ガーミンのGPSサイクルコンピュータのフラッグシップとなるEdge 1000Jが昨年の11月にリリースされた。今回はその基本操作と新たに盛り込まれた機能についてインプレッションを交えながら徹底的に紹介しよう。

ガーミン Edge1000J アウトフロントマウントでハンドル部に取り付けた状態ガーミン Edge1000J アウトフロントマウントでハンドル部に取り付けた状態
10年ほど前であればスピードとケイデンス、あるいは心拍が出るだけでよかったサイクルコンピュータであるが、今やGPSは当たり前、気温や気圧、傾斜、パワーなどあらゆるデータを表示することができるようになった。この市場を先頭を切って開拓し続けているのがガーミン社であり、自転車用GPSといえばEdgeというくらいにまで成長した名シリーズだ。

800から1000 へと”一桁増えた”ということは、それは大きな変化を伴うことを表す。つまり、完全なフルモデルチェンジを果たしたことの表れだ。今回はそのフルモデルチェンジしたEdge1000J の基本的な機能を紹介するとともに、これまでにはなかった新しい機能もピックアップする。

800よりも一回り以上大きくなった印象があるEdge1000J(画面表示はサンプルシールによるもので日本モデルは日本語表記となる)800よりも一回り以上大きくなった印象があるEdge1000J(画面表示はサンプルシールによるもので日本モデルは日本語表記となる) アウトフロントマウントでバイクに取り付けたEdge1000J。大柄に見えるが薄くなったため重量は気にならず、スマートだアウトフロントマウントでバイクに取り付けたEdge1000J。大柄に見えるが薄くなったため重量は気にならず、スマートだ

サイクルコンピュータにGPSがつくと何が出来るのか?

GPS を搭載するまでのサイクルコンピュータは、フォークに取り付けたスピードセンサーで距離を測り、走行時間から計算して、速度を算出。また、クランクがチェーンステイに取り付けたセンサーの前を通過するタイミングから計算し、ケイデンスを算出。各々の数字を本当に小さな画面上に表示していただけだった。その期間は長く、20 年以上にも及んだ。

今から5年ほど前、ガーミンはその世界にGPS によって革命を起こした。それがEdge シリーズだ。GPS によって測位を行い、地図を装備した。自車がいる現在位置を画面の地図上に表示することができるだけではなく、目的地までの道のりを案内させることも可能になった。まるでカーナビのようにだ。

解像度が向上しているためデータ類の文字の視認性が非常に良くなった解像度が向上しているためデータ類の文字の視認性が非常に良くなった
また、現在のスピードで走った場合に目的地までどのくらいの時間が掛かるのかを予測することも可能になったし、日没時間や気温まで知ることが出来る「全部入り端末」へと進化した。全ての機能を使うライダーはいないと思うが、トレーニングからリクリエーションまで幅広いユーザーが必要とする機能全てをタイムリーに詰め込だんものがEdgeシリーズのフラッグシップモデルとなる。

ナビ画面も鮮明で、感度が良いためストレスのない誘導を実感できるナビ画面も鮮明で、感度が良いためストレスのない誘導を実感できる GPS で記録した軌跡を眺めて楽しむも良し、心拍系とケイデンスデータ等で自らの分析を進めるも良し、Edge シリーズは様々な可能性を持っている。

本体に挿入されたメモリーカードには、日本全国を詳細に網羅した道路地図とユーザーの走行軌跡が記録され、スピード、現在地、上昇/下降量なども確認可能。また、ガーミン社がリードして制定された業界標準の無線規格であるANT+をサポートしているため、付属のハートレートセンサーやスピードセンサー、ケイデンスセンサー、そして、対応するパワーセンサーを付けることによりパフォーマンスの詳細な分析が可能になる。

カーナビに迫るGPS測位精度によるナビゲーション機能、各種センサーで取得した数値を表示するトレーニングデータ収集比較機能、サイクリングした軌跡をインターネット上のサーバーへアップして様々な端末から参照することが出来る機能などは、レース、ツーリング、通勤、ロード、マウンテンバイクなどジャンルを問わず、「使える機能」が必ず見つかるはずだ。

Edge1000Jが搭載する主な機能

Edge1000Jに同包されるすべてのアクセサリー類。スピード/ケイデンス/心拍センサーやアウトフロントマウントまで同包されるEdge1000Jに同包されるすべてのアクセサリー類。スピード/ケイデンス/心拍センサーやアウトフロントマウントまで同包される

