入社からそろそろ1年ほど経つ私カマタであるが、まだまだ新人編集部員の枠を出ない。そんな私が入社時の面接以来まともに話したことがない本店の最高責任者たるメタボ会長のお寺巡りに同行取材しレポートするという今回の企画。

写真が撮れない、道案内も出来ないという失態続きで楽しむ余地など全くない緊張の連続であったが、時間を重ねる内にようやく慣れてきた感が出てきた。ということで7番札所までクリアした前回に引き続き札所巡りレポート行ってみましょう。



日本武尊の伝説を持つ武甲山は良質な石灰岩が採掘出来るため、岩肌を大きく削られています日本武尊の伝説を持つ武甲山は良質な石灰岩が採掘出来るため、岩肌を大きく削られています
先の法長寺から日本二百名山の一つに数えられる武甲山の方向に進む。日本武尊が自らの甲(かぶと)をこの山の岩室に奉納したという伝説があるという由緒正しい山だが、良質な石灰岩が採掘出来ることから、現在では山の形が変わってしまうほど大規模な採掘が進められてしまっている。

そんな武甲山を見上げる位置にあるのが秩父札所八番 ”最善寺(さいぜんじ)”。1234年に開創された西善寺は本堂の前にある大きなコミネモミジが特徴のお寺。埼玉県の天然記念物に指定されているコミネモミジは樹齢およそ600年、幹囲り2.9メートル、樹高9メートルに及ぶ大木だ。枝まわり50mと大きな傘のようなダイナミックな古木で新緑、紅葉の時期が特に美しいそうだ。

武甲山の麓に位置する秩父札所八番 ”最善寺(さいぜんじ)”は1234年に開創したお寺です武甲山の麓に位置する秩父札所八番 ”最善寺(さいぜんじ)”は1234年に開創したお寺です
西善寺はもともと、浄土系か天台系の念仏の寺でしたが、現在は禅宗のお寺となっています西善寺はもともと、浄土系か天台系の念仏の寺でしたが、現在は禅宗のお寺となっています
コミネモミジは枝周りが1番の見所ですが、諸事情により幹だけの写真になってしまいましたコミネモミジは枝周りが1番の見所ですが、諸事情により幹だけの写真になってしまいました
今回訪れたのは中途半端な時期だったが、それでもコミネモミジの堂々たる構えには目を奪われる。秩父札所の中でも人気の寺で、境内は非常に綺麗に整備されており、穏やかな時間が流れる空間となっている。こちらは禅宗の寺ということで、座禅指導も行っているとのことだ。

巨大なコミネモミジに別れを告げ、次に向かうは2kmほど先にある秩父札所九番 ”明智寺(あけちじ)”。建久2年(1191年)に明智禅師によって開創された明智寺は、安産子育ての如意輪観音を本尊としており、縁日となる正月16日と盆の16日は女性参拝者で賑わうという。観音堂は札所5番の語歌堂とほぼ同時期に建てられたものだが、明治16年に落雷で消失。以後、仮堂のままだったが近年再建されたものだそうだ。

秩父札所九番 ”明智寺(あけちじ)”は安産子育てにご利益があるため、女性が多く参拝しています秩父札所九番 ”明智寺(あけちじ)”は安産子育てにご利益があるため、女性が多く参拝しています
正直、かなり質素な感が否めないため、そそくさと納経を済ませ次を目指す。そもそもの”納経”とは、神社仏閣に読経か写経のどちらかでお経を納め、その証として御朱印を頂くというのが本来の形なのだが、現代では御朱印を頂くだけで、納経をしっかりこなす人はほとんどいないのが現状。もちろん私たちもご多分に漏れず御朱印を頂くだけになっているのが心苦しいところではある。

次の秩父札所十番 ”大慈寺(だいじじ)”は明智寺から北に2km進んだところにあるのだが・・・あれ?あれ?この急な階段と特徴ある山門はどこかで見た覚えがあるぞ?

ここは秩父を舞台にしたアニメ「心が叫びたがっているんだ」で、主人公の成瀬順が同じクラスの坂上拓実にラインで会話するシーンに使われた石段じゃないか!秩父地区がアニメの聖地巡礼で盛り上がっているのは知っていたが、札所巡りとの接点があるとは予想もしていなかった。

