生まれ故郷であるフランス、マニクールサーキットでデビューを果たしたPROPEL DISC。本章では、「確実にライバル製品よりも高い性能をマークしている」と開発陣が自信を持つ、その類まれなる各種性能をデータを用いて紹介していきたい。

空力スペシャリスト集団との共同開発:テーマは「徹底的な現実世界の再現」

PROPEL DISCに使われたAeroSystemシェイプを解説するニクソン・ファン氏PROPEL DISCに使われたAeroSystemシェイプを解説するニクソン・ファン氏 (c)GIANT/Sterling Lorence
宿泊先ともなったシャトーホテルで新型PROPEL DISCの発表会が行われた後、バスに1時間ほど揺られて到着したのが2008年までF1フランスGPが開催されてきた国際サーキット、マニクール(サーキット・デ・ヌヴェール・マニ=クール)。PROPEL DISCが生み出された風洞実験施設「ACE(Aero Concept Engineering)」を実際に稼働させ、デモ実験の様子を見学することができた。なおメディアがこの施設に立ち入ることは、ごく稀のことだという。

航空宇宙分野やレーシングカーの開発に主眼を置くACEだが、ジャイアントを筆頭にラピエールやビアンキ、ルック、コリマといった各ブランドとも関わりを持つ上、サンウェブ、エフデジ、クイックステップフロアーズなどプロチームに対して選手のTTポジション改善を手掛けるなど、ロードバイクに対する見地も非常に広く深いのだ。

元プロ選手を形取った可動マネキンを乗せることで、より現実世界に近い状況を作り出してテストを行った元プロ選手を形取った可動マネキンを乗せることで、より現実世界に近い状況を作り出してテストを行った (c)GIANT/Sterling Lorence
デモ実験を解説する、ACEのザビエ氏。写真はヨー角30°でテストを行っている段階デモ実験を解説する、ACEのザビエ氏。写真はヨー角30°でテストを行っている段階 (c)GIANT/Sterling Lorence空気抵抗が増しそうに見えるディスクブレーキだが、実際はほとんど影響が無い空気抵抗が増しそうに見えるディスクブレーキだが、実際はほとんど影響が無い (c)GIANT/Sterling Lorence

「開発当初は私自身、空力性能を向上させる上でディスクブレーキは難しいんじゃないか、と考えた。でも開発を重ねるにつれて、リムブレーキよりもディスクブレーキの方がより綺麗な空気の流れを作り出せると確証を得たんだ」とは、話を聞いた開発陣の一人。前章にも記したが、フォーク先端部分は回転しているホイールによって風が掻き乱されているため、ブレーキの有無は特に影響しない。加えてフォーククラウンからブレーキを取り去ることでヘッドチューブ周辺にスムーズな空気の流れを生み出せるため、結果的にトータルでの性能向上が図られる。ディスクブレーキこそ速さ。それがジャイアントとACEが導き出した答えだ。

コンピュータ上では300通り以上のCFD解析を用いて形状を絞り込み、実際に数種類の金属製プロトタイプを制作し、風洞実験に臨んだ。その試行錯誤は先代の開発期間よりもずっと長く、3年(先代は2年ほど)にも及んだという。

その上で常に意識されたのが、実際の走行で想定されるシチュエーションをできる限り再現しテストを行った、という点だ。実際には、かつてラボバンクでプロとして走り、現在はロットNLユンボのコーチを務めるグリシャ・ニアマン(オランダ)とそっくり同じ体型の可動マネキンを作成したり、現実に起こりうるヨー角0〜30°の範囲から横風を当てたりと、現実のライディング環境により近い状態でのシミュレーションを重ねてきた。

風洞実験に供されたPROPEL DISCのアルミモックアップ。金属製の理由は40kgの可動マネキンを乗せるため風洞実験に供されたPROPEL DISCのアルミモックアップ。金属製の理由は40kgの可動マネキンを乗せるため (c)GIANT/Sterling Lorenceモックアップのダウンチューブに開けられていたボトルケージ用のボルト穴。最適なボトル位置を探った痕跡だモックアップのダウンチューブに開けられていたボトルケージ用のボルト穴。最適なボトル位置を探った痕跡だ

トム・ドゥムラン(オランダ、サンウェブ)と共同開発したというエアロヘルメットのプロトタイプトム・ドゥムラン(オランダ、サンウェブ)と共同開発したというエアロヘルメットのプロトタイプ 研究室の壁に掛けられていたレーシングカーの開発風景。ACEは自動車や航空宇宙関連の開発を主眼に置いている研究室の壁に掛けられていたレーシングカーの開発風景。ACEは自動車や航空宇宙関連の開発を主眼に置いている

