したんだ」。新人賞ジャージを着るスラグテルはゴール直後のインタビューで息を整えながら話す。

登りスプリントで勝利したトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)登りスプリントで勝利したトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング) photo:Kei Tsuji
リーダージャージのゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)はステージ4位リーダージャージのゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)はステージ4位 photo:Kei Tsuji仕事を終えてゴールする宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ)仕事を終えてゴールする宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ) photo:Kei Tsuji


ステージ優勝を飾ったトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)ステージ優勝を飾ったトムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング) photo:Kei Tsuji2010年にオランダU23チャンピオンに輝き、翌年ラボバンクでプロデビュー。昨年ツアー・オブ・オマーンで総合6位、ジロ・デ・イタリアのアッシジ頂上ゴールで7位という成績を残しているが、プロレースでの勝利はこれが初めて。

オランダ人としては小柄(169cm)な次世代オールラウンダーは、5秒差の総合2位にジャンプアップ。総合優勝候補に名乗りを挙げた。「新人賞のリードを広げることが出来たし、リーダージャージに近づくことが出来たので、とても満足だ。今日もボーナスタイムを懸けたバトルが起こったし、明日からも1秒たりとも無駄に出来ない闘いが続く」。

総合リーダー、ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)総合リーダー、ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング) photo:Kei Tsujiトーマスはステージ4位でボーナスタイム獲得を逃したが、総合リーダーの座はキープ。山岳賞とポイント賞でもトップだ。「今日は一日中、チームメイトがレースをコントロールしてくれた。本当に素晴らしかった。最後まで総合首位を守りたい。危険なのはTJスラグテルだけじゃなく、モビスターやレディオシャックの動きにも警戒しないといけない。これからは全てのスプリントポイントで勝負がかかると思う。そして(最終日前日の)ウィランガで全てが決まる」。

ツアー・ダウンアンダーも後半戦に突入。翌日のア第4ステージは、スプリンター向きの126.5km平坦コースが用意されている。


ツアー・ダウンアンダー2013第3ステージ結果
1位 トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)     3h36'46"
2位 マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) 
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)
4位 ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)
5位 ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)
6位 ハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)
7位 シモーネ・ポンツィ(イタリア、アスタナ)
8位 ダニエーレ・ピエトロポッリ(イタリア、ランプレ・メリダ)
9位 イヴァン・サンタロミータ(イタリア、BMCレーシングチーム)
10位 ヨン・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)
86位 宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ)                  +6'36"

個人総合成績
1位 ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)         9h56'17"
2位 トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)       +05"
3位 ハビエル・モレーノ(スペイン、モビスター)                 +06"
4位 ベン・ヘルマンス(ベルギー、レディオシャック・レオパード)         +08"
5位 ダニエーレ・ピエトロポッリ(イタリア、ランプレ・メリダ)          +15"
6位 ヨン・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)
7位 ゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)
8位 ジョージ・ベネット(ニュージーランド、レディオシャック・レオパード)
9位 ジャック・バウアー(ニュージーランド、ガーミン・シャープ)
10位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ブランコプロサイクリング)
83位 宮澤崇史(日本、サクソ・ティンコフ)                  +10'42"

山岳賞
ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)

ポイント賞
ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)

新人賞
トムイェルテ・スラグテル(オランダ、ブランコプロサイクリング)

チーム総合成績
レディオシャック・レオパード

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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