アニメ”ここさけ”ではこの石段が成瀬順と坂上拓実のラインで会話するシーンに使用されましたアニメ”ここさけ”ではこの石段が成瀬順と坂上拓実のラインで会話するシーンに使用されました
秩父札所十番 ”大慈寺(だいじじ)”は明智寺とともに子育観音としての信仰を集めたお寺です秩父札所十番 ”大慈寺(だいじじ)”は明智寺とともに子育観音としての信仰を集めたお寺です
「心が叫びたがっているんだ」とは人気アニメが多数制作された2011年にヒットを飛ばし、舞台となった秩父を精巧に描いたことで聖地巡礼ブームを巻き起こした「あの花の名前を僕たちはまだ知らない」のメインスタッフが再集結し作られた劇場アニメ作品で、過去のトラウマから言葉を喋ることが出来ない成瀬順が、ひょんなことから任されてしまった「地域ふれあい交流会」実行委員のメンバー達と共に思春期の歯がゆい心の叫びを描く青春群像劇だ。おっと興奮して1文で書いてしまった。

最初こそ秩父はつまらない場所かと思っていたが、ヒットアニメの聖地が点在していたり結構楽しいことに気づいてしまった。よくよく考えたら秩父や四国で行われる札所巡りと呼ばれるいわば昔のオリエンテーリングは、私たち若者世代において考えると”聖地巡礼”が近い感覚なのかもしれない。そう考えるとそこまで気負わずに巡る事が出来る。もっとも私は札所巡りより聖地巡礼がイイが。

大慈寺の仁王門は2階建ての樓門形式で小さいながらもどっしりと重厚な造りです大慈寺の仁王門は2階建ての樓門形式で小さいながらもどっしりと重厚な造りです 秩父のまちおこしに一役買っている”ここさけ”のポスターが張ってあります秩父のまちおこしに一役買っている”ここさけ”のポスターが張ってあります


大慈寺歌山を挟んだ反対側にあるのが秩父札所十一番 ”常楽寺(じょうらくじ)”である。秩父市街を見渡せる位置に建つこのお寺は小さめの観音堂と庫裡があるのみ。かつては仁王門を揃え栄えた時期があったということだが、明治11年の秩父大火にて消失してしまったとか。現在でも病気平癒と長寿祈願を願い参詣する人は多くいるが、何か見所があるお寺かと言われるとそうでもない。

秩父札所十一番 ”常楽寺(じょうらくじ)”はかつて、観音堂、仁王門を備える立派なお寺でした秩父札所十一番 ”常楽寺(じょうらくじ)”はかつて、観音堂、仁王門を備える立派なお寺でした
駐車場から境内に上がる石段は急勾配ですが上からは秩父市街が望めます駐車場から境内に上がる石段は急勾配ですが上からは秩父市街が望めます 常楽寺の裏山には上之臺稲荷神社があるため鳥居がいくつも建っています常楽寺の裏山には上之臺稲荷神社があるため鳥居がいくつも建っています


次の札所12番へは羊山公園東側に接するように伸びる細道を進んでいく。出発前から気になっていたのだが、今日の会長はポタリングなのにガッチガチのレース機材であるシールド付きのエアロヘルメットを被っているのだろう?ペースを考慮しても決して空力が必要とは思えないのだが。その旨を尋ねてみると。

「コイツはシールドの中に老眼鏡をかけることができるんだよ!おまけに、トンネル入る手前でアイウェア外した時なんか収納に困るだろ?でもコイツはアイウェア自体が必要ないしシールドをひっくり返すだけだから一切困らない!サイコーの1品だよ!」とのこと。なるほど、新しいヘルメットがとてもお気に入りの様子だが、まぁ私にとってはどうでもいい話だった。

12番札所に向かう道は道幅が狭く、生活感がある田舎道です12番札所に向かう道は道幅が狭く、生活感がある田舎道です 巡礼道の所々にある標札。このサイズじゃ見落としますね巡礼道の所々にある標札。このサイズじゃ見落としますね

稀にビッグサイズの標識があります。これなら見落としません稀にビッグサイズの標識があります。これなら見落としません 12番札所の本堂と同じ白い塀に沿って自転車を進めます12番札所の本堂と同じ白い塀に沿って自転車を進めます


なかなか雰囲気のいい細道を抜けると秩父札所十二番 ”野坂寺(のさかじ)”に到着。まず見えるのは立派な建ち誇る重層楼門造りの山門。中には風神雷神雨神等の精巧な作りの木像が立ち並び、見ていて感心させられる。その山門を抜けると白壁が美しい本堂が現れる。この本堂は明治39年に1度焼失してしまったとのことだが、その後昭和49年に再建されたもの。そのため建物は比較的綺麗で新しいのが特徴である。

秩父札所十二番 ”野坂寺(のさかじ)”の山門は大きく立派な重層楼門造りです秩父札所十二番 ”野坂寺(のさかじ)”の山門は大きく立派な重層楼門造りです
秩父札所の中でも特に美しい庭園には桃、ツツジ、藤、紫陽花、蓮等の花々が植えてあります秩父札所の中でも特に美しい庭園には桃、ツツジ、藤、紫陽花、蓮等の花々が植えてあります
隅々まで手入れの行き届いた美しい境内には、季節ごとに様々な草花が咲き乱れる。そしてここ野坂寺で抑えておきたいのが”童顔の六地蔵”。それぞれ色んな顔で笑顔を見せてくれるのだが、童顔と言われても穏やかなオッサンの顔にしか見えないところが重要なポイントである。

