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なぜパーソナルマッチングなのか

販売企画部 田代恭崇さん販売企画部 田代恭崇さん Photo: Hitoshi.OMAE 先頃引退した販売企画部の田代恭崇さんが現役だった時代(当時ブリヂストン・アンカー)に話は遡る。全日本チャンピオンも経験していた田代さんだが、実はアンカー・カーボンの剛性感や寸法がどうしても合わず、自社のラインナップにない自転車に乗ってレースに出ていた時代があったという。田代さんはなんと、オーダーメイドしたアルミフレームに乗っていたというのだ。

設計部の中西安弘さんはこう話す。「最も重要なのは、ライディングポジション」。しかしカーボンという素材の性質上、金型が必要なため、ジオメトリーをオーダーメイドできないのは仕方がない、というのが近年の常識だった。確かにカーボンは優れている。しかしそこには、ポジションを妥協しなければならないというジレンマもあった。自社のチームのエースが、自社のラインナップに乗ることができないという、大きなジレンマが…。

国内レースのレベルアップ、そしてライダーのレベルアップにつれて、既製品では選手の個別の要求に対応することが難しくなってきた。既製品のフレームジオメトリーが先にあって、ライディングポジションはそれに後から合わせるというのが現在の状況だった。

設計部 中西安弘さん設計部 中西安弘さん Photo: Hitoshi.OMAE それは本当に正しいのか? いや、「最も重要なのは、ライディングポジション」だ。その後で、ポジションに合わせたフレームジオメトリーを考えたい。それがRMZの、パーソナルマッチングの出発点だ。

データを取れば取るほど、各々の選手の気に入るフレーム剛性は違うものだった。一定水準の速さが求められる選手クラスでも違うのだから、一般のライダーはなおさらだろう。○○選手が好むフレームと、□□選手が好むフレームとは違うのだ。そのどちらもがレースで成績の出る、優秀なフレームだとすれば…。

「剛性も個別に対応するしかない」

従来もスチールフレームの分野では、ごく少数の職人によるジオメトリーの個別対応が行われてきた。しかし、メーカーがこういったオーダーメイドに参入するのは極めて異例。しかも、「ジオメトリーのみならず、剛性パターンも個別に合わせる」という大胆かつ、困難なパーソナルマッチングをコンセプトに掲げたRMZは、世界初といっていい。

次世代のオーダーメイド自転車、それがアンカーの提案するRMZの全体像だ。

アンカー・RMZとフィッティングマシンアンカー・RMZとフィッティングマシン Photo: Hitoshi.OMAE

RMZのテクノロジー

フレームを設計するにあたって、アンカーのフラッグシップに最先端の理論を投入するのは当然のことだったチューブとラグにはハイモジュラスカーボンを使用し、部位ごとの特性に応じて積層を変えたものを製作している。

チューブには最適形状理論に基づいた設計がなされ、トップチューブやダウンチューブ、シートチューブはそれぞれ特徴的な形状を持つことになった。しかも、それぞれのチューブは剛性のオーダーに対応するために、カーボンの積層設計を変更した数種類のものがサイズ毎に用意され、これらの組み合わせによって数十種類の剛性パターンを作り出すことが可能となった。その中から適切な組み合わせのみが選択され、アンカーが推奨する7パターンの剛性が生み出されるのだ。

ヘッド一体ラグヘッド一体ラグ RHM9で採用されたアンカーのアイデンティティ、ドラゴンクローヘッドが、このRMZのデザインにも生かされる。もちろんジオメトリーに合わせるために多くの種類のカーボンラグが用意される。Photo: Hitoshi.OMAE シートラグシートラグ トップチューブ、シートチューブ、そしてシートステイを結ぶ要であるシートラグ。幅広いジオメトリーに対応するため、かなりの数のカーボンラグが金型から起こされた。Photo: Hitoshi.OMAE

ヘッドラグ、シートラグ、ハンガーラグ。ジオメトリーのオーダーに対応するには、それぞれ角度の異なったラグが必要となる。そのため、ドラゴンクローヘッドをはじめとするハイモジュラスカーボンを使用したラグはかなりの種類が用意された。ラグ接着で作られるRMZは、寸法調整、剛性調整を可能にしつつ、十分軽量なフレームに仕上がる。重量はRHM9と同等のジオメトリーで1100g(490mm相当)。数十種類ものチューブとラグが用意されたことにより、日本人に合わせた150〜185センチまでの身長に対応するフレームが制作可能だ。

