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「ようやく」という言葉が一番的を射ているだろうか。ホイールブランドとして老舗中の老舗であるマヴィックが遂にリリースしたフルカーボンクリンチャーホイールが、「Cosmic Pro Carbon SL C」と「Ksyrium Pro Carbon SL C」。今回はマヴィックホイールを実戦で使うマトリックスパワータグの土井雪広と佐野淳哉のインプレッションを併せ、2ぺージに渡ってそのフィロソフィーと実力にフォーカスを当てていく。

登りの厳しい伊豆大島での2016年全日本選手権ロードレース。Ksyrium Pro Carbonを選択した土井雪広(マトリックス・パワータグ)登りの厳しい伊豆大島での2016年全日本選手権ロードレース。Ksyrium Pro Carbonを選択した土井雪広(マトリックス・パワータグ) photo:Makoto.AYANO

マヴィック初のフルカーボンクリンチャーホイール、登場

かつては軽量かつ高剛性のアルミリムを、1996年には世界初の完組ホイール「Helium(ヘリウム)」を、1999年にはリム、ハブ、スポークが完全なる専用設計を持つ「Ksyrium(キシリウム)」をリリースするなど、ロードバイクホイールの歴史に多くのマイルストーンを打ち立ててきたフランスのマヴィック社。

だがしかし、ここ最近のフルカーボンクリンチャーホイールブームの波に対しては慎重な姿勢を見せていたことは事実。2013年にデビューしたCosmic Carbon 40Cも耐久性向上のためブレーキ面内側にアルミの芯を入れ込んだものであり、本当の意味でのカーボンクリンチャーホイールは存在していなかった。ファンにとって、その登場は長く待ち望まれてきたものだったのである。

エタップ・ド・ツールでメンテナンスサービスを展開するマヴィックのスタッフエタップ・ド・ツールでメンテナンスサービスを展開するマヴィックのスタッフ photo:Manabu.Kawaguchiマヴィックのホイールで闘うキャノンデール・ドラパック。写真はジャパンカップ2016を制したダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア)マヴィックのホイールで闘うキャノンデール・ドラパック。写真はジャパンカップ2016を制したダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア) photo:Makoto.AYANOその理由について、アメアスポーツジャパンのマヴィックチームを率いる中根信吾さんは次のように語る。

「フルカーボンクリンチャーホイールに対して慎重になっていたのは、その危うさを他のどのブランドよりも現場で体感していたからです。ツール・ド・フランスに併せてフランスの超級山岳を走るホビーイベント”エタップ・ド・ツール”ではプロレースと同じくイエローのサポート部隊「SSC/スペシャルサービスコース」が同行するのですが、2015年に発生した100の対応案件中、じつに38件が熱によるカーボンリム破損が原因でした。

クリンチャーホイールはその構造上、タイヤの内圧やブレーキの圧力、そして発熱など想像以上の負荷が掛かります。それらアクシデントを間近に見ているからこそ、マヴィックは安全面への基準が図抜けて高く、開発が長期間に及びました」。

しかし、より軽さを求める上で、そしてユーザーのニーズに応える上で、フルカーボンクリンチャーホイールは欠かせないものだった。そこでマヴィックは専門開発チームを組んで研究に着手した。

UCIワールドツアーチームのキャノンデール・ドラパックの選手たちからのフィードバックや、ここ最近におけるカーボンテクノロジーの進化も手伝ったことで、数年を要してマヴィックが求めるレベルの信頼性を、カーボン積層の工夫によって実現したという。そしてCosmicとKsyriumの、ふたつのPro Carbon SL Cホイールが誕生した。

マヴィック Ksyrium Pro Carbon SL Cマヴィック Ksyrium Pro Carbon SL C (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
マヴィック Cosmic Pro Carbon SL Cマヴィック Cosmic Pro Carbon SL C (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
そして今回はもう一つ安全を担保するテクノロジーが新導入されている。それが既存のTgMAXを進化させた「iTgMax」と名付けられた特許技術だ。これはレーザーでブレーキ当たり面のレジンを焼き付け耐熱性を向上させたものであり、これによってリム表面温度が200℃まで上昇した場合でもフェードを起こさず、安定した制動力を生み出すことが可能になった。もちろんウェット時の喰いつき力に関してもお墨付きだ。

