大幅な進化を遂げたジャイアントのオールラウンドロードバイク「TCR」。その開発過程で取入れられた、使用環境に基づく実戦的なエンジニアリングとジャイアントが培ってきたテクノロジーにフォーカスし、開発データと共に新型TCRの優位性を紐解いていく。そして新型TCRを支える新登場のホイールとサドルについても紹介しよう。

数値で検証する新型TCRの優位性とそれを支えるテクノロジー

ツール・ド・フランスに投入された新型TCR Advanced SLツール・ド・フランスに投入された新型TCR Advanced SL photo:Makoto.AYANO
新型TCRの最も秀でた部分の1つとしてジャイアントが主張する「重量剛性比と走りの質のバランス」だ。剛性を犠牲に軽量化を追求すれば反応性が鈍くなり、その逆に重量を犠牲に剛性を高めれば、確かに重量剛性比は高くなるが、一般的には走りが重くなる。

そこでジャイアントが新型TCRの「重量剛性比と走りの質のバランス」を高めるために挑戦したのが、剛性と軽さの相反する性能を同時に突き詰めるという方法だ。具体的には、軽さに秀でる他社の競合オールラウンドと比較して既に20%程高いという従来モデルの剛性値を維持しつつ、大幅な軽量化を図った。

フレーム単体ではなく、フォーク、シートポスト、ホイールなどトータルで軽量化を図ったフレーム単体ではなく、フォーク、シートポスト、ホイールなどトータルで軽量化を図った (c)giant-bicycles.com
この結果、新型TCRは延々と続くヒルクライムからタイトコーナーが続出するダウンヒル、肘と肘をぶつけ合う様な激しいスプリントなど、レースシーンで想定されるあらゆるシチュエーションで、競合モデルに対して大きなアドバンテージを獲得するに至ったのだ。

新型TCRの高性能を支える自社生産のカーボン


カーボンバイクの源流となる原糸の織機カーボンバイクの源流となる原糸の織機
編んだカーボンの原糸に樹脂を浸透させ出来上がったプレプリグシート編んだカーボンの原糸に樹脂を浸透させ出来上がったプレプリグシート 手作りの工程表に基づいてパズルの様にプレプリグを積層させることで、品質のバラ付きを低減手作りの工程表に基づいてパズルの様にプレプリグを積層させることで、品質のバラ付きを低減 この新型TCR Advanced SLの技術的な屋台骨的となるのが自社生産のカーボン素材だ。ナノテクノロジーを応用したCNTレジンや高温高圧で焼成するFusion Process工法など、ジャイアントが四半世紀に渡って培ってきたテクノロジーが多く適用される。

その中で、今回の高性能化に大きく貢献しているのが「CONTINUOUS FIBER TECHNOLOGY(連続炭素繊維工法)」である。これはフレームを構成する数百枚のプレプリグの面積をそれぞれ拡大するにより、プレプリグ同士の接合箇所と母材量を減らし、高強度化と軽量化を同時に達成するテクノロジーのこと。新型TCRでは、各チューブの接続部の角を丸めた滑らかな設計とすることで、従来モデルの28%にあたる100枚ものプレプリグ数低減を達成したのである。

加えて、新型TCRの性能向上の影には、優れた積層設計を実現する製造過程があることを忘れてはならない。原糸と樹脂の状態からプレプリグを生成し、ハンドレイアップを経て、熱による硬化過程に入る直前までの全ての作業を温度管理された部屋の中で行うことで、劣化を最小限に留め、素材本来の強度を発揮することを可能とした。

そして、手作りの工程表に基づいてパズルの様にプレプリグを積層させることで、品質のバラ付きを低減。そう、上記の製造過程を全て社内で完了させ、その品質を常に管理できることこそがジャイアント製品最大の強みなのであり、設計に際して素材の欠陥に対する余分な安全率を掛ける必要がなくのだ。これらの結果として、新型TCR Advanced SLはフレームとフォークで従来モデルに対して134gのもの減量をみたのだ。

ジャイアントが培ってきたフレーム設計のノウハウ


自社生産の高品質カーボンに加え、ペダリング剛性に寄与するのがヘッドチューブ~BB~チェーンステーのボトムラインの設計だ。シェル幅を最大限まで拡幅可能なBB86規格の「POWERCORE」ボトムブラケットや、ねじれに対して有利な長方形断面の「MEGADRIVE」ダウンチューブにより、プロのハイパワーを余すことなく推進力へと変換する優れた駆動効率を実現した。

