今日は我々編集部にとって大切な取材日。あの伝説的な自転車界の神様と呼ばれるゲイリー・フィッシャー氏との対談取材である。しかも、わざわざ編集部までレジェンド自らご足労頂けるとのことだから、なおさらテンションも上がってしまう。

「レジェンド様」に失礼にならないよう、前日にスタジオ内のお掃除を済ませ、インタビュアーの仲沢さんと共に大御所の到着を待つ。

大御所ゲイリー・フィッシャー氏、とってもフレンドリーな方です大御所ゲイリー・フィッシャー氏、とってもフレンドリーな方です 午前10時を少し過ぎた頃に、トレック・ジャパンの野口忍さんと共にゲイリーさんの登場である。

その懐かしい笑顔とスタイリッシュな立ち姿は以前のままである。ゲイリーさんとは取材で何度も顔を合わせており、4年前には一緒にサイクリングを楽しんだ経験もある。ゲイリーさんのユーモラスな一面も十分承知しているのだ。

お互いに旧知の仲という事も手伝い、スタジオ撮影を含めた対談取材も順調過ぎるくらい順調に進んでゆく。和やかな雰囲気のままインタビューも無事終わり、予想通りの言葉がゲイリーさんから私に投げかけられた。

「ヘイ!今日はどんなコースを案内してくれるんだい?」 勿論、この展開は私にとっては想定の範囲内である。

「では、私達のホームコースをサイクリングしてみますか?」 私の言葉にレジェンドの表情がパッと明るくなる。
隣の野口さんの「聞いてないよ~。」と言わんばかりの表情が何とも滑稽にすら感じる。

レジェンドが多摩湖サイクリングロードを走り抜けるレジェンドが多摩湖サイクリングロードを走り抜ける 撮影用に持参してくれたフィッシャーモデルのロードバイクに、ペダルを装着し、あっと云う間に着替えを済ませる私達3人を横目に、トレック・ジャパン野口さんの表情は困惑しきりである。

野口さんにとって、サイクリングは想定の範囲外である。「約2時間後にいつもの狭山湖側の駐車場で合流しましょう」と、途方に暮れる野口さんを置き去りに出発する私達3人。

ゲイリー・フィッシャーのロードバイクのインプレッションも兼ねたクルージングライドのスタートだ。

インプレッションを仲沢さんに託した私は、走りながらメタボ会長に電話を入れる。

「会長、お疲れ様です。予想通りゲイリーさんとサイクリングをする事になりましたので、時間が合うようでしたら鹿島休憩所の手前あたりで合流しますか?」

「おぉ、行く行く!45分後に合流でヨロシク!」 二つ返事で電話をガチャリだ。

実は昨日のうちに、「多分ゲイリーさんと多摩湖を走る事になると思うので、実現したら会長も合流しますか?」と打診は入れてあったのだが、メタボ会長のハイテンションな返答に一抹の不安を覚え始める私だったが、いまさら後悔を始めたところで、既に声を掛けてしまった以上仕方ないと割り切って走ることにする。

サイクリングを楽しむゲイリー氏サイクリングを楽しむゲイリー氏 新堤防にて「ナイス・ビュー」と絶賛新堤防にて「ナイス・ビュー」と絶賛


しばらくの間、インタビュアーの仲沢さんと3人で多摩湖サイクリングロードを味わう。天候にも恵まれ心地よいサイクリングは続く。埼玉側から新堤防を渡り、東京側の緩やかな上りを3人で進む。ゲイリーさんの朗らかな表情が私達の心を明るくしてくれる。
木漏れ日の中を軽快に進んでいくと、前方で手を振っている緑色の丸っこい物体を発見。予定通りメタボ会長との合流である。

「おぉ、ゲイリーさん、日本にようこそ!」 まるで日本を代表するかのような挨拶に一気に場が和んでゆく。

二人の初対面の瞬間。ほんとに初めてですか?二人の初対面の瞬間。ほんとに初めてですか? 「会長、くれぐれも失礼の無いようにお願いしますよ!会長の態度如何では国際問題にまで発展しかねませんからね!」

メタボ会長のフレンドリー過ぎる態度に慌ててガッツリと釘を刺すものの、やっぱり彼は止まらない。

「流石に伝説の男だけあって、ゲイリーさんはやたらデカイな!」

大笑いしながら意味不明な言葉を発するメタボ会長。油断しきった彼の態度にハラハラしながら、「時間も限られているので出発しましょう。」と声を掛けるのが精一杯な私である。

何とか事を荒げること無く、再出発に漕ぎ付けた私達。当然のように道案内係りは私である。つまり、自動的にペースメーカーも私という事である。積年の恨みを晴らす絶好のチャンス到来なのだ。

メタボ会長との伴走経験豊富な私は、会長が追走できるリミットペースを十二分に把握している為、彼を生かすも殺すも自由自在という訳だ。

ゲイリーさんと仲沢さんは当然のようについてくるものの、最後尾のメタボ会長にはお仕置きに値するペースで、緩やかな上り坂を引き続ける。

振り返って見ると案の定、メタボ会長の顔が苦痛で歪んでいる。「ちょっとペース速過ぎるぞぉ~~!」 後方からメタボ会長のブーイングが私の耳に届くものの、業務に忠実な私は一切シカトしてサイクリングを続行する。
一定のペースを固く維持したまま、楽しそうな3人と苦しそうな1人が、集合場所の狭山湖駐車場目指して進んでゆく。