  • 画面の大型化、コントラストアップによって視認性が著しく向上
  • タッチパネルはドラッグ、スクロール、ダブルタップやピンチ操作可能で、グローブを装着していても操作可能
  • GPSで速度を計測
  • みちびき/グロナス対応のGPSチップ
  • GPSを利用して同じ位置、あるいは一定距離でラップを取得することができるオートラップ機能
  • 一般的な防水スマートフォンと同程度のIPX7規格をもった防水機能
  • Garmin Connect に取得したデータをアップロードし、世界中のユーザーに閲覧させたり、データを交換することが可能
  • スマートフォンアプリとの通信によって、いつでもどこでもデータのアップロード/ダウンロードが可能
  • 内蔵する気圧計により勾配・高度・気温の変化まで正確に記録
  • 付属の心拍センサー、スピードセンサー、ケイデンスセンサーからデータ収集
  • 各種ANT+センサー対応
  • メモリーカードにインストールされた地図を表示可能。全国主要サイクルショップも網羅。
    ※昭文社の「MAPPLEデジタルデータ2014年度版」
  • 自転車道収録マップを後日提供予定
  • ライブで自車位置を追跡させることが出来るライブトラック
  • 特定の区間を走行したタイムや速度を多くの人と比較することが出来るセグメント機能
  • シマノDi2 ワイヤレスユニット対応
  • 新型スピードセンサー、ケイデンスセンサー採用
  • メッセージや電話着信をEdge 上で知らせる通知機能


薄く、シャープになった本体はスマホを連想させる薄く、シャープになった本体はスマホを連想させる 心拍センサーベルトとスピードセンサー(左)とケイデンスセンサー(右)が付属する心拍センサーベルトとスピードセンサー(左)とケイデンスセンサー(右)が付属する

詳細地図データを追加できるminiSDカードスロットも備える詳細地図データを追加できるminiSDカードスロットも備える 充電スロットは底部にあるため防水の観点からは好ましくなった充電スロットは底部にあるため防水の観点からは好ましくなった

大きくなって解像度アップ。画面の見やすさが著しく向上している

Edge1000Jを手に取ってみてまず驚く。そう、大きいのだ。800シリーズも大きいと言われたが、それよりもさらに大きくなった。画面は3インチ、240x400 ピクセルのフルカラー液晶を搭載している。しかし、手にとってしばらく触っていると、それが必要な大きさであることに気がつく。

パッと見て、画面の文字がとても読みやすくなっている。これまでよりも遙かに高精細で見やすいのだ。ようやくスマートフォンの画面に近づいてきたな、という印象だ。

Edge1000Jと810Jの大きさ比較。ずいぶんと大きくなったEdge1000Jと810Jの大きさ比較。ずいぶんと大きくなった
文字が読みやすいことは見慣れると当たり前になってしまうのだが、走行中のわずかな時間の中で情報を読み取る場合を想定すると、ストレスが減るだけではなく、走行中の安全性向上にも繋がる。走行中に正面の景色からEdge1000Jの画面へと目線を移す度、その恩恵を感じるだろう。

こうして実物を比較し、しばらく使ってみると、これまでの800J/810Jがあまりに古く、そして小さく見えてくるから不思議である。Edge800J/810J の160×240 ピクセルの画面と比較すれば60パーセント近く広くなった計算になるのだから当然であろうが、整理されたメニュー画面がこれまでよりさらに直感的な操作感を醸し出しているせいもあるだろう。

1000J(左)は800Jに比べて薄く、形状もシャープな印象になった1000J(左)は800Jに比べて薄く、形状もシャープな印象になった 乗車中の視線高さからでも無理なく文字データを読み取ることができる乗車中の視線高さからでも無理なく文字データを読み取ることができる

スマートフォンでもそうだが、大きくなるとまずは「小さい方が良かった」と否定されるもの。しかし使ってみれば、大きければ大きいぶんだけ活躍できることに気がつくし、新たな可能性に気がつく。Edge1000J も実際に取り付けてみると、「やはり大きい」と感じつつも、実際に走り出すと全く気にならないどころかその大画面ゆえの操作しやすさと解像度、コントラストアップによる見やすさが圧倒的なパフォーマンスを提供してくれることを実感できる。これまでの画面は小さく、走行中にパッと目を移すには厳しい場合もあったが、1000J ではそれも自然にすることができる。走行中の視認性が著しく上がっているのだ。画面をパッと見て、頭の中に数字や文字がスムーズに入ってくるのは素晴らしい!

