プレスローンチでは北イタリアの丘陵地帯を舞台に、およそ70kmのルートでテストライドが行われた。エアロを纏ったニューDOGMA F8の実力を体感するべく、世界中から集った15名のジャーナリストがワインディングロードに向けてペダルを踏み出した。

トレヴィーゾのワインディングロードでインプレッション

テストライドの舞台となったのは、プレスローンチ会場のあるアーゾロの街を囲む、果てしなく続く丘陵地帯。ジロ・デ・イタリアにも登場する1級山岳モンテ・グラッパにも近く、地元のサイクリストからの人気も高いエリアだ。

プレスローンチの会場となった「アルベルゴ・アル・ソーレ」の前にジャーナリストが集まったプレスローンチの会場となった「アルベルゴ・アル・ソーレ」の前にジャーナリストが集まった photo:Cicli Pinarello SpA
スタートを待つジャーナリスト。会話が止まらないスタートを待つジャーナリスト。会話が止まらない photo:Cicli Pinarello SpAスタート前にバイクをチェックするベルンハルト・アイゼルスタート前にバイクをチェックするベルンハルト・アイゼル photo:Cicli Pinarello SpA


プロレースにも登場するという登坂距離5kmのサン・リベラーレ峠といった本格的なヒルクライムから、スピードを活かしてクリアする短いアップダウン、荒れた舗装のテクニカルなダウンヒル、さらには巡航性能テストには最適な長い平坦路まで、全てのシチュエーションが凝縮された70kmほどのコースは、インプレッションにうってつけ。極上のフィールドをめがけ、ジャーナリスト達はそれぞれの体格に合わせて用意されたテストバイクを走らせた。スペシャルゲストはファウスト・ピナレロ氏と、チームスカイに所属するベルンハルト・アイゼルだ。

テストバイクのスペックを記しておくと、コンポーネントはシマノ・9070系デュラエースDi2で、ホイールはフルクラム Racing ZERO。組み合わせるタイヤはヴィットリアのOPEN CORSA CX(23c)、空気圧は前6.5、後ろ6.8にセットした。ギア構成は50-34T+12-28T、クランク長は172.5mm。ステム&ハンドルはMostの一体式カーボンハンドルだ。

プレスローンチ参加以前、私は比較のためにDOGMA 65.1 Think 2を借り受け、およそ150kmほどをテストしていた。その印象は「硬く速いレーシングバイク」そのものであり、全体(更にその中ではヘッド〜フォーク)がとにかく硬く、加速性能は鋭すぎるほどに高い。しかしそれとは引き換えに、昨今のエンデュランスロードと比較すれば振動吸収性は希薄であり、硬さに慣れないと、どうにも疲れが溜まってしまう感が拭えなかった。

トレヴィーゾ近郊のワインディングロードを進むジャーナリスト達トレヴィーゾ近郊のワインディングロードを進むジャーナリスト達 photo:Cicli Pinarello SpA
「スムーズ」という言葉がぴったりとはまる運動性能。コーナリングの安定感は流石だ「スムーズ」という言葉がぴったりとはまる運動性能。コーナリングの安定感は流石だ photo:Cicli Pinarello SpAそれがDOGMA F8はどうだ。もはやペダルの一踏み目から全く違う。脚が弾かれるようなBBの硬さも、ハンドルへとダイレクトに伝わってくる路面からの衝撃も、DOGMA 65.1 Think 2と比べれば、それはもうゼロに等しいほどに滑らかに受け流してくれる。乗り心地はさながら25cのチューブラータイヤを履いているようだ。

絶え間なくアタックが掛かる。高速域になってからがDOGMAの本領だ絶え間なくアタックが掛かる。高速域になってからがDOGMAの本領だ photo:Cicli Pinarello SpA端的にDOGMA F8を表現するとしたら、「スムーズ」という言葉が一番に当てはまるだろうか。路面の凹凸はその大小を問わず「何もありませんでしたよ?」と言うかの如く乗り越えることができるし、衝撃の後残りをスパッとカットしてくれる。

しかし、しっかりと剛性が確保されているため、コンフォートロードにありがちなボワンとしたタルさは一切無く、それはもう限りなく軽やかだ。フォークやリアバックが積極的に動いているわけではないため、これは恐らくカーボン素材そのものや、その積層の妙によるものなのだろう。バイク全体の挙動に関しても、どこにも破綻が無いし、不安を感じさせることも無い。

プレゼンテーションではねじれを削減し、よりパワー伝達効率を高めたと発表された。確かに加速性能はDOGMA 65.1 Think 2よりも全ての速度域でシャープさがあるような気がしたが、スムーズさが目立つため少々気づきにくいところだ。

ハンドリングに関しては「前作と同じフィーリングを目指した」とプレゼンで伝えられたが、私が持った印象はやや異なる。確かにコーナリング中は変わらず安定感のあるフィーリングだが、倒し込みのクイックさがややマイルドになったように思う。非常に安心感が高まっており、例えばコーナー入り口の路面が荒れていても怖くない。「熟成された」という表現がしっくりくる。