そうして信頼性を確保した後は、走行性能の追求へ。「最長距離を最速で駆け抜けるために」というスローガンのもと、硬すぎず、しなやかさのあるフィーリングになるように、3KカーボンファイバーとUDカーボンファイバーの組み合わせで40パターンもの試作品を製作してテスト。流行のワイドタイヤに対応しつつ、登りでのプッシュ感、下りコーナーでの捻れの少なさといった項目を徹底的に煮詰め、その中から製品版が選び出された。

ブレーキ面にレーザーを照射してレジンを焼き付け、耐熱性を向上させたiTgMax処理ブレーキ面にレーザーを照射してレジンを焼き付け、耐熱性を向上させたiTgMax処理
キシリウムは25mmハイトで400gのリムを採用するキシリウムは25mmハイトで400gのリムを採用する コスミックは40mmハイトで450gのリムを採用コスミックは40mmハイトで450gのリムを採用

Pro Carbon SL C(クリンチャー)と名付けられた今回のフルカーボンクリンチャーホイール。リムハイトの違いによって名称が分けられており、25mmハイトが「Ksyrium Pro Carbon SL C」、40mmハイトが「Cosmic Pro Carbon SL C」と、それぞれマヴィック伝統のラインナップに属する形に。リム重量は25mmが400g、40mmが450g。同じ40mmハイトのCosmic Carbon 40Cと比較すると、アルミベッドを省いたことで100g以上の軽量化を行いながら(ワイドリム化しているにも関わらず)、同等以上の対荷重性能を有するに至っている。

Instant Drive 360が搭載されたリアハブ。駆動側ラジアル、反駆動側がクロス組となるISOPULSE組を採用するInstant Drive 360が搭載されたリアハブ。駆動側ラジアル、反駆動側がクロス組となるISOPULSE組を採用する Instant Drive 360のコアとなるラチェットInstant Drive 360のコアとなるラチェット

加えてリアハブの駆動システムも刷新されており、新たに導入された「Instant Drive 360」は従来の2枚爪に代わり、ラチェット2枚を組み合わせる。これにより面同士で噛み合わせるためパワー伝達効率がより高くなっているほか、マヴィックの持ち味である整備性も維持されており、スプロケットを装着したままフリーを脱着できる機構や、ニップルを外出し式としていることで、注油やスポークテンション調整が行いやすい。

スプロケットを外さなくともフリーを外すことができるスプロケットを外さなくともフリーを外すことができる コスミックはよりコンパクト形状のニップルを使用するコスミックはよりコンパクト形状のニップルを使用する

リアハブは駆動側ラジアル、反駆動側がクロス組となるISOPULSE組を採用するリアハブは駆動側ラジアル、反駆動側がクロス組となるISOPULSE組を採用する タイヤはYKSION PRO GRIPLINK(フロント)/POWERLINK(リア)がセットされるタイヤはYKSION PRO GRIPLINK(フロント)/POWERLINK(リア)がセットされる

長きにわたる沈黙を破り、マヴィックが送り出した初のフルカーボンクリンチャーホイール、Cosmic&Ksyrium Pro Carbon SL C。安全を絶対条件に、さらに扱いやすさや高い駆動効率、整備性の高さなどを徹底的に追い求めた姿勢は、ただ「フルカーボンクリンチャーを発売しましたよ」という事実を生むためにあらず。ホイールブランドの老舗としての気概をフル投入した、渾身の一作に仕上げられているのだ。

Pro Carbon SL C スペック

マヴィック Ksyrium Pro Carbon SL C

タイヤタイプクリンチャー
リムフルカーボン(iTgMax)
フリーボディinstant drive 360
スポークステンレス(Isopulse組み)
重量1,390g(前後ペア)
付属タイヤマヴィック YKSION PRO GRIPLINK(フロント)/POWERLINK(リア)
タイヤサイズ700x25C
税別価格フロント 135,000円、リア 145,000円、ペア280,000円

マヴィック Cosmic Pro Carbon SL C

タイヤタイプクリンチャー
リムフルカーボン(iTgMax)
フリーボディinstant drive 360
スポークステンレス(Isopulse組み)
重量1,450g(前後ペア)
付属タイヤマヴィック YKSION PRO GRIPLINK(フロント)/POWERLINK(リア)
タイヤサイズ700x25C
税別価格フロント 155,000円、リア 165,000円、ペア320,000円


次ぺージでは、マトリックスパワータグの土井雪広と佐野淳哉によるインプレッションを紹介する。
提供:アメアスポーツジャパン 制作:シクロワイアード編集部