ジャイアントが最もこだわる部分の1つであるヘッドチューブも手作業で1枚1枚プレプリグを積層して成型されるジャイアントが最もこだわる部分の1つであるヘッドチューブも手作業で1枚1枚プレプリグを積層して成型される (c)ジャイアント
快適性向上に大きく貢献したVARIANTシートピラー快適性向上に大きく貢献したVARIANTシートピラー ツール・ド・フランスを始めとしたビッグレースでそのテクノロジーを磨きあげてきたツール・ド・フランスを始めとしたビッグレースでそのテクノロジーを磨きあげてきた photo:Makoto.AYANOダンシングを想定してバイクを10度傾けた剛性試験では従来モデルと比較して4%の剛性向上をマーク。フレームセット(小物を含む)で181gという大幅な軽量化と合わせ、フレームセット重量/ペダリング剛性比で競合モデルに対して10%もの優位性を稼ぎだすことに成功した。

従来よりジャイアントがこだわってきた操作性の面では、上側1-1/4インチ・下側1-1/2インチの超大径ヘッドチューブ「OVERDRIVE2」を引き続き採用。空力に配慮しヘッドチューブを小径化しながらもジャイアントが競合とする5モデルより7%~22%も高いハンドリング剛性、及び世界最高の重量ハンドリング剛性比を達成している。また、ハンドリングフィールはジャイアント・アルペシンのライダーたちとの共同開発により煮詰めているという。

ただ、いくら軽くて剛性が高いバイクでも、乗り心地が悪ければ、勝負が掛かる前までに疲労が蓄積し、戦線脱落してしまうことになる。そこでジャイアントは軽量化や高剛性化と同時に快適性の向上を図り、Defyで実績のある「D-FUSE」と従来のTCRに採用されていた涙滴断面の「VECTOR」を掛けあわせた「VARIANT ISP」デザインを新たに導入。継続されるISPや、細身になったトップチューブとシートステー、そしてサイズごとの専用設計による過剛性の防止と合わせて、レースバイクに求められる振動吸収性を確保した。

新型TCRはフレームセット重量/ペダリング剛性比で競合モデルに対して10%もの優位性を稼ぎだすことに成功した新型TCRはフレームセット重量/ペダリング剛性比で競合モデルに対して10%もの優位性を稼ぎだすことに成功した (c)giant-bicycles.com
予てより操作性にこだわってきたジャイアント。新型TCRは競合モデルに対して7%以上高いハンドリング剛性を実現している予てより操作性にこだわってきたジャイアント。新型TCRは競合モデルに対して7%以上高いハンドリング剛性を実現している (c)giant-bicycles.com
また細部もリファインされており、ISPのシートクランプは39gのシェイプアップに成功。リアドロップアウトはカーボンの中空構造とし、剛性と強度を犠牲にすることなく軽量化を実現。また新形状のリアディレーラーハンガーを採用して剛性を強化。ヘッドチューブの左側一箇所に集約された内装ケーブルポートは軽量化だけでなく、開口部を大きくすることでメンテナンス性の向上にも貢献。これらレーシングバイクに求められる性能をトータルで高めることで新型TCRは「TOTAL RACE BIKE」という開発コンセプト通りのバイクに結実したのである。

新型TCRのアドバンテージを更に高めるオリジナルホイール

リムはトレンドの幅広デザインとし、エアロ性能を高めているリムはトレンドの幅広デザインとし、エアロ性能を高めている
フロントハブは目一杯フランジ幅が拡幅されているフロントハブは目一杯フランジ幅が拡幅されている
ジャイアント SLR0(フロント)ジャイアント SLR0(フロント)

こうして、軽くて高剛性で、かつレースで求められる様々な性能を高次元で満たすことに成功した新型TCR。そのアドバンテージを更に高めるべく、ジャイアントは新型TCRに最適化した新型オリジナルホイールを登場させた。しかも他ブランドのOEMという訳ではなく、設計からリムの製造、組立てまでを自社内で行っており、正に世界最大規模の生産設備を誇る自転車メーカーだからこそ出来ることを地でやってきたのだ。今回は6種類ある中で、最軽量モデルであり、新型TCR Advanced SLに標準装備される「SLR0」について解説しよう。

リムはチューブレスレディ仕様のフルカーボン製で、T700グレードのカーボン原糸に耐熱性を重視したレジン組み合わせている。このレジンは業界標準とされる160℃を大きく上回る245℃というガラス遷移温度を持ち、ブレーキング試験においては、ベンチマークとされるレイノルズやジップよりも優れた制動力と耐熱破壊性を実現したのだ。特に雨天制動力距離のテストにおいては、2位のレイノルズに対して10%もの差を付けている。

ジャイアント SLR0(リア)ジャイアント SLR0(リア)
DBLの概念図。ホイールが回転すると赤スポークには引張力が、黄スポークには圧縮力が掛かるDBLの概念図。ホイールが回転すると赤スポークには引張力が、黄スポークには圧縮力が掛かる (c)giant-bicycles.com
ハイローデザインのリアハブ。右側のフランジを通常より2mm外側させることで、おちょこ量を低減しているハイローデザインのリアハブ。右側のフランジを通常より2mm外側させることで、おちょこ量を低減している

