CONTENTS
前編で解説したCosmic Pro Carbon SL CとKsyrium Pro Carbon SL Cを、全日本ロードチャンピオン経験者であるふたり、マトリックスパワータグの土井雪広と佐野淳哉がインプレッション。プロ選手の目線から注目を集める両モデルのテストを行った。なお、マヴィックは両選手が所属するマトリックスパワータグにホイール等の機材サポートを行うことでフィードバックを得てきた。マヴィックのホイールを知り尽くした2人が、その経験値をもって2つの新型ホイールを乗り比べた。

選手プロフィール

マトリックスパワータグに所属する全日本王者経験者の二人、佐野淳哉(左)と土井雪広(右)がインプレッションマトリックスパワータグに所属する全日本王者経験者の二人、佐野淳哉(左)と土井雪広(右)がインプレッション
佐野淳哉
1982年静岡県生まれの32歳。大学時代に自転車同好会へ入会したことをきっかけに競技の道へと進み、2005年にブリヂストン・アンカーでプロ入り。翌年にチーム・バンへと加入したことでヨーロッパ挑戦の道を開く。NIPPOそしてヴィーニファンティーニに所属し欧州トップレースを走る。2013年には不調に陥ったものの、再起を賭けて加入した那須ブラーゼンで2014年の全日本ロードチャンピオンに輝く。パワーと独走力、持久力が持ち味。2016年からマトリックスパワータグ所属。

土井雪広
1983年山形県出身の33歳。幼少時代はアルペンスキー競技をメインスポーツとして行い、その夏のオフトレーニングの一環として自転車と出会う。大学時代に学生のロードレースタイトルを全て獲得し、2005年にシマノメモリーコープでプロデビュー。2011年にはブエルタ・ア・エスパーニャに日本人として初出場し、2012年に全日本選手権制覇。2013年からは国内に活動の場を移し、現在はマトリックスパワータグに所属している。

Cosmic Pro Carbon SL C

「ぐいぐいと加速してくれる。アップダウンコースで高速巡航する際にベスト」

土井:今回初めてCosmic Pro Carbon SL Cを試しましたが、とても扱いやすいことに驚きました。正直、テストする前は少し重たそうだな、と考えていたのですが、良い意味で裏切られましたね。アルチメイトほど剛性が強くないことで絶妙なマイルドさがあるため、一般の方でもニュートラルに扱うことができるはずです。好き嫌いがあまり出ない、誰でも「良いホイールだね」と評価される製品だと感じました。チューブラーバージョンの走りはどうなんだろう?とワクワクさせてくれますね。

「アベレージスピードを高く保ったまま、ワインディングを駆け抜けたい方にお勧め」「アベレージスピードを高く保ったまま、ワインディングを駆け抜けたい方にお勧め」
佐野:同じく使った際の軽いフィーリングが印象的でした。私の場合、80kgと体重があるので軽量ホイールではヨレてしまうことがあるのですが、このCosmic Pro Carbon SL Cはその心配は杞憂で、ドカンとパワーを掛けても上手く推進力に繋げてくれました。さすがに富士あざみラインのような長い急勾配は不得意ですが、力で押し切れる緩いアップダウンならば十分に対応できますし、ホイールに伸びがあるため、パワーで踏んでいく走り方にマッチします。

土井:個人的に大好きなクルマで例えると、アルチメイトがサーキット用ピュアレーシングカーだとしたら、Cosmic Pro Carbon SL Cは峠のワインディングを楽しめる、高性能サスペンションが入ったスポーツカー。剛性の芯がしっかりとしているのに、おそらくスポークテンションが良い具合にしなりを生み出していて、とても操縦しやすいんです。アルチメイトは硬く軽いため、とにかく反応性は高いものの、乗りこなすにはそれ相応の脚力やテクニックが求められますから。

