「シャカリキ!」や「オーバードライブ」などの漫画に刺激を受けて自転車競技の道に進んだ選手は少なくない。

しかし「タッチ」の影響を受けて、趣味の自転車で全国大会出場を目指しすようになった高校生はそういないだろう。今回は、目標であるインターハイの枠に収まらず、歓喜と挫折を繰り返して世界を目指す彼の足跡を追う。

「選手としての転機」

2011年から宇都宮ブリッツェンに加入しました初山翔です。PanaracerのタイヤはTEAM NIPPO在籍時から使用しておりましたが、ホイールトークへの寄稿は今回が初めてです。

自分は今シーズンからU-23カテゴリーを終了し、エリートカテゴリーに上がります。ひとつの節目です。
そして個人的には活動環境が大きく変わるため、転機にも成り得ます。今回はその転機を迎えることになった過程と、その転機に対しての自分の考え方について書きたいと思います。

高校時代

自分が真剣に自転車に取り組むようになったのは高校1年の終わりでした。きっかけは漫画「タッチ」を読んだことでした。「全国大会出場」というものに強く憧れたのです。

そして趣味として遊んでいた自転車を、競技としてはじめたのでした。

「インターハイ出場」を目標に掲げたのですが、自分が通っていた高校には自転車部がありませんでした。 学校に「特例として、自分ひとりだけで"部"という形で活動させてくれないか?」と頼んだところ、素晴らしく理解のある先生との出会いもあり、快諾していただきました。ようやく目標に向かって練習できるようになったのです。

2006年 ツールドラビティビにて2006年 ツールドラビティビにて しかし自分が掲げた目標には、意外なほどに簡単に到達できました。

高校2年のときに県大会で2位、関東大会5位となり、インターハイ出場権を手に入れ、ツール・ド・東北の関東ブロック代表にも選出されました。

インターハイは怪我もあり、残念ながら思うようなレースはできませんでしたが、秋にはジュニアユース合宿にも参加させていただきました。

高校3年の時には全国大会入賞も果たし、日本代表として海外遠征も経験することができました。当時の自分の力は、まだまだ世界で通用するどころか、国内でもトップに立てていたわけではありません。

それでもこの海外遠征が自分に「プロになりたい」と思わせたのでした。

海外に憧れて

大学進学という道を捨てる決断を理解してくれた両親や、自分の身の周りで応援していただいている方々にも恵まれ、高校卒業後に選手になると決めました。
「本場ヨーロッパで走る」ということに対して盲目的に憧れていた自分だったのですが、高校卒業後すぐにヨーロッパに渡って選手活動をするということは簡単なことではなく、まずは、自転車を始めたころからお世話になっていた八王子にあるサイクルショップYOU CAN(ユーキャン)で実業団登録させていただくことになりました。

YOU CANのOBとして、畑中勇介先輩(シマノレーシング)や村山規英先輩(元ブリヂストンアンカー)が当時フランスでレース活動をしていたので、この頃は、彼らの話を聞くたびに、より一層強くヨーロッパに惹かれていきました。

アンダー23カテゴリー1年目を実業団登録選手として活動したのですが、初めて出場した実業団レースのときも胸が躍る思いだったのを覚えています。
本物のシマノやブリヂストン・アンカー、愛三工業、ミヤタレーシングなどといった国内トップ選手といきなり同じレースを走ることになったのです。訳もわからずただペダルを踏んでいました。

YOU CANの監督やコーチ、チームメイトの手助けもあって、BR-1(当時のトップカテゴリー)で最終局面まで先頭集団についていけるようになりました。その実業団レースでの走りを評価していただき、憧れであったヨーロッパ遠征の日本代表選手に選んでいただいたのです。

夢のヨーロッパ

2007年 夏季欧州遠征にて2007年 夏季欧州遠征にて photo(c):kinuyo この遠征ではフランスとイタリアのレースに参加することができました。

当然、自分が今まで走ったどのレースよりも、そのレベルは高いものでした。フランスのレースはあまり大きなレースではありませんでしたが、とにかく「もっとたくさんレースを走りたい!」と思いながら3日連続でレースに参加していたのを覚えています。

8月にも関わらず雨で10℃以下の天候のもと走ったレースも、とにかく楽しく感じました。

イタリアではUCIレースにも参加しました。かつて経験したことがないスピードでレースを走るということが、楽しくて仕方ありませんでした。イタリアで参加したレースは規模も大きく、格式の高い大変厳しいレースだったのですが、「世界のトップアマチュアと一緒にレースを走れる」ということが自分を奮い立たせました。