リムの耐熱破壊性を比較。平均時速12.5km/hでホイールを回転させ、75Whの制動エネルギーで15分間制動し続けた場合、SLR0のリムに変化はなかったものの、他社のリムには変形や破損が生じたリムの耐熱破壊性を比較。平均時速12.5km/hでホイールを回転させ、75Whの制動エネルギーで15分間制動し続けた場合、SLR0のリムに変化はなかったものの、他社のリムには変形や破損が生じた (c)giant-bicycles.com
そして、リムと同じく重要な役割を果たしているのが「DBL:Dynamic Balanced Lacing」と名付けられたスポーキングである。これは、ペダリングによって回転力が加えられた際にスポークに掛かる力を考慮した組み方で、実際の使用環境を想定した開発を得意とするジャイアントらしいテクノロジーといえよう。

一般的に自転車のホイールはスポークを「張って」組み上げるため、全てのスポークが引張力を受けているかの様に思えるが、スポークパターンによってはそうではない。今や完組ホイールでは常識となっており、ジャイアントのオリジナルホイールでも採用された2:1スポーキングの場合には、ドライブトレイン側の半分が圧縮力を受けている。例えば、リムを固定してハブに回転力を加えたシーンを想定すると、上記のDBLの概念図では赤スポークがフランジに引っ張られて引張力を、黄スポークがフランジに押されて圧縮力を受けていると理解して頂けるだろう。



DBLでは、この方向性に着目して、赤スポークと黄スポークの長さを異なる設定とし、赤スポークよりも黄スポークのテンションを高めることで、駆動時のリアドライブトレイン側の各スポークのテンション均一化。これによりホイールの動剛性を高めており、他社の競合フルカーボンクリンチャーに対して駆動剛性では16%以上、重量駆動剛性比では10%以上も優れた数値をマークした。

また、横剛性を高めるために前後ハブのフランジ幅を最大限に拡幅したことも特徴だ。特にリア側は駆動側のフランジを2mm外側に移動させる、他社の競合製品に対して4%以上優れた剛性値を実現。なお、リアハブ内部はDTスイス製で、細かなノッチによって優れた反応性に貢献するスターラチェットを内蔵する。

SLR0は他ブランドの競合モデルより16%以上優れた駆動剛性を実現しているSLR0は他ブランドの競合モデルより16%以上優れた駆動剛性を実現している (c)giant-bicycles.com
これらのテクノロジーによって剛性やブレーキング性能、耐久性といったホイールに求められる様々な性能を高次元でバランスさせることに成功した「SLR0」。リムはシチュエーションを選ばない30mmハイトで、CFD解析に基づいたエアロ性能に優れるリム形状を採用。チューブレス対応ホイールの中では最軽量クラスの1,331gをマークしており、そのオールラウンドな性能は、新型TCR Advanced SLの万能性を更に引き立たせてくれることだろう。

なお、ジャイアントが新たに提唱するフレームセット+メーカー純正ホイールの組み合わせという指標においても、新型TCR Advanced SLは競合5社に対して最も優れた重量ペダリング剛性比を記録している。

新機軸のサドルラインアップ 使用環境を想定したフィッティング方法を採用

新型TCRのテクノロジー解説の中で最後に触れておきたいのが、ホイール同様にジャイアントのオリジナルである新サドル「Perfomance」シリーズだ。その最たる特徴は「PARTICLE FLOW TECHNOLOGY」、これは特殊な微粒子をこれまでのフォームの代替とすることで点接触を防止し、痛みの原因となる圧力集中を20%以上緩和することに成功した。

ジャイアントの新作サドル「Perfomance」シリーズジャイアントの新作サドル「Perfomance」シリーズ 中央の黒いサドルがフィッティング用。実際のライディングポジションを基に最適なサドルを選択できる中央の黒いサドルがフィッティング用。実際のライディングポジションを基に最適なサドルを選択できる

この他にも圧力を逃がすチャネルデザイン「PRESSURE RELIEF CHANNEL」により快適性を高め、「MICROFIVER COMFORT WRAP」を表皮素材とすることで耐久性を確保している。

ラインアップは「CONTACT SLR」 と「CONTACT SL」の2種類で、乗車姿勢に合わせたFORWARD、NEUTRAL、UPRIGHTという3つのタイプをラインアップ。これに付随するフィッティングシステムも用意され、普段使用するバイクに取り付けて最適なサイズを導き出すフィッティング用サドルが用意される。フレームやホイールの設計と同様に、使用環境を想定した設計であり、優れたコンフォート性能が期待できるだろう。
提供:ジャイアント text:シクロワイアード編集部