「ライダーファースト・エンジニアード」によって人馬一体を実現したレースマシン

S-Works Tarmac Dura-AceS-Works Tarmac Dura-Ace
2014年の春、全世界同時中継のもとでデビューした新型S-Works Tarmac。一見すると、前作たる「SL4」からはほとんど変更が無いかのようにみえるほどオーソドックスなルックスを持つ新モデルは、その実大幅な進化を遂げていた。その中核となるのは「ライダーファースト・エンジニアード」というコンセプト。この考え方により、Tarmacはそれまでのモデルとは大幅に違う方向へと舵を切ったのである。

少し歴史を振り返ろう。2003年にアルミ/カーボンハイブリッド製の初代モデルが発表されてから一つ前のモデルとなる「SL4」まで、Tarmacはおおよそ3年毎に4回のモデルチェンジを行ってきた。特に目覚ましい進化を遂げたのは、世界最強チームの1つであるクイックステップへのサポートから得たフィードバックを基に開発された3代目の「SL2」からと言えよう。ダウンチューブ、BB、チェーンステーに圧倒的なボリュームを持たせることで剛性を追求し、プロの要求に応える反応性を得たバイクは高い評価を得るに至った。

フロントフォークはかなりシンプルなストレート形状となっている。もちろんサイズごとにオフセットは変更されているフロントフォークはかなりシンプルなストレート形状となっている。もちろんサイズごとにオフセットは変更されている 複雑に変化するシートチューブの形状。剛性が必要となる下半分はスクエア形状に、上側は丸形状になっている。複雑に変化するシートチューブの形状。剛性が必要となる下半分はスクエア形状に、上側は丸形状になっている。 非常にすっきりとした形にまとまったリア三角非常にすっきりとした形にまとまったリア三角

その後、Tarmacは代を重ねるたびに、より軽く、より高剛性にという、ある意味レースバイクとしては非常に分かりやすい方向性に進化を遂げてきた。レースを主目的とするシリアスライダーにとって、その進化は好ましいものであり、プロレースの現場で成績を残すのと比例するかのように、真剣に競技に取り組むアマチュアライダーの間でもTarmacは勝利のための機材として、その立ち位置を固めてきた。

しかし、一方で軽量で小柄なライダーを中心に「Tarmacは良いんだけれども、硬すぎる」「とても乗りこなせると思えない」という声が聞かれ始めるようになったのもまた同じ時期である。車体を構成するチューブの長さが短くなる小さいサイズでは、設計意図よりも硬い乗り味となってしまい、絶対的パワーが低い小柄なライダーにとっては、持て余し気味になってしまうことが多かった。

異なるフレームサイズに合わせて最適なヘッドパーツを採用する異なるフレームサイズに合わせて最適なヘッドパーツを採用する リアブレーキワイヤーも脚にあたらず、かつ、スムーズな引きを実現するように考えられている。リアブレーキワイヤーも脚にあたらず、かつ、スムーズな引きを実現するように考えられている。

そういった問題を解決すべく、スペシャライズドが提唱したコンセプトが冒頭の「ライダーファースト・エンジニアード」である。やみくもに剛性や重量といった数値を追うのではなく、ライダーの声を聞き、エンジニアとの密接なやりとりをもとに製品を開発していくという手法により、3年の歳月を費やして開発された新型Tarmac。

もっとも大きな特徴は、サイズごとに専用の設計を行っているという点。以前のスペシャライズドは、56サイズを基本として、チューブ径のコントロールで乗り味を均一化しようと試みてきた。しかし、新型Tarmacでは、49~64の7つのフレームサイズに対し、それぞれ異なる設計および開発を行った。


滑らかなリアエンド周りの造形滑らかなリアエンド周りの造形
すっきりとしたBB周辺 セラミックスピードのベアリングが標準装備されるすっきりとしたBB周辺 セラミックスピードのベアリングが標準装備される
シートピラーは一本締めのシンプルなものを採用するシートピラーは一本締めのシンプルなものを採用する

7つのフレームに対し、体格やタイプの異なるテストライダーによる実走テストを繰り返し、それぞれのフレームへの入力データを計測することで、フレームサイズごとに最適な剛性や加速性、振動吸収性、路面追従性の目標値を設定。その値を満たすように各々のフレームが開発・設計されている。

結果として生まれた7つのフレームは同じ「Tarmac」でありながら、あらゆる箇所が異なる7種類のバイクとして完成した。もっとも分かりやすいのは、サイズによってヘッド下部のベアリング径までもが異なるという点だろう。サイズによって、フォークオフセットを調整するメーカーが良心的とされる業界において、ここまで真摯な設計をされてきたモデルは無かっただろう。

あらゆるライダーにフィットするように設計された新型Tarmac。その実力は、昨年春にデビューして以来、既にグランツールを4回制し、世界選手権を2連覇しているという実績が全てを物語っている。続く2016年シーズンでも、勝利を量産し続けることは間違いないはずだ。