「峠を越えながらも高速で走る場面が多いレースには最適。逃げから独走に持ち込む展開にも」「峠を越えながらも高速で走る場面が多いレースには最適。逃げから独走に持ち込む展開にも」 剛性としなりのバランスが良く、走らせていて安定感が強く扱いやすい剛性としなりのバランスが良く、走らせていて安定感が強く扱いやすい


佐野:ワイドタイヤに合わせてリムも幅広となっていますが、25cくらいの太さのタイヤはある程度のスピードに乗せてからこそメリットが生まれるもの。だから40mmハイトを持つこのホイールとは走行性能においてもマッチングが良いと思います。今は私も練習からレースを含めてほとんど25cですから、評価できる部分です。それからブレーキ性能がとても優秀でした。自分の体重でもしっかりと止まるし、フェードも起きづらいように思います。

「大きなパワーを掛けてもヨレずに推進力に繋げてくれる。25Cタイヤとの相性も良い」(写真のモデルは試乗用テストホイールの特別グラフィック)「大きなパワーを掛けてもヨレずに推進力に繋げてくれる。25Cタイヤとの相性も良い」(写真のモデルは試乗用テストホイールの特別グラフィック) 土井:どの部分においても優秀なホイールですが、あえて厳しく評価するならば、平地でのスピード維持だけが他の項目に対してやや落ちるかもしれません。リム外周が軽いためか、単純な巡行性能ならばアルミ+カーボン仕様のCosmic Pro Carbon Exalithの方が高く、45km/h以上の速度域になると踏み続けなければならないように感じます。もちろん軽さはアップダウンでの武器になりますし、登りと下りが繰り返されるロードレースでの巡行性を考えるならば、こちらの方が良い。そういう意味でもリアルなレーシング機材だと言えますね。

佐野:例えばツール・ド・北海道のような、峠を越えながらも高速で走る場面が多いレースには最適かもしれませんね。少人数の逃げグループからアタックして独走に持ち込むときに使いたい。パワーで押し切る上りなら登坂距離を問いませんし、群馬CSCのようなスピードコースにも向いていると感じます。広島の中央森林公園コースだったら何とかOKで、修善寺の日本CSCだとやや重量が気になる。そんなイメージでしょうか。ただ、やはりパワーの出せる方向けだと感じますので、一般ユーザーの場合はKsyrium Pro Carbon SL Cが合う状況も多くあるでしょう。

土井:ある程度脚力のある方、レース志向のある方にこそベストマッチするホイールですね。ただし衝撃吸収能力も高いため、長距離ロングライドや凹凸のある路面で使っても相性は悪くないと感じます。アベレージスピードを高く保ったまま、ワインディングを速く駆け抜けたい方にお勧めしたいですね。

Ksyrium Pro Carbon SL C

「バランスチャートにしたら、綺麗な五角形が描ける」

土井:Ksyrium Pro Carbonは夏頃からチームに供給されており、そこから練習やレースでかなり乗り込んできました。非常に軽いホイールですので、そこを重視して伊豆大島の全日本選手権でもチョイスしました。今回試したクリンチャーモデルはその構造が影響しているのか、チューブラーバージョンよりも少し乗り味が硬く感じます。性能的には不得意箇所が全くなく、バランスチャートに記入するとしたら、綺麗な五角形が描けますね。

「ケイデンス重視で走る方に向いている。全体的な性能バランスが良い」「ケイデンス重視で走る方に向いている。全体的な性能バランスが良い」
「長い距離をマイペースで、でも時々ペースを上げて走ったりするには最適」「長い距離をマイペースで、でも時々ペースを上げて走ったりするには最適」 佐野:土井選手が言うようにクリンチャーモデルの方が少し硬いように思いますね。Cosmicに比べればリムハイトが低く軽量であるため、パワーを掛けてダンシングするとたわみを感じるものの、全体的な取り回しの軽さは優秀です。フラットコースでの巡行も、長い上りのヒルクライムでもそつなく使えてしまうので、どんな状況でも万遍なく使えるカーボンホイールを探している方には非常に良いですね。