メタボ会長を優しく見守るゲイリー氏メタボ会長を優しく見守るゲイリー氏 二人揃って意味不明のガッツポーズ二人揃って意味不明のガッツポーズ


メタボ会長と合流後、小一時間のサイクリングを楽しんだ私達は、狭山湖駐車場へと流れ込む。駐車場で待機していてくれたトレック・ジャパンの野口さんと無事合流である。当然、ゲイリーさんに対してメタボ会長が働いた無礼の数々は野口さんには黙秘を貫くしかない。

「おいおい、今日はゲイリーさんと一緒にサイクリングしようって話じゃなかったっけ?これじゃただの拷問だよ。まっ、楽しかったから問題ないけどな」。

到着と同時に、文句を並べるメタボ会長であったが、まんざらでも無い事が一目了然のごとく、その表情は光り輝いている。やっぱり自転車ってイイもんである。

一息ついたところで、私は仲沢さんと野口さんと共に、ゲイリー・フィッシャーのロードモデル「クロノス」のインプレシート記入作業に取り掛かる。感覚が新鮮なうちに書きこむ事が、率直なレポートには欠かせないのである。
そもそも、このサイクリングの一番大切な目的がクロノスの試乗インプレッションであるため、メタボ会長ごときに構っている暇など微塵も無いのだ。

二人とも何がそんなに楽しいんですか?二人とも何がそんなに楽しいんですか? その一方で、なぜだかわからないが、ゲイリーさんとメタボ会長がとても親しげに喋っている。
見ているこっちはハラハラしっ放しなのだが、こっそりと聞き耳を立ててみると、

「ゲイリーさんのバイクってカッコイイね!俺にくれない?」

なんとも、無礼極まりない言葉を投げかけているではないか! このメタボ会長の言葉が野口さんの耳に届いていない事を祈りながら、様子を伺う私であったが、何だか、やたら楽しそうな二人である。

ゲイリーさんがおもむろにメタボ会長に向かって
「君の腹はビア樽みたいに立派だね。ただ、私も負けない位の腹を持っているんだよ!(笑)」

それを聞いたメタボ会長が、おもむろにゲイリーさんのお腹をツンツンと突っつき始める。
負けじとゲイリーさんもメタボ会長の腹をグイグイと突っつき返す。
二人でお互いの脂肪腹を確かめ合った結果、どうやら軍配はメタボ会長に上がったようだ。(当たり前ですけど)

あなた方は何を競い合ってるんですか?あなた方は何を競い合ってるんですか? どう見たってアンタが勝つでしょ!どう見たってアンタが勝つでしょ!


その後も二人で、通じてるんだか否か、片言の英語で笑いっぱなしで喋っている。小一時間前に初めて会ったメタボ会長相手に、飾ること無く接するゲイリーさん。レジェンドとまで呼ばれるゲイリーさんの素敵な人柄に改めて感心させられる私だった。そのレジェンド相手に、まるで古くからの友達に接するかのように、全く臆すること無くバカ笑いしながら捲し立てるメタボ会長もまた、素敵な人間なのかもしれないと感じてしまう・・・。

本日の予定数の作業もほぼ終わり、車体類の片づけを始めた私に、おもむろにゲイリーさんが彼のアイフォーンの画面を差し出してくる。

「私のツイッターで今日の事をツブヤいておいたよ。新しくできたフレンドの写真と一緒にね!」
無邪気な表情でウインクしてくるゲイリーさん。その画面を覗き込んだ瞬間に、私の表情は凍りついた!

ゲイリーさんのツイッターで、あろうことかメタボ会長の姿が全世界に向けて投稿写真とともに発信されてしまったのだ。

「We share here on Japan! We both have a beer tumor(オレたちは日本で一緒に過ごした。ふたりともビール腹っだ)... 」(投稿された原文)

世界に向けて発信されたメタボ会長。伝説の男とまで呼ばれるゲイリー氏の立場が心配です。世界に向けて発信されたメタボ会長。伝説の男とまで呼ばれるゲイリー氏の立場が心配です。

ゲイリーさんのツブヤキをフォローしている人口を考えると身の毛がよだつ思いである。この日本の恥を野放しにした編集部の責任は果てしなく重い。メタボ会長の世界デビューにただただ恐縮しながら、この展開に苦笑するトレック・ジャパンの野口さんに謝り続ける私であった。


次回ですか?
メタボ会長は社内に監禁します。
ドリームバイク探しの宿題もありますし・・・。


メタボ会長連載のバックナンバー こちら です


「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」 メタボ会長
身長 : 172cm
体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 12ヶ月目

当サイト運営法人の代表取締役。
高校3年まで野球に明け暮れ、大学時代にオートバイのロードレースに夢中になり、卒業後メーカー系チームに所属し全日本選手権に3年間出場。鳴かず飛ばずで所属チームを解雇された後、平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となるが、その勤務実態や社内での立場は謎に包まれている。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。


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