冬が迫る11月16日、道の駅富士川をベースとした南アルプスロングライドの初日が開催された。今回は富士川から北側のエリアを楽しむ白州・韮崎ステージをレポート。脚にも満足感を得られる程よいアップダウンと、地元の食を振る舞うエイドを堪能した。



清々しい秋晴れの朝、南アルプスロングライドが開幕した清々しい秋晴れの朝、南アルプスロングライドが開幕した
チャリたぬは皆大好きのマスコットチャリたぬは皆大好きのマスコット 山梨といえばレジェンドの今中大介さんだ山梨といえばレジェンドの今中大介さんだ


木々の葉が色づき始める晩秋の山梨・富士川町。晴天に恵まれた11月16日の朝、釜無川からは靄が立ち上がり、冬将軍がもう目の前まで迫ってきていることを告げている。この日は南アルプスロングライドの初日。キリッと冷え込んだ空気に包まれた道の駅富士川に多くのサイクリストが詰めかけた。

夜の寒さが残る朝7時半「寒い、寒い」と呟きながらサイクリングの身支度を整えているが、毎秒毎分ごとに暖かくなっていると気がつくほど気温の上昇スピードが速い。この日は暖かくなると誰もが感じていたことだろう。暖かいのはウェルカムなのだが、サイクリスト的には寒暖差があるとウェアの選択が悩ましい。ウィンドブレーカーを新調したばかりなので、ウキウキしてたのはここだけの話だ。

駐車場で身支度しているとMC浅利そのみさんの元気な声が会場に響き渡る。スタート/フィニッシュラインのバルーンゲートの足元には山梨県の自転車マスコットである"チャリたぬ"がおり、キュートな見た目で参加者を引き寄せていた。チャリたぬは県内に7体存在し、全てのチャリたぬを見つけると良いことが起きるとか起きないとか。とにかく非常に多くの参加者がチャリたぬとの記念撮影を楽しんでいる。

今中大介さんを先頭に白州・韮崎ステージがスタートする今中大介さんを先頭に白州・韮崎ステージがスタートする
暖かい日差しを受け道の駅富士川を出発する暖かい日差しを受け道の駅富士川を出発する
南アルプスロングライドは土曜日と日曜日の2日間に渡ってライドイベントが開催される大規模大会で、初日は前菜として白秋・韮崎ステージ(80km)とプチ南アルプスステージ(35km)が用意されている。距離を見ていただいたらわかる通り、白秋・韮崎は中級者向け、プチは初心者向けとなっているのだ。土曜日だけ楽しむという参加者も少なくない。また、今年はプチ南アルプスステージの第1エイドである清月を折り返し地点とした地元小学生たち用のコースも用意されており、スタートラインの先頭に並んだ。

午前9時、緊張した面持ちのキッズたちが出発した後に、約85km走行する白秋・韮崎ステージのメンバーがスタートしていく。南アルプスロングライドはサポートライダーを先頭にグループで走行するため、ペースメイキングやルートに関してはある程度おまかせすることができるのだ。

道の駅富士川から富士川西域の広域農道であるウエスタンラインに入った第1グループは若干速いスピードで進行していく。櫛形山の麓を横断する道路のためアップダウンが細かく現れることがウエスタンラインの特徴。足並みが揃った第1グループのメンバーは登りに入ってもケイデンスを落とすこと無くペダルをクルクルと回し、ヒルクライムを楽しんでいく。

ウエスタンラインは小気味よくアップダウンが続く。振り返れば富士川の街が広がっているウエスタンラインは小気味よくアップダウンが続く。振り返れば富士川の街が広がっている
走行中はほぼ前を向いているため、意外と絶景を逃していることが多い。登り途中に現れる湯沢公園で後ろを振り返ってみると、先程まで居た富士川町が眼下に広がる。朝靄がまだ少し残っているようで、はっきりと町並みを確認できないのがまた良い。関東平野に住む私にとって150mほど上昇した景色だけでも有り難いもので、気分はウキウキし始めるのだ。テンションが高まる一方で、脚はどんどんと削られていくのだが。

気温も順調に上昇しているようで、登りではウィンドブレーカーを着用していて丁度よいくらい。下りに入るとヒヤリとした冷たい風が腕に当たる。個人的には背筋がシャンと伸びるような冷たさが好みなので、ちょっと肌寒い朝で最高の気分だ。