前モデルは硬さ故ある程度のペダリングスキルを求められたが、ライダーに優しくなったDOGMA F8はダンシングでも、シッティングでもどんな状態で走らせても素直に力を路面へと伝えてくれる。そのため、その高性能ぶりをどのようなレベルのライダーでも分かるようになったと思うが、本領を発揮するのはやはり高速域に入ってから。テスト中にはアタック合戦が繰り広げられ、私も少しばかり加わってみたが、瞬間的なダッシュにも寸分遅れずに反応できるし、高速域からの加速にも淀みが無い。私ごときの脚力では当然だが、バイクの限界を推し量ることなど不可能だった。

常に最先端を行くピナレロ“らしさ”

この変貌ぶりには本当に驚かされたし、他のジャーナリスト達も同様だったようで、テストライドの序盤は隊列の中で「全く違うよね」という会話が止まなかったことが印象的だ。結局、特にネガティブな部分を見つけることができないままにライドは閉幕。走り終わった後の疲労感はDOGMA 65.1 Think 2と比べて薄く、脚残りも良い。これはグランフォンドなどの長距離ライドにもうってつけであろう。

テストライドを楽しむ筆者(左)。ここまで乗り味を変えてくるとは思わなかったテストライドを楽しむ筆者(左)。ここまで乗り味を変えてくるとは思わなかった photo:Cicli Pinarello SpA
何度も繰り返しになるが、ここまでDOGMAが性格を変えてくるとは思わなかった。DOGMA 65.1 Think 2の硬いフィーリングが好きな方にはある種のカルチャーショックだろう。しかし他の一部大手ブランドでも、そのフラッグシップに「乗りやすさ」をプラスした2015年モデルがデビューし始めている現状がある。モノとしては大きな変化を遂げてはいるが、「最先端」という意味ではピナレロ「らしさ」は少しも薄まっていない。

高剛性、コンフォート、エアロ。それぞれに特化したバイクをラインナップするメーカーが多い中、ピナレロは軽く、速く、スムーズで、なおかつ乗り心地も空力性能も高いというスーパーバイクを作り上げてしまった。国内価格 648,000円(税抜)と高嶺の花ではあるが、それに見合う価値は絶対にあるだろう。

ベルンハルト・アイゼルに聞くDOGMA F8

どんな場所においてもフィーリングがより良くなった

—今日初めてF8に乗ったと聞きましたが、その感想は?

「65.1 Think 2と比較して加速が鋭く、推進力が強く、そして剛性が高い」「65.1 Think 2と比較して加速が鋭く、推進力が強く、そして剛性が高い」 photo:Cicli Pinarello SpA君も今日初めてF8をテストしただろう?多分君の感想とほぼ一緒。ベストなバイクだよ。合っているかな?(笑)

確かに今日初めて乗ったけれど、とても自然に馴染むことができた。何故か?それはハンドリングやジオメトリーが65.1 Think 2と全く一緒だからだ。サドルが普段使っているものと違ったので厳密には細かな差異が分からないが、今日のライドはただひたすらに楽しかったね。4時間のライド中には登りで強めに踏んでみたけれど、65.1 Think 2と比較して加速が鋭く、推進力が強く、そして剛性が高い。どんな場所においてもフィーリングがより良くなったと感じている。

剛性に関して言うと、非常に乗り心地が良くなったにも関わらず強くなった。rock solid(=岩のような硬さ)ではないから、誰にとっても乗りやすくなったと思う。多分カーボンそのものの性能が出ているんだろう。僕が気に入っているのはフロントフォーク。とてもワイドになって剛性が増している。でもコーナーの大小に関わらず65.1 Think 2と同じハンドリングで、特にスタビリティが高いので安心できる。

—とても振動吸収能力に長けていますが、パリ〜ルーベにも使える?

確かに乗り心地の良さにはとても驚いた。至ってスムーズだし、65.1 Think 2ではハンドルから伝わってくるビビリが多少なりあったけれど、F8にはそれがほとんど無い。でも石畳のクラシックレースで使うかと言われれば「No」。なぜならDOGMA Kの方がホイールベースが長くより直進安定性が強いからで、個人的にはそちらを優先したいんだ。

新しいDOGMA Kは前のモデルに比べてエアロが進化している。小さな変化だけれど、良い変化だと思う。特に北フランスは風が強く平坦ばかりなので、空力性能が良いに越したことはない。今年のツールでもパヴェセクションが登場するけれど、当日の様子でセッティングを決めていくつもりさ。

今日のプレゼンでもあった通り、このF8はピナレロとジャガー、そして僕らチームスカイが共同で作り上げたものだ。乗って分かったと思うけれど、この共同開発は単なるマーケティング上の宣伝文句ではないんだ(笑)。



提供:ピナレロ・ジャパン text:シクロワイアード編集部