もう一つ、PROPEL DISCの開発に追い風を吹かせたのが、近年ジャイアントがラインアップ増強を図るオリジナルホイールの存在だ。フレーム単体だけでなく、空力性能を大きく左右するホイールをPROPEL DISCに合わせて専用設計することで更なる飛躍を見たのだ。例えばダウンチューブと、ダウンチューブに接するリム+タイヤを一体のものとして捉え、トータルで風を受け流すべく設計する(そしてここにもAeroSystemシェイプが用いられている)発想は、オールインワンで開発できるブランドだからこその強みだろう。

例えばスペシャライズドや、リドレーが中心となってベルギー・フランダース地方に誕生したバイクバレーなど、自社で風洞を構える企業も増えてきた。ただしその運用には空力を知り尽くし、弾き出された数値を製品に落とし込むスペシャリストの存在が必要不可欠であり、そこにこそジャイアントがACEとタッグを組む理由がある。先代PROPELの開発から始まり、TTバイクのTRINITYや、PURSUIT、RIVETといったエアロヘルメットも、ACEとのコラボレーションの下に生まれたものだ。


他にもエアロと剛性、メンテナンス性を両立させるハンドルシステム「CONTACT SLR AERO」の採用や、極限まで煮詰めたというリアホイールとシートチューブのクリアランスなど、各部分の作り込みは非常に緻密。専用クランクや専用ボトルの製作もアイディアこそあったが、プロ選手の使い勝手を踏まえて現実には至らなかったという。何から何までPROPEL DISCは”リアル”ありきなのだ。

オールラウンダーとして追求した走行性能

単にエアロダイナミクスを追求したいのなら、TTバイクで良い。先代からPROPELは空力のみならず、上りや下りも含めロードバイクに必要な走行性能も同時に追い求めており、それはモデルチェンジを経ても変わらないキーワード。フレームに奢られる素材はジャイアント最高峰のADVANCED SLカーボンで変更ないが、その中身や積層も大幅にアップデートされているという。

軽さについてもフレームやフォーク、ハンドルシステム、各種クランプやキャップ類をトータルとして考えれば、ディスクブレーキ化したにも関わらず先代から+45gで抑えている。ライバルモデル3車種との比較では2位に甘んじているが、北米メジャーブランドの2モデルよりも圧倒的に軽いのだ。

ライバル製品との重量比較。新型PROPEL DISCはトータルで優秀な値をマークしているライバル製品との重量比較。新型PROPEL DISCはトータルで優秀な値をマークしている (c)GIANT
フレーム+フォークの剛性値。並み居るライバルを抑えてトップだフレーム+フォークの剛性値。並み居るライバルを抑えてトップだ (c)GIANT
重量剛性比でもPROPEL DISCはトップ。優れたオールラウンダーとしての性能を示している重量剛性比でもPROPEL DISCはトップ。優れたオールラウンダーとしての性能を示している (c)GIANT
剛性比較実験ではドイツの自転車雑誌「TOUR」の指標を用い、Mサイズでの比較を行ったところ、フレーム+フォークの剛性値は152.54NM/°でトップ。これらのデータを掛け合わせた重量剛性値でもライバルブランドの追随を許さない。「ここで出している数値は何にも水増ししていない本当の数値。ジャイアントのデータはリアル」と開発陣は念を押す。

供給されたばかりのPROPEL DISCでスプリントに加わるマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)供給されたばかりのPROPEL DISCでスプリントに加わるマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ) photo:Tim de Waele / TDWsport
マイヨヴェールを獲得したマイケル・マシューズ(サンウェブ)マイヨヴェールを獲得したマイケル・マシューズ(サンウェブ) photo:Makoto.AYANO
そうして生まれたPROPEL DISCは、7月のツール・ド・フランスでサンウェブチームに引き渡され、スプリンターのマイケル・マシューズ(オーストラリア)が愛用し、マイヨヴェール(ポイント賞)獲得を強力に支えた。

まだPROPEL DISCの量産体制やコンポーネントの供給が追いついていなかったため現在はマシューズのみが使うが、来シーズンは開幕戦から大量投入される見込みだという。スプリンターはもちろん、ジロ・デ・イタリアと世界選手権個人タイムトライアルを制したトム・ドゥムラン(オランダ)のスピードを更に光らせる武器として、よりPROPEL DISCが注目を集めることは間違いない。
text:So.Isobe photo:GIANT/Sterling Lorence,So.Isobe,
提供:ジャイアント・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部