ジェットコースターのように登りと下りが繰り返されるウエスタンラインを快走していると、南アルプスロングライドの土曜日を象徴するループ橋が現れる。プチ南アルプスはループ橋を下るルート設計なのだが、白秋・韮崎ステージは登る設定。こちらのステージは脚も満足させようという気持ちが伝わる。ループ橋自体の勾配は厳しすぎないのだが、橋を登りきった先のピークポイントまでは1.25kmほどあるので、それなりにチャレンジングではある。

白州・韮崎ステージではループ橋を登っていく白州・韮崎ステージではループ橋を登っていく 一気に70m近く上昇するループ橋から下を見ると人が豆のような大きさに一気に70m近く上昇するループ橋から下を見ると人が豆のような大きさに

甲府盆地の地形がわかりやすい甲府盆地の地形がわかりやすい 富士山を背にループ橋を登っていく富士山を背にループ橋を登っていく


ウエスタンラインは登れば絶景と言っても良いほど、高所からの見晴らしは最高。この日は快晴ということもあって富士山の山体が確認できた。しかし、富士山は南東方向にあるため、真っ直ぐ前を向いていると序盤は富士山を見ることができない。止まって確認するか、後半に取っておくかの二択を迫られる。私はちょうどよく休憩したいタイミングだったので、自転車から降りてのんびりと富士山を堪能する。

右へ左へ細かく切り返す小道をしばらく走っていると第1エイドの韮崎大村美術館が現れる。ここでは地元・韮崎山ノ上で採れたリンゴと甲州信玄ラスクが振る舞われ、これから始まる丘越えに備えて10時のオヤツとして小腹を満たしておく。リンゴでは程よい酸味とシャキシャキとした食感で爽やかさ、ラスクでは黒糖ときな粉の甘味とサクサクしてるのにシットリともしてる不思議な食感を堪能。ここで食欲がないからとオヤツタイムを先延ばしにしていたらハンガーノックになるので、しっかりと補給はしておきたいところだ。

地元のお母さんたちがエイドの食を振る舞ってくれる地元のお母さんたちがエイドの食を振る舞ってくれる 信玄ラスクは一袋を丸々と頂けるため、腰を落ち着かせて休憩するグループも信玄ラスクは一袋を丸々と頂けるため、腰を落ち着かせて休憩するグループも

甲州信玄ラスクと地元産のリンゴを頂く甲州信玄ラスクと地元産のリンゴを頂く レジェンド今中大介さんは記念撮影も気さくに応じてくれるレジェンド今中大介さんは記念撮影も気さくに応じてくれる


2車線で交通量も少ない韮崎南アルプス中央線は、サポートライダーが先導するグループに入っていれば非常に気持ち良く進める。もしペースが速いと感じても我慢せず千切れてしまっても良いかも知れない。若い数字のグループで出発すれば、後方から新たな集団が続々とやってくるため、ペースの合うグループを見つけ取り付いてしまえば良い。脚をできる限り使わず、景色を堪能できれば最高に楽しいこと間違いない。

国道20号と合流する直前で左折をすると「かかしの里」と看板が掲げられており、ふと、左右に目を向けてみるとそこには田畑が広がっている。11月中旬ということもあり、稲刈りは既に終えている。もし稲穂が黄金色に輝く季節に訪れたら素晴らしい景色を見ることができるのだろう。その中でサイクリングを楽しんだらきっと気持ちが良いんだろうな。南アルプスを訪問する理由を1つ見つけられた気がする。

「か か し の 里」「か か し の 里」
白州に向けて徐々に標高を上げていく白州に向けて徐々に標高を上げていく
かかしの里からは白秋・韮崎ステージのハイライトとなる標高680mのクライムが始まる。道の駅富士川からここまで登り基調ではあったものの斜度がグッとあがり、坂道を登っていることを目と脚で実感する。距離2km/平均斜度6%は立派な丘越えと言っても良いはずだが、参加者の皆さんは健脚なのだろう、軽やかに登っていく。

紅葉し始めた樹木、寒すぎず暖かすぎない丁度よい気温、ライドで熱された身体を冷ましてくれる風、全てが気持ち良い。最高標高地点にたどり着けば、それ以降はフィニッシュまで下り基調だ。ダウンヒルで軽快に風を切って走っていると、非常に澄んだ水が流れる大きな川が突如現れる。大武川というらしい。ここは名水の地・白州エリアだ。橋の上だけは他のエリアよりも空気が澄んでいるように感じられるのは気のせいだろうか。凛とした空気感に復路も頑張ろうと思わされるのであった。