インプレッション

レーサーの枠を超えた真のオールラウンダー 走る愉しさを味わうなら間違いない一台

「人間の感性に寄り添う様なフィーリングを実現している」井上寿(ストラーダバイシクルズ)「人間の感性に寄り添う様なフィーリングを実現している」井上寿(ストラーダバイシクルズ)
井上:全てにおいて角が取れた、扱いやすさが光るバイクですね。どんな脚力レベルの人が乗っても、必ず満足できると自信を持っておすすめ出来るバイクではないでしょうか。オールラウンダーという位置づけですが、まさにその通りの乗り味で、このバイクが苦手とするような場面が思いつきません。

小川:個人的にも所有しているのですが、同じような感想です(笑)このバイクの一番の強みは、路面追従性の高さだと思いますね。路面やバイクの状態が掴みやすく、的確なハンドリングを持っているので安心して乗っていられるんですよ。安心感があるといっても、どっしりとした乗り味というわけではなくて、非常に軽快。ダンシングでバイクを振ってもとっても軽いので、ついついダンシングしたくなります。

井上:僕は大柄で体重もあるので、基本的に登りは不得手なんですが、このバイクなら「登りも楽しいな」と思わせてくれる。パワーがある人がバイクをこじりながらグイグイと登っていくような場面でもしっかりとパワーを受け止めてくれます。

「体重があるので登りは苦手なんですけど、Tarmacだったら登りも楽しく感じられる」「体重があるので登りは苦手なんですけど、Tarmacだったら登りも楽しく感じられる」 「試乗会でも、『どれが一番良かった?』と聞いたらTarmacは真っ先に候補に挙がってくるバイクです」「試乗会でも、『どれが一番良かった?』と聞いたらTarmacは真っ先に候補に挙がってくるバイクです」

小川:剛性感という面で言えば、SL4までのような「剛性の塊」という方向性からは一転して、バネ感がある乗り味になっています。入力したパワーを一旦溜めてからスピードが伸びていくような感覚がありますね。

井上:そのバネ感がTarmacの大きな魅力です。人間の感性に寄り添う様なフィーリングを実現している。平坦区間を35km/hくらいで走っていても、まるでサスペンションのプログレッシブ効果が働いているのか?というような、脚を停めていても加速するような感覚がありました。他のバイクであれば、「このあたりで踏み直さないとな」と思うところでも、スピードが落ちずに勝手に前に進んでいくんです。

「自転車で走ること、それ自体の快感を求めるのであれば、Tarmacは最高の選択肢になる」小川了士(ZING² FUKUOKA-IWAI 店長)「自転車で走ること、それ自体の快感を求めるのであれば、Tarmacは最高の選択肢になる」小川了士(ZING² FUKUOKA-IWAI 店長) 小川:スプリントでも、もうそろそろ足が一杯だ!と思ったもう一段階先に限界があるような、独特の伸びを感じます。良く、ギア一枚軽いという表現を使いますが、Tarmacはまさにその通りのバイクで、「こんなに高いギア比踏んでいたのか!」と驚くことがあるほどです。

井上:下りなどでもとても安心して身を任せることができます。私は85kgと、かなり体重がある方ですが、ブレーキングでもフォークが負けるようなこともなく、しっかりとライダーを支えてくれます。

小川:逆に体重が軽い私にとっても気持ちよく下れるバイクです。軽量ライダーだと下りのギャップなどで車体が跳ねやすいですが、Tarmacに乗っているとまるで路面に吸いついているかの様な走行感があります。トラクションのかかりやすさが活きている印象ですね。倒していくことに不安が無く、結果として下りがとても楽しいバイクになっています。

井上:あとですね、実はインプレ中に少しグラベルに迷い込んでしまって(笑)意外に思われるかもしれませんが、不整地でもとてもよく走るんです。これにはかなり驚かされました。Tarmacなのに、そこまで得意でいいのかと逆に不安になってしまいました。

小川:やはり、トラクションが良くかかるんですよ。これはフレームはもちろんなんですけれど、アッセンブルされているホイールもかなり良い仕事をしていると思います。硬すぎず、柔らかすぎず、とてもニュートラルなホイールなのですが、Tarmacの持つ性能にピタリとハマっている。フレームだけではなく、ホイールやタイヤといったコンポーネントを開発し、バイクをトータルで設計できるスペシャライズならではの強みだと言えるでしょうね。

Tarmacという名前だが、不整地でも良く走るTarmacという名前だが、不整地でも良く走る
井上:Tarmac、Roubaix、Venge ViASと3台のバイクがあって、そのなかでTarmacはクライミング中心のオールラウンドレーサーという位置づけにあるので、どうしてもロードレース用なんでしょ?という目線で見てしまいがちです。でも、実際に乗ってみればそういったカテゴライズに留まらない本当の「オールラウンド」な性能を持っていることが体感できると思います。

小川:ゆっくり走っても良いし、もちろん速く走っても気持ち良いんですよね。自転車で走ること、それ自体の快感を求めるのであれば、Tarmacは最高の選択肢になると思います。
提供:スペシャライズド・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部