経験も実力もない自分でしたが、この高いモチベーションのお陰でひとつのレースでは上位に食い込むことができました。

その結果、その遠征でナショナルチーム監督を務めていた大門宏さんに「来年イタリアで走らないか?」と声をかけていただき、二つ返事で「はい!」と答えました。さらにはイタリアでの走りを高く評価していただき、アンダーカテゴリー1年目ながらにしてアンダー23カテゴリーの世界選手権日本代表にも選んでいただきました。

残念ながらレースのほうは機材トラブルでリタイヤに終わりましたが、エリートの選手たちとの共同生活や、世界選手権の「空気」を感じれたことは自分の経験のためにも大きな財産になりました。

2007年 GRAN PREMIO Bastianelliにて2007年 GRAN PREMIO Bastianelliにて photo(c):kinuyo

イタリアへ

世界選手権を経験した翌年、TEAM NIPPOの斡旋でイタリアに渡りました。滞在期間は、シーズンが始まる1ヶ月前の1月中旬からシーズンが終わる10月中旬まです。イタリアのアマチュアチームに3シーズン在籍しました。

現地チーム寮でイタリア人たちと共同生活を送り、日本人と関わることはまずありませんでした。インターネットが出来ないときも少なくなく、最初はイタリア人のチームメイトとコミニケーションすら取れず、日に日に白髪が増えていきました。

しかしながら良心的なチームメイトに恵まれ、少しずつコミニケーションを取れるようになり、帰国するころには毎日のように喧嘩するようになりました(笑)。今でもその元チームメイトとは連絡を取り合っています。
このように生活のほうは順調に慣れていきましたが、レースのほうはそう甘くはありませんでした。イタリアのアマチュア界は厳しいことで有名で、大きなチームはアマチュアとは思えないような財力があり、いい運営をしています。

東欧や南米にはイタリアでレースを走りたがっている強い選手がたくさんいるとよく聞きました。フランスのように細かくカテゴリー分けされていなくて、強い選手だけが生き残り、結果が思うように残せない選手はどんどん自転車を辞めていきます。

2010年 COPPA COLLI BLIANTEIにて2010年 COPPA COLLI BLIANTEIにて 日々参加するレースで優勝する選手は、すでにプロチームと契約を結んでいる選手たち。自分も前年度、イタリアのレースで好走できたことから少しの自信を持っていたのですが、その自信はあっという間に砕かれました。

春先のレースのスピードはまったく別物で、特に登りでのスピードは当時の自分には凄まじく感じました。

自分がいた地方は厳しいコースが多かったこともあり、レースで完走すらできないことも少なくありませんでした。その度に落ち込み、レースでいい走りが出来ると少し精神的に元気になるという繰り返しで、情緒不安定に近かったかもしれません。

文化として自転車競技というものが浸透しているイタリアは、選手たちの自転車競技に対しての考え方であったり捉え方が自分にとって斬新であり、大きく影響されました。イタリアにいた3年間は自分にとって一生の財産です。おそらく自転車を辞めたあとも財産として残ると思います。それだけ自分の人生において大きな出来事だったと思います。

選手としての転機

素晴らしい環境のもと3年間イタリアで選手活動させていただきましたが、自分の成績は順調には伸びていきませんでした。自分の成長のために一度大きく環境を変えようと思っていた時期に、栗村監督とお話する機会があり、宇都宮ブリッツェンに加入させていただくことになりました。

今季は今までとは大きく違った活動になると思いますが、これまでの経験が無駄にはならないとも確信しています。さらにあまり経験しておらず、慣れていない活動もこれからあると思いますが、それも選手としても人間としても成長するために貴重な勉強になると思っています。

宇都宮ブリッツェンの目標は決して簡単な目標ではありません。しかし、他チームが持っていない「自転車を通しての町おこし」というチームの最終目標と、選手個人個人が持つ目標がシェアできる部分が多いからこそ、選手が皆やりがいを感じ、苦しみながらも日々努力していけるんだと感じています。

「国内主要レースで結果を残す。周りに選手として認めてもらう」という自分個人の目標と、宇都宮ブリッツェンの目標も、重ね合わせることが出来る部分が多いと思います。

まずは自分というスパイスで宇都宮ブリッツェンの印象を少しでも向上させたいです。そして、「もう一度ヨーロッパへいきたい」という身の程知らずの目標を持ちながら、新しいシーズンに向けて準備しています。

そして、選手の一番の自己主張の場であるレースで、思う存分に自分を出したいと思います。

大門監督にも「もう一度海外で走る環境を手に入れるチャンスはあるぞ。」というお言葉をいただきました。

2011年 宇都宮ブリッツェン新体制発表記者会見にて(写真右前から2番目)2011年 宇都宮ブリッツェン新体制発表記者会見にて(写真右前から2番目) photo(c):Tatsuya.Sakamoto/STUDIO NOUTIS
まずは今年、赤いジャージとともに宇都宮の町を大きく盛り上げたいと思っています。宇都宮ブリッツェンの選手たちは今、高い意識とともに新しいシーズンに向けて準備しています。どうか暖かい目で見守っていただければ.....と思います。

宇都宮ブリッツェンと初山翔へのご声援、よろしくお願いします!