秋晴れが気持ち良い秋晴れが気持ち良い 背中越しに見えるのは秩父多摩甲斐国立公園の山々背中越しに見えるのは秩父多摩甲斐国立公園の山々

大武川から見えるのは南アルプスの山々大武川から見えるのは南アルプスの山々 何気なく現れる坂がパンチ力に富み、苦しむ参加者何気なく現れる坂がパンチ力に富み、苦しむ参加者

復路は富士山を眺めながら南下していく復路は富士山を眺めながら南下していく
遠慮なく吹き付ける向かい風に四苦八苦しながら第2エイドである韮崎市立北西小学校に転がり込む。空腹感を覚えるこのタイミングで現れる第2エイドはガッツリとしたお弁当が振る舞われるため、序盤はある程度張り切っても問題ない。3つも選択肢が用意されており、どれを選ぶか悩むのもこのエイドの醍醐味だ。どれも手の混んだ作りで美味しいのは見た目からも伝わってくる。

筆者が選んだ「菜と香」のお弁当には、サンマの唐揚げやカブの梅煮などヘルシーな料理が沢山詰め込まれている。幾つもあるおかずの中でも先述した2つと"里芋の胡麻和え""さつまいものレモン煮"は非常に美味しく頂いた。できるならば再び食べてみたいと思うほどだ。

韮崎市立北西小学校でお昼休憩を取る韮崎市立北西小学校でお昼休憩を取る
内容によって選べるのは非常に嬉しい内容によって選べるのは非常に嬉しい 筆者は「菜と香」さんのお弁当をチョイスした筆者は「菜と香」さんのお弁当をチョイスした


のんびりと休憩した後は、第3エイドの清月を目指して南下をはじめる。この区間では今中さんが牽引するグループに乗車することができ、非常に快調なペースでサイクリングを楽しむ。ここだけの話だが、私は付き切れしそうになる場面に数度見舞われた。なんとかかんとか集団に食らいつき、清月へと転がり込む。

"プチ"でも振る舞われるロールケーキを我々も頂けるのがこのエイド。お昼ごはんにデザートというコース料理のようなエイド配置には感嘆の声をあげるしかない。チャレンジングなコースでの消費カロリーに、エイドステーションでの摂取カロリーが猛追している気がするけれど、美味しい食の前では気にしてはいられない。瞬く間にロールケーキをペロリと平らげてしまう。

第3エイドの清月ではロールケーキが振る舞われる第3エイドの清月ではロールケーキが振る舞われる
しっとりとした皮とふわふわの生地。最高だしっとりとした皮とふわふわの生地。最高だ これでもかと言うくらい次々とロールケーキが並べられるこれでもかと言うくらい次々とロールケーキが並べられる


第3エイドの後はフィニッシュまで10kmほどの道のり。程よいアップダウンと山梨の自然、味覚を堪能したこの日のライドを振り返っていれば、あっという間にたどり着いてしまう道の駅富士川でフィニッシュ。充実した内容の白州・韮崎ステージを走りきったメンバーは、翌日のツール・ド・富士川ステージに向けての足慣らしは完了だ。

フィニッシュエイドとして振る舞われていた山梨県の郷土料理"みみ・ほうとう"。具だくさんの"みみ"を頂きながら、今中さんと石垣さん、エース栗原さんのトークショーに耳を傾ける。軽妙なトークに笑っていたら、あっという間に1時間が経過していたようだ。豪華景品が貰えるじゃんけん大会を楽しんだら、南アルプスロングライドの初日の幕が降りる。トークショーで今中さんが教えてくれたマッサージ方法を温泉で試してから、就寝するのであった。

釜無川の河川敷に帰ってきたらフィニッシュはもうすぐそこだ釜無川の河川敷に帰ってきたらフィニッシュはもうすぐそこだ チャリたぬが迎えてくれるフィニッシュゲートチャリたぬが迎えてくれるフィニッシュゲート

ライド後はゲストによるトークショーを楽しんだライド後はゲストによるトークショーを楽しんだ
みみほうとうで夕飯前の腹ごなしをみみほうとうで夕飯前の腹ごなしを お手製のカレンダーを持ち込んだエース栗原さんお手製のカレンダーを持ち込んだエース栗原さん



text&photo:Gakuto Fujiwara