RMZのターゲットは「レース」。そこでフォークのブレードはストレートにデザインされた。選手が重視する、「剛性」と「軽さ」に最も重きを置いたこのモデルには、高剛性を得るためのストレートブレードを採用。また、操縦性の好みやサイズに応じた4種類のオフセットも用意した。上がオーバーサイズ(1-1/8)、下がスーパーオーバーサイズ(1-1/4)のテーパーヘッドとなっており、さらなる剛性の向上が図られている。

インテグラルシートポストインテグラルシートポスト カーボンの性能を最大限に生かすために採用されたインテグラルシートポスト。シートチューブをカットした後も約15mmの調整幅を持つ。Photo: Hitoshi.OMAE フロントフォークフロントフォーク ストレート形状の新型フォークは、スーパーオーバーサイズへ大口径化された。もちろんハイモジュラスカーボンを使ったモノコックフォーク。オフセットは4 種類が用意される。Photo: Hitoshi.OMAE

アンカーラボから生まれたフィッティングシステム

アンカーラボは、歴代のチームブリヂストン・アンカーの選手たちの膨大なフィジカルデータを蓄積してきた。10年間に及ぶこのデータは、選手たちのパフォーマンス、ライディングポジションやジオメトリーなど、多岐に渡る。そしてもちろん、RMZが提案する剛性バランスの提案にも生かされているのだ。

しかし、誰もがアンカーラボに来てオーダーすることは不可能だ。それなら…。ショップ店頭でRMZのオーダーを実現するために、特別なフィッティングマシンと、フィッティングソフト"アンカーフィッティングシステム"が開発された。このシステムが導入されるアンカーフィッティングショップはいわば「出張アンカーラボ」となるのだ。

アンカーフィッティングマシンアンカーフィッティングマシン ハンドル高やステム長、サドル高やクランク長などを変えることができるアンカーフィッティングマシンは、3段階の負荷を持ち、心拍を測定してワット数を算出する機能も持つ“ミニ・アンカーラボ”。まるで高性能なトレーニングマシンのようだ。Photo: Hitoshi.OMAE トレーニングにも使えるほどしっかりとつくられたこのマシンはスゴイ! ハンドル+ステムの高さ、前後位置の調整機能がつき、ハンドル幅は380-400-420mmへと可変する、スライドハンドルだ。さらに必要ならハンドルバーをユーザーのものに交換してのフィッティングも可能だ。

サドル位置ももちろん高さと前後位置が移動でき、そしてサドルをユーザーのものに交換しての測定が可能だ。クランク長もペダル取付部で165-167.5-170-172.5-175mmへと可変するように作られており、ペダリング負荷も8段階に可変、このときの心拍を測定して推定有酸素パワーの測定機能も備えている。

この、心拍と出力を測定できる機能、そして"アンカーフィッティングシステム"により、ユーザーの「推定有酸素パワー」が算出される。ここでは最大酸素摂取量(Vo2 max)も計算され、トップ選手に比べてのユーザーの有酸素パワーや、年代別でユーザーがどのレベルにあるかも算出される。"アンカーフィッティングシステム"を利用すれば、ポジションの変化にともなう出力の違いまでも調べることができそうだ。

フィッティングマシンのサドル部分フィッティングマシンのサドル部分 ミリ単位で前後位置、高さの調整が可能だ。Photo: Hitoshi.OMAE フィッティングマシンのハンドル周りフィッティングマシンのハンドル周り 心拍数などのデータを集約するコンピューターと、調整機能を備えたハンドルとステムが装着されている。Photo: Hitoshi.OMAE

つまり、Webサイト上に置かれたこの専用ソフト"アンカーフィッティングシステム"に、希望する操作性などのアンケート、股下などの採寸データ、そしてフィッティングマシンで得た寸法データ、剛性選択テスト(有酸素能力測定)等を入力することで、個人に合わせた推奨フレームジオメトリー、推奨剛性を提案してくれる、それがRMZのオーダーシステムなのだ。



次回は「RMZオーダーの手順を大公開!」と称して、アンカーフィッティングシステムの全貌をお見せします。
お楽しみに!

提供:ブリヂストンサイクル株式会社 企画/制作:シクロワイアード