土井:基本性能が高いからこそ言える部分ですが、リムハイトからくる違いのせいか、踏み込んだ時のバネ感はCosmic Pro Carbon SL Cが高く、Ksyrium Pro Carbon SL Cはもう少しゴチっとしたイメージ。タメが少なく挙動がクイックですので、コーナーでの挙動は若干オーバーステア気味です。すぐに慣れてしまう範疇ですが、Cosmic Pro Carbon SL Cと乗り比べると性格の違いは感じました。

佐野:ギアを掛けていくより、ケイデンス重視で走る方に向いているホイールだと言えます。形状によるクセや横風の影響が少ないことを考えると、ビギナーにはKsyrium Pro Carbon SL Cが向いているでしょう。巡行性能はCosmic Pro Carbon SL Cに分がありますが、集団内で走る分には何ら不都合無く、脚が売り切れてしまった時などにも、より進んでくれるのはこちらですね。

土井:総合的に、扱いやすいカーボンホイールという意味では評価できます。ロングライドに出かけたり、長い距離をマイペースで、でも時々ペースを上げて走ったりするには最適だと感じます。Cosmic Pro Carbon SL C同様のシステムなのでブレーキタッチも制動力も高く、高速域から一気に減速する場合でもまったく不安はありませんでした。

「総合的な性能はどちらも高く、味付けでキャラクター分けされている」

「ブレーキは制動力・コントロール性共に群を抜いて秀逸です」「ブレーキは制動力・コントロール性共に群を抜いて秀逸です」 「攻撃力のあるCosmic Pro Carbon SL C、万遍なく使えるKsyrium Pro Carbon SL」「攻撃力のあるCosmic Pro Carbon SL C、万遍なく使えるKsyrium Pro Carbon SL」 土井:今回試した2本ともに共通することですが、どこかに弱点があるわけではなく、総合的な性能はどちらも高い。味付けの範疇でキャラクター分けがされているのかなと感じます。レースペースで攻撃力があるのはCosmic Pro Carbon SL Cで、より万遍なく使えるのはKsyrium Pro Carbon SLです。

佐野:Cosmic Pro Carbon SL Cの持つ、踏んだ時にグイグイ前に出る加速感は気に入りましたね。Ksyrium Pro Carbon SLは低速域でのスパッと伸びる印象が強く、特に勾配のキツいヒルクライムでは良いでしょうね。基本設計が同じなのに、ハイトの違いでそれぞれキャラが立っていると感じます。

土井:先述しましたが、リムハイトの違いによってハンドリングにも差があります。Cosmic Pro Carbon SL Cは弱アンダーで、Ksyrium Pro Carbon SLはややオーバーステア。選手として個人的にはCosmic Pro Carbon SL Cが好みですが、どちらも扱いやすさに関して合格点を付けて良いでしょうね。

佐野:どちらもブレーキングがかなり優秀であることも高評価でしょう。一般的なカーボンホイールと比べれば雲泥の差があると思いますし、エグザリット加工を施したアルミリム並みに制動力が高いのは安心感があります。純正のシューは減りが早いのですが、そこは安全性を担保する部分ですので納得できます。

「総合的な性能はどちらも高く、味付けでキャラクター分けされている。マヴィック製品に共通する安心感も高い」「総合的な性能はどちらも高く、味付けでキャラクター分けされている。マヴィック製品に共通する安心感も高い」
土井:経験上、マヴィックのホイールはとにかく頑丈で長持ちすることが持ち味で、未だ高校生レースなどでは15年以上前のホイールが平気で使われていたりするんです。誰が乗っても良さを感じ、かつ壊れにくい部分にトヨタ車のような安心感を感じますね。安心安全で、少なくとも10年は使えるのがマヴィック。フルカーボンクリンチャーというマヴィックにとって新しい分野ですが、実際に使ってみても、そんな安心感を感じる製品でした。

提供:アメアスポーツジャパン 制作:シクロワイアード編集部