圧倒的な悪路走行性能を身につけた快速レーサー

ピナレロ DOGMA K8-Sピナレロ DOGMA K8-S
2015年の春、世界のロードバイクジャーナリストやファンの度肝を抜いたバイクがピナレロからデビューした。「DOGMA K8-S」と名乗るそれは、前半分こそ通常のドグマだが、リアバックは従来のピナレロと一線を画すもの。「DSS1.0」と呼ばれるシートステーに設けられたサスペンションシステムを装備し、ブラドレー・ウィギンズがチームスカイのメンバーとして最後に臨んだパリ〜ルーベに更なる話題を巻き起こした。

ピナレロのパリ〜ルーベ/グランフォンド用バイクの歴史は、2011年に登場したKOBH60.1に端を発する。誕生の理由はチームスカイからの「北のクラシックのためにドグマのSUV版を作って欲しい」というリクエストであり、ドグマKと名を変え、各部をマイナーチェンジしながらも振動吸収性に優れたハイエンドレースバイクとして確固たる地位を築いてきた。それが2016年、先にデビューしていたドグマF8の兄弟モデルとしてフルモデルチェンジを図ったのだ。

リアサスペンションの重量はわずか95g。フレーム単体でも990gと軽量だリアサスペンションの重量はわずか95g。フレーム単体でも990gと軽量だ ダウンチューブに入るK8-Sのロゴ。フラットバックと呼ばれるエアロ形状が特徴だダウンチューブに入るK8-Sのロゴ。フラットバックと呼ばれるエアロ形状が特徴だ

駆動側FLEXSTAYSを横から見る。非常に扁平かつ曲線を多用したフォルムだ駆動側FLEXSTAYSを横から見る。非常に扁平かつ曲線を多用したフォルムだ 板バネの様な設計によって10mmもの変形を可能としたFLEXSTAYS板バネの様な設計によって10mmもの変形を可能としたFLEXSTAYS

K8-Sはサスペンションを投入したことが話題だが、パリ〜ルーベの歴史で見れば、スチールバイク全盛期の時代にフロントサスペンションを投入したものはあった。しかしカーボンバイクが市場の大部分を占めた現在では、エストラマーやカーボン成形・形状を工夫して振動吸収性を高めたモノに取って代わっていた。先代のドグマKがそうだったように。

もちろんこの機構は物珍しさゆえに取り入れられたモノではなく、チームスカイを勝たせるための「攻めの選択」であることは間違いない事実。重量増を防ぐためにサスペンションは徹底的な軽量化が図られ、重量はわずかに95gをマークする。板バネの様な設計によって10mmもの変形を可能としたチェーンステー「FLEXSTAYS」を組み合わせることで快適性を増し、過酷なフランドルクラシックへの対応力を一気に引き上げたのだ。

内蔵式シートポストクランプのネジの本数はDOGMA F8より1本多い3本に内蔵式シートポストクランプのネジの本数はDOGMA F8より1本多い3本に 強固なヘッドチューブ周辺の造形を見る。フロントエリアはDOGMA F8と共通だ強固なヘッドチューブ周辺の造形を見る。フロントエリアはDOGMA F8と共通だ

また、リアブレーキにはピナレロのロードバイクとしては初となる、シートステー取付けタイプのダイレクトマウントを採用し制動力を強化。内蔵式シートポストクランプのネジの本数を、DOGMA F8より1本多い3本とする(サイズ46.5以下はクランプボルト2本式)ことにより、高い固定力を確保。トラブルを未然に防ぐ、より堅実性の高い造りとなっている。幅広タイヤへの対応も言わずもがなだ。

大きなアップデートが加えられたリア三角に対して、フロント三角及びフォークはDOGMA F8を踏襲。卵形断面の後ろ半分を切り落としたような形状の「Flatback」チューブ、ブレーキキャリパーやボトルが生む空気抵抗を最小限に留めるようなフレーム形状、緩やかな曲線を描きつつ前方から見た際の車輪とのクリアランスが非常に大きなフォークブレードなど、ジャガーとの共同開発により実現した優れた空力特性を受け継いだ。素材もDOGMA F8と同じく、優れた剛性、強度、振動吸収性を兼ね備え、自転車業界においてはピナレロのみ使用が許されているという東レの最新カーボン「T1100-1K CARBON Nanoalloy」としている。

緩やかなアーチを描くシートステー緩やかなアーチを描くシートステー ピナレロのお家芸である左右非対称形状が目立つリアバックピナレロのお家芸である左右非対称形状が目立つリアバック 特徴的なONDA F8フロントフォークを継続して使用する特徴的なONDA F8フロントフォークを継続して使用する

