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「Gain everything and give up nothing」。つまり何も妥協していない。新世代のフレームをゼロから設計するにあたって、いくつもの先進テクノロジーが投入された。ここではテクノロジーの詳細、ならびに開発者でプロダクトマネージャーのベン・コーティス氏のインタビューをお伝えする。

Madone 7シリーズMadone 7シリーズ photo:Kei Tsuji

700シリーズOCLV

「Optimum Compaction Low Void」の略であるOCLVはトレックのお家芸であり、Madoneの顔だ。この高いカーボン技術無しにMadoneは成り立たない。モデルチェンジの度に進化を重ねる先進のカーボン技術だ。そのグレードに合わせ、重量と剛性、柔軟性のバランスを調整。予算や目的に合わせてシリーズを選択出来る。

今回、新型Madoneに採用されたのは700シリーズのOCLV。トレックのみ使用が許されている航空宇宙素材を用いた600シリーズと比較して、剛性や軽量性の点で更に上をいく。

階段状の接合部をもつトレック独自のステップジョイントテクノロジーにより、高い重量剛性を実現。フロントディレイラーのマウントからボトルマウント、前後のドロップアウトまで、全てのカーボンパーツをフレームと一体成形されている。この新素材と工法が、超軽量フレーム作りを可能にした。

700シリーズOCLVを採用700シリーズOCLVを採用 photo:Kei Tsujiトップチューブには7シリーズを示す7Sの文字トップチューブには7シリーズを示す7Sの文字 photo:Kei Tsuji

インテグレーテッドブレーキ

最も目を引く美しいシートステーを実現させたのが、BB後方に取り付けられたリアブレーキだ。トレック発案のもと、シマノと新規格のブレーキマウントを共同開発。新型デュラエース9000には、このダイレクトマウント方式を採用したBR9010ブレーキがラインナップされている。

完成車に装着されているボントレガー製ブレーキは、フォークやフレームに沿うエアロ形状が特徴的。前後ともに、ブレーキ本体の構成パーツの数を減らすことで、重量を約30%ダウンさせている。ブレーキアーチの開放は、ヘッドチューブのアウター固定部分に取り付けたダイヤルで行なうので問題ない。

軽量化を果たしたシートステー軽量化を果たしたシートステー photo:TREK新開発のインテグレーテッド・ブレーキ新開発のインテグレーテッド・ブレーキ photo:TREK

新規格ブレーキのアドバンテージとして、フレームの軽量化が挙げられる。シートステーのブリッジを省略することで、同部分の重量が大幅にダウン。ブレーキが装着されるBB後方は元来剛性のある部分なので、わざわざ強化する必要が無い。さらに、エアロダイナミクス性能の向上にも繋がっている。

KVFチューブシェイプ

TTバイクのスピードコンセプトに初めて採用されたKVF(Kammtail Virtual Foil)チューブが、新型Madoneにも採用されたことが大きなトピック。従来のエアロダイナミクスの考え方を覆す画期的なチューブ形状だ。新型Madoneのヘッドチューブからダウンチューブ、フォーク、シートチューブ、シートステーに至るまで、KVFチューブを採用した。

KVF(カムテイル・バーチャル・フォイル)採用の新設計フロントフォークKVF(カムテイル・バーチャル・フォイル)採用の新設計フロントフォーク photo:Kei Tsuji
KVFを採用した力強いダウンチューブKVFを採用した力強いダウンチューブ photo:Kei Tsuji
トップチューブから流れるようなラインでシートステーへトップチューブから流れるようなラインでシートステーへ photo:Kei Tsuji


翼断面の後部を切り落とした形状が「仮想テール」を作り出す。実際の走行シチュエーションに多い斜め方向からの気流をうまく整流し、ドラッグ(抵抗)を大幅に軽減する(前作比で330gのドラッグ軽減)。

つまり真正面からの風だけでなく、横風にも強い。仰角10度(斜め前)から風を受けながら40km/hで走るシチュエーションで、25Wのパワーをセーブするという。横幅のあるデザインが高い剛性に繋がり、レスポンス性やハンドリング性も優れる。

U5ベイパーコート

U5は、Under5の略。一般的なフレーム塗装重量が50〜80gであるのに対し、U5ベイパーコートの塗装重量はなんと5gを下回っている。これは今回初めて登場した塗装技術で、プロジェクトワンで選択可能。開発者曰く、当然フレームを保護するために必要充分な強度を保っている。

U5 Vapar coat(ベイパーコート)を採用したフレームは重量わずか750gU5 Vapar coat(ベイパーコート)を採用したフレームは重量わずか750g photo:Kei Tsuji

BB90&E2ヘッドチューブ

E2ヘッドチューブと、リリースの付いたリアブレーキケーブルE2ヘッドチューブと、リリースの付いたリアブレーキケーブル photo:Kei Tsuji引き続きMadoneは幅広のBB90を採用。高いカーボン技術により実現したこのシンプルなボトムブラケットが軽量性と剛性を同時に実現する。