プロフィール
Photo(c):Utsunomiya Britzen
初山 翔 はつやま しょう
1988年8月17日(22歳)
神奈川県相模原市出身

高校生から本格的に自転車競技の道を進み、2007年には 世界選手権ロードレースのU23日本代表に選ばれたオールラウンダー。

“世界で最も厳しい”と言われるイタリアのU23カテゴリーで3年間の経験を積み、2011年宇都宮ブリッツェンへ。久々の日本でのレース活動であり、大好きな椎名林檎を聞きながら、「初山ここにありき」の走りを目指す。
Panaracer 「ファイア クロス」
パナレーサー ファイアクロスパナレーサー ファイアクロス (c)Panaracer 生産中止となっていた「ファイアクロス」が復活。これは、昨年開催されたサイクルモードにおいて、「細身の29er用ブロックタイヤが無いので、是非とも復活させて欲しい」との声が多数寄せられたため。

オフロードを堪能するには2.35などの太目のサイズが好まれるが、アプローチが長い里山ツーリングなどでは細くて軽いブロックタイヤがベストバランスと言えよう。

オールラウンドに使える名品「ファイアXCプロ」のトレッドパターンを採用し、サイズは細身の700×45Cでアラミドビードを採用した軽量タイヤとなっている。

商品名 Panaracer FIRE CROSS
サイズ 700×45C
ビード アラミド
重量 600g(ave)
税込参考価格 6,180円

製品情報:パナレーサーの29erMTBタイヤ ファイアクロスが復活
ソール・ソジャサン ニュース
ツール・ド・フランス2011 ワイルドカード獲得
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ツール・メディテラネアン(UCI2.1)
第1ステージ 2位 ローラン・マンジェル選手(ソール・ソジャサン)
第4ステージ 4位 ジェレミー・ギャラン選手(ソール・ソジャサン)

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ブエルタ・ア・アンダルシア(UCI2.1)
第1ステージ 優勝 ジミー・アングルヴァン選手(ソール・ソジャサン)
第2ステージ 優勝 ジョナタン・イヴェール選手(ソール・ソジャサン)
第4ステージ 2位 ジミー・アングルヴァン選手(ソール・ソジャサン)
第5ステージ 3位 ジョナタン・イヴェール選手(ソール・ソジャサン)
個人総合 4位 ジェローム・コッペル選手(ソール・ソジャサン)

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Panaracerサポート選手の注目リザルト
ジロ・ディ・レッジョカラブリア(UCI2.1) 第1ステージ
第1ステージ 4位、個人総合 5位 フォルトゥナート・バリアーニ選手(ダンジェロアンティヌッチィ・NIPPO)
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アジア選手権2011
エリート女子個人TT 4位、エリート女子ロードレース 10位 上野みなみ選手(鹿屋体育大学)
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トロフェオ・ライグエリア(UCI1.1)
6位 フォルトゥナート・バリアーニ選手(ダンジェロアンティヌッチィ・NIPPO)
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明治神宮外苑大学クリテリウム2011
グループ1(大学対抗) 優勝 吉田隼人選手(鹿屋体育大学)
グループ2       優勝 山本元喜選手(鹿屋体育大学)
女子 2位       近藤美子選手(鹿屋体育大学)

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Wenger Patagonian Expedition Race(アドベンチャーレース)
5位 Team EAST WIND(田中正人、田中陽希、倉田文裕、和木香織利)
東京マラソン2011(車イス陸上)
男子優勝 副島正純選手(C's Athlete)
女子優勝 土田和歌子選手(サノフィ・アベンティス)
IPC 陸上競技世界選手権(ニュージーランド/車イス陸上)
マラソン 金メダル、1500m 銅メダル 土田和歌子選手(サノフィ・アベンティス)
Panaracerサポートチーム情報
ダンジェロ アンティヌッチィ・株式会社NIPPO
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提供:パナソニック ポリテクノロジー株式会社