結果、先代のDOGMA Kに対して悪路でのパフォーマンスを4.5%、ライダーの快適性を50%向上させることに成功。一方でDOGMA F8に対する重量増は最低限に抑えられており、フレーム単体では990gだ。

DOGMA K8-Sはチームスカイによって北のクラシックで投入され、選手たちの走りを大きく支えたことは紛れもない事実。それだけではなく、過酷なステージが3週間にも渡って続くグランツアーでは、アシスト選手が体力を温存する目的としてもこのバイクを選択したという事実もある。これらが証明するのはDOGMA K8-Sの高い戦闘力であり、決して単なるアイディア製品や快適性オンリーのバイクにあらず、という事実だ。

インプレッション

シャープ&スムーズ 疲労が溜まりづらいから耐久レースやロングランにも

「非常にスムーズな走り心地。F8のシャープさもしっかりと活きている」「非常にスムーズな走り心地。F8のシャープさもしっかりと活きている」
三宅:非常に楽、という言葉がぴったり当てはまるバイクです。後ろからの突き上げをここまでカットするとこんなに楽に走れるんだな、と驚きました。フロントは通常のドグマF8と同じく振動をそれなりに伝えてくるのですが、試乗コースの荒れた路面でも、普通の道と同じようなペダリングが可能です。ですから路面を問わず踏み続ける必要のあるパリ〜ルーベのような場面では大きな武器になるでしょうね。加速性や切り返しの速さはドグマのままですから、より対応する幅が広いと言えます。

鈴木:通常モデルと比較すれば、スプリントのようにダンシングで踏み込んだ場合、反応性は少し落ちる。でもそれを補って余りあるだけのスムーズさが特徴です。非常に滑らかで乗りやすく、全く違うフレームなのかな?と思うほど。重量増も全く気になりませんし、F8の良さをスポイルしないまま、このスムーズな乗り味を出しているあたりはさすがですね。路面の突き上げも、出力もバラつきもカバーしてくれるので安心ですね。

「凹凸をいなすので、全ての動作において神経質になる必要が無い」「凹凸をいなすので、全ての動作において神経質になる必要が無い」 三宅:乗り味としてはF8 DISKよりもF8寄りでシャープなテイストです。路面の凹凸をいなしてくれる部分が安定感に繋がっているため、全ての動作において神経質になる必要がありません。それでもBBを中心とした下回りはF8と同じく硬さがあって、グランフォンドやツーリング向きではなく、あくまでレーシングマシン。勝ちを狙うレーサーとしての乗り味が光りますね。

鈴木:短時間のスピードの掛かりや、俊敏性に限ればF8に軍配が上がります。正直言えば日本にパリ〜ルーベのような荒れた石畳はありません。でも山間部には荒れた路面もありますし、100km、200km、300kmと距離を重ねていけば疲労も溜まります。その中でこのK8-Sのメリットは少なくないと思うんです。本当に乗りやすいですね。舗装路を短時間乗っただけで分かりましたから、ロングライドに連れ出してみたいと感じます。

三宅:レース機材として見た場合も同様ですね。短距離レースであればF8が適していますが、ツール・ド・おきなわ210kmや耐久レースでの完走を目指すような場面では力をどれだけ残せるかが勝負です。そう言った場面ではK8-Sが有利に立つでしょうね。

鈴木:ロードバイクにサスペンションを搭載するあたり、ピナレロのオリジナリティが浮き彫りになりますよね。でもそれを破綻させることなく性能に繋げ、プロレースでも使えるレベルまで押し上げているのは感服です。

「荒れた路面でも、普通の道と同じようにペダリングができる」「荒れた路面でも、普通の道と同じようにペダリングができる」
三宅:アッセンブリーとしては、比較的乗り心地の良いカーボンチューブラーホイールをセットしてみたいですね。リムハイトが35mmや40mmであれば、対F8で少しマイルドな加速性や軽やかさをシャープに演出できるでしょう。ボーラ35などはいかがでしょうか。価格は驚くほど高価ですが、乗りやすさと走行性能のバランスはピカイチですね。自転車を何台か乗り継いで、面白いバイクが欲しい方には合っているのではないでしょうか。

鈴木:快適性を損なわずロードレーサーとして面白さを感じたい方にはベストだと感じますね。購入する方の範囲はやや狭いとは思いますが、とても価値のある面白いバイクだと思います。 

提供:カワシマサイクルサプライ 編集:シクロワイアード アパレル&ヘルメット協力:rh+