ヘッドチューブは上がオーバーサイズ1 1/8、下が1 1/2のテーパード形状をもつE2で、前後から潰しが入った横扁平形状のE2アシンメトリック(非対称)フォークコラムが挿入される。

ロードバイク・プロダクトマネージャーのベン・コーティス氏Q&A

プロダクトマネージャーのベン・コーティス氏プロダクトマネージャーのベン・コーティス氏 photo:Kei Tsuji
開発にあたって主眼を置いた部分 目指したものとは?
新しいMadoneを初めて見た人は、真っ先にそのエアロダイナミクス性能に目が行くと思う。だが我々が目指したのはエアロダイナミクス性能に特化したバイクではなく、トータルバランスに優れたバイク。軽量で、エアロダイナミクス性能に優れ、剛性が高く、それでいて快適性が高いという欲張ったバイクを目指した。

4つのポイントについて妥協はしなかったと?
今まではそのうちのどれかを優先するあまり、その他の要素がないがしろにされてきた。実際にマーケットに出回っている他社のバイクを見ると、一つの要素で秀でていても、その他の要素が劣る。正直言って、風洞実験でMadoneより良い数値を叩き出したバイクもあった。でもそのバイクは重く、決して快適とは言えない。矛盾しているかも知れないけど、Madoneは全ての要素を高次元で達成している。早く実際に乗ってそれを実感して欲しい。何も妥協していない。

他社のバイクと「軽量性」「エアロダイナミクス性能」「剛性」「快適性」を比較他社のバイクと「軽量性」「エアロダイナミクス性能」「剛性」「快適性」を比較 photo:Kei Tsujiフレームにフィットするボントレガー製のインテグレーテッド・ブレーキを搭載フレームにフィットするボントレガー製のインテグレーテッド・ブレーキを搭載 photo:Kei Tsuji

U5 Vapor Coat以外のフレーム重量は?
塗料の重量が僅か5gというU5 Vapor Coatを選択した場合のフレーム重量が750g。プロジェクトワンで様々なペイントが選択出来るので一概には言えないが、その他のカラーだと概ね40〜50gプラスになる。それでも前モデルより遥かに軽い。

フロントフォークの重量は明記されていませんが?
一から設計し直したフロントフォークの重量は340g程度。前モデルと比べると、KVFを採用したため細くなっているように見えるかもしれない。でも数値として空気抵抗の軽減は証明されており、それでいて高い剛性も備えているのが事実だ。

リアブレーキをBB下部に配置したことで実現した美しいシートステーリアブレーキをBB下部に配置したことで実現した美しいシートステー photo:Kei Tsuji日本ではリアブレーキケーブルの取り回しが少し厄介では?
世界的に見ると、右手でリアブレーキを握る国が相対的に多い。こればかりは習慣なのでどうしようもなく、必然的にそうなった。でもケーブルのルーティングについては右であろうが左であろうが問題ない。実は自分も左手&リアブレーキ派だけど、角度が付いて引きが重くなるようなことはない。

トレック社がBB90に固執する理由は?
あまり大きな声では言えないけど、トレック社内でBB30やBB386などの規格に対応するフレームを同素材で製作し、テストを行なったんだ。その結果、BB90が最も高い剛性を示した。これは数値で証明されている。

リアブレーキの下部配置は新標準になりえる?
もしトレックが一人歩きで新規格を作ったのなら、1社だけの規格で広がりがなくなる。でも今回の規格はシマノと共同開発し、同社から新製品がリリースされたんだ。これで他社にも門戸は開かれた。その優位性を理解するメーカーは追従するだろう。でも、だからってすぐにこの新規格が広がるとは思っていない。低価格を追求してるシティーバイクに搭載するのはまだまだ先の話。

BBの下、障害物に接触しうる場所にバッテリーを設置することに抵抗は?
過去2年間、Di2は世界中のありとあらゆるシチュエーションで使用されてきたけど、何かに接触してバッテリーが破損したような例は聞いた事がない。実際にレディオシャック・ニッサンのメカニックからも同じようなことを言われた。その度に「問題ない。実際に問題ないのだから」と説明してきた。それに、あの場所が一番取り回しがいいんだ。シマノの新しい9000系Di2は内蔵バッテリーもラインナップに加わっていて、もちろんマドンにも搭載出来る。

実際、レディオシャック・ニッサンの選手たちの反応は?
レディオシャック・ニッサンの選手たちには早い段階からプロトタイプを見てもらっている。その度に興味深いコメントをもらった。最初は半信半疑の様子だったけど、風洞実験でパワーを25Wセーブ(仰角10度で40km/h走行時)できることを告げた時には彼らの目の色が変わったよ。毎日1Wでもパワーを上げようと奮闘している彼らには刺激的な数字だったようだ。

ツール・ド・フランス開幕を前に、Madone 7を組み上げるメカニックツール・ド・フランス開幕を前に、Madone 7を組み上げるメカニック photo:Kei Tsuji


次ページではライドインプレッション、ならびに実際ツール・ド・フランスで新型Madoneを駆るレディオシャック・ニッサンの選手たちの声を紹介する。
提供:トレックジャパン 編集:シクロワイアード / Kei Tsuji