大きくはなったのだが、本体の厚みは25ミリから20ミリへと20%も薄型になったため、ジャージのポケットや鞄の中ではむしろかさばらない印象がするし、ずんぐりしていないのでデザインは先進的な印象だ。昨今のバイクのデザインに似合いそうである。

タッチパネルは静電式に変更された

スマホと同じダブルタップ、ピンチ、スクロール、回転などの操作も可能にスマホと同じダブルタップ、ピンチ、スクロール、回転などの操作も可能に 操作はタッチパネル式と変わりはない。しかし、感圧式から静電式へと仕様が変更されている。前モデルが感圧式を採用した理由は、グローブを装着した状態での操作や雨天時の操作が必要になるためであったので、静電式になったことでどうだろうか? と心配をした。しかし、ガーミンはしっかりと考えており、静電センサーの感度を強めてきた。

そのため、グローブをした状態での操作も可能になっている。一部のグローブには「タッチパネル対応」というスペックを装備しているものもあるが、Edge1000J にそれは必要ない。

全てのグローブで検証したわけではないが、筆者が冬期に使用しているKABUTO の「KG-12W(ウインターグローブ)」の上に「OVG-1W(オーバーグローブ)」を装着した状態でもタッチパネルが反応したので、これには大変驚いた。もちろん、素手と比べてグローブをしたままでは操作はしにくい。しかし、反応するかしないかでは大きな違いであることは間違いない。

画面が静電式になったことでマルチタッチにも対応した。スマートフォンで慣れたダブルタップ、ピンチ、スクロール、回転などの操作も可能になって便利さが増している。

肝心なGPS は最新衛星に対応し、動作は爆速に

GPS チップは、みちびき / GLONASS 対応チップへと進化した。それによって、これまでよりも高精度な測位が可能になった。また、「EPO」にも対応している。

「EPO」とは一般的にアシストGPS と呼ばれている機能に類似したもので、最大7日分の衛星位置情報をWi-Fi、Garmin Express、Garmin Connect Mobile経由で自動受信する。それによって、電源を入れた瞬間にどの位置におり、どの方向に衛星がいるかを予測、数秒で測位を完了させてしまう。電源を入れてから数分待たないといけなかった時代はもう過去のものだ。

しかも速いだけではない。800シリーズでも驚いたものだがEdge1000Jではさらに驚かされた。室内で設定をしているにも関わらず、測位が完了し、地図上に自車位置を表示したからだ。GPS レシーバーの感度が著しく向上しているようで、どのユーザーにとっても嬉しいスペックアップとなっている。

劇的に改善された取り付け作業

Edge1000J 本体と共にデビューしたのが新型となったスピードセンサーとケイデンスセンサー。これまでは両方が一体となったセンサーを左チェーンステイ上にインシュロックで固定するようになっていたが、新型はそれぞれ別のセンサーになった。また、共に加速度センサーによって計測する方法になったため、センサーと同時に必要だったマグネットが一切不要となった。

スピードセンサーはハブのボディに、ケイデンスセンサーは左右どちらかのクランクアームに付属のゴムで取り付けるだけという簡易さ。誰でも工具なしですぐ取り付けることができる。

スピードセンサーをハブに取り付けた状態スピードセンサーをハブに取り付けた状態 ケイデンスセンサーはクランク裏側に取り付けるケイデンスセンサーはクランク裏側に取り付ける

このセンサーは輪行の時に大変良いと感じた。従来のセンサーの多くは輪行中にぶつかって位置が変わってしまい、それによって反応しなくなるばかりか、ホイールやクランクアームと衝突したり巻き込んでしまうトラブルも起こりえるものだった。新型ではその心配は全くない。また、小径車やエアロロードフレームのようにパイプの外形状や構造が特殊な自転車の場合でも、取り付けに困ることはない為にフレーム形状も選びにくい。センサーは単体でも販売されているので旧型Edgeを使用している人も導入してみてはいかがだろう。

本体はこちらも新しくなったアウトフロントマウントを利用し、ハンドルステムの前方に取り付けられる。Edge800・810J よりも縦方向に長いボディとなったため、アウトフロントマウントのアーム部分がこれまでよりも長くなっている。エンジニアリングプラスチック製で高精度かつ高強度に作られているので強度は十分。もちろん、従来のエラスティックバンド式のハンドル/ステムマウントも付属する。

センサーを取り付け、マウントに本体を固定し、電源を入れる。最初に始まるのはライダープロフィールの登録だ。身長や体重、あるいは運動強度などを入力し、先ほど取り付けたセンサー類とのペアリングも行っていく。ここまで約5〜10分程度。センサー取り付けまで含んでも30 分あれば走り出せそうである。実に簡単だ。

ハンドル取付ブラケットの「アウトフロントマウント」とエラスティックバンドによるマウントハンドル取付ブラケットの「アウトフロントマウント」とエラスティックバンドによるマウント
アウトフロントマウントはシムにより異なるハンドル径に対応アウトフロントマウントはシムにより異なるハンドル径に対応 がっしりとした不安ない作りだがっしりとした不安ない作りだ

従来のサイクルコンピュータであれば、タイヤ周長を設定する必要があった。これはタイヤが一回転した際に進む長さのことで、700-23Cであれば2096mm程度に設定する必要がある。それゆえ、タイヤの寸法を変えた際や複数の自転車で1 台のサイクルコンピュータを使用する際には、設定を変更しなくてはいけない。そうしないと速度が誤って表示され、走行距離にも影響してしまう。

だが、ガーミンではこの設定が一切不要だ。なぜならスピードセンサーとGPSによる測位によってタイヤ周長は自動的に設定されるからだ。Edgeではスピードセンサーの情報を優先してスピード表示するようになっているが、スピードセンサーがみつからない場合にはGPSの測位情報から速度を計算することができる。よって、複数の自転車の間でEdge1000Jを付け替えて使用する際には、センサーを付け替えなくてもおおよその機能を利用することもできるようになっている。

通信機能が付加された

Edge800J/810Jの機能を完全に継承しつつ、新たに多くの機能が搭載されている中では、通信系の機能がいくつか目立つ。Bluetooth で接続されたスマートフォンへの通話呼び出しやメッセージングサービスへの着信があった場合、Edge1000J の画面上に表示する機能「スマートノーティファイ(通知機能)」を搭載した。

また、新たに Wi-Fi を搭載して、無線LAN経由でEdge1000Jから直接GarminExpress(⇔ GarminConnect)に接続出来る。これらの複雑になったネットワーク状況を管理するために、ステータス画面が追加された。画面の最上部をタップすることによって、ワンタッチで表示させることが出来るステータス画面では、無線ネットワークへの接続状況やバッテリー残量、バックライトの輝度などを確認し、設定変更が可能だ。わざわざ設定画面をトップから掘り進む必要はない。多機能を極めつつある一方で、インターフェイスもしっかりと改善されているところがすばらしい。

Edge1000J の通信概念図。Wi-Fi、Bluetouth、USBでデータをシームレスにやりとりできるEdge1000J の通信概念図。Wi-Fi、Bluetouth、USBでデータをシームレスにやりとりできる シマノのワイヤレスユニット「SM-EWW01」を介して、Di2 に関する情報を表示することが出来るようになっていたり、GARMIN Vector J を同時に使用した際にはペダルの踏圧分布をモニタリングすることが出来る「 GARMIN Cycling Dynamics」が始まっているなど、まだまだ多くの機能がある。

このようにトレーニングに役立つ機能も満載されたEdge1000J は税抜価格で83,000円。大変高価であることは否定できない。しかしながら、これまでもEdge シリーズを使ってきたユーザーであればより高い満足感を得られるだろう。また、これ以上の機能を搭載した付加価値の高いサイクルコンピュータは他に無いと思われる。ハッキリ言って Edge1000J で出来ないことは無い。


国内正規版「J」購入のススメ

ここ数年、高性能なGPS付きサイクルコンピュータが多くのメーカーからリリースされているが、実はその争いも落ち着いてきている。ベストセラーとなったEDGE500が発売された頃は正に群雄割拠と言えたのだが、今や淘汰され、このEdge1000Jの登場によって覇権は完全にガーミンが握ったと言っても過言ではない。

もうひとつ触れておきたいのは、日本国内で購入する際は、圧倒的に国内正規版にメリットが有るということ。日本総代理店のいいよねっとがサイクルショップに卸す国内正規版は、Edgeシリーズを実際に使用し、理解したスタッフがいるショップに限って販売される。ぜひ店頭で手にとってその性能を確かめ、わからないことは直接お店でアドバイスを聞いてみて欲しい。これは販売を任されたショップのスタッフでもある筆者からの最大のアドバイスだ。
次回は、新しく追加された大きな機能の一つであるセグメントについて詳しく解説し、それを使ってサイクリングを楽しむ方法などについて紹介する。
文:朝倉 誠(Bicicletta Di Mattino) 編集:シクロワイアード 提供:いいよねっと