オッサン顔の”童顔の六地蔵”とにらめっこする会長。いい勝負ですオッサン顔の”童顔の六地蔵”とにらめっこする会長。いい勝負です 童顔の六地蔵の中で1番いい笑顔をしていたのがこのお地蔵様でした童顔の六地蔵の中で1番いい笑顔をしていたのがこのお地蔵様でした


巡路は秩父駅前近辺に戻ってきた。秩父駅前には有名な”秩父神社”があったが、札所巡りには含まれないため今回はスルーとの事、ちょっぴり残念だ。「ちょっと寄っていきましょうよ!」とメタボ会長相手に直談判できるくらいの思い切りを身に着けたいものだ。そのまま市街地の石畳区間を走ると、しばらくして秩父札所十三番 ”慈眼寺(じげんじ)”に到着。12番からの距離は約1.5kmだ。

慈眼寺は市の中心街にあり秩父札所連合会の事務所もあるお寺。本堂は、明治11年の秩父大火で焼失したが、明治34年に1番札所の本堂を模して再建された。境内には眼の薬効成分を含む“メグスリノキ”が2本あり、納経所では樹皮のエキス入りの茶を頂く事が出来る。

秩父神社の前にも秩父を舞台にしたアニメ”あの花”のオブジェが置いてあります秩父神社の前にも秩父を舞台にしたアニメ”あの花”のオブジェが置いてあります 秩父札所十三番 ”慈眼寺(じげんじ)”は秩父市の中心街に位置するお寺です秩父札所十三番 ”慈眼寺(じげんじ)”は秩父市の中心街に位置するお寺です

慈眼寺の本堂は三間四面の大きさで表軒唐破風つきの入母屋造りと堂々たる風格が持ち味です慈眼寺の本堂は三間四面の大きさで表軒唐破風つきの入母屋造りと堂々たる風格が持ち味です
境内には市の文化財となっている一切経が奉納されている経蔵があるのだが、ここで会長がSPDシューズを脱ぎ棄てこの経蔵に上がり込むなり、中にある六角形の棚をグリングリン回し始める。この棚を回転させると全巻を読んだと同じ功徳を得ることができる、と云われているのだとか。

「ほら、カマタ君も廻しときな!これを廻しただけで中に入ってる書物を全て読んだ事にしてくれる便利なシムテムだから!」と得意満面に力説してくる。そんな馬鹿なと思い「ところで、この中にはどんな書物が入っているんですか?」と尋ねると、すっとぼけた顔で「え?知らねえよ!」との返答。絶対読んだ事になってないと思うのだが、そこら辺このシステムはどうなっているのだろうか。

一切経が奉納されている六角形の棚を勢い良く回すメタボ会長。壊れないかと冷や汗モノです一切経が奉納されている六角形の棚を勢い良く回すメタボ会長。壊れないかと冷や汗モノです
”メグスリノキ”は戦国時代から眼病に効くとして知られていました”メグスリノキ”は戦国時代から眼病に効くとして知られていました 納経所ではメグスリノキ樹皮のエキス入りの茶を頂きます。独特なお味でした納経所ではメグスリノキ樹皮のエキス入りの茶を頂きます。独特なお味でした


次の目的地である秩父札所十四番 ”今宮坊(いまみやぼう)”までは600mほどのご近所にある。江戸時代までは近くにある今宮神社の別当として観音堂を備えていたが、明治時代に行われた神仏分離により今宮神社と分離された今宮坊。そのため秩父札所の1つとして、また、藤原時代後期作と伝えられる飛天像も安置されるため秩父市指定の文化財として信仰されているそうだ。

秩父札所信仰に深い関係をもった修験道場の大宗の1つであった秩父札所十四番 ”今宮坊(いまみやぼう)”秩父札所信仰に深い関係をもった修験道場の大宗の1つであった秩父札所十四番 ”今宮坊(いまみやぼう)”
この今宮坊も質素な作りで、住宅地にぽつんとあるため、ご近所の憩いの場として使われるような馴染み深さがある。ここから次の目的地である15番札所までは秩父駅の方向に戻るように1kmほど進む。秩父鉄道の踏切を超え、石段を上がると見えるのが秩父札所十五番 ”少林寺(しょうりんじ)”だ。

もともと札所15番は秩父神社の傍らにあった蔵福寺が受け持っていたが、廃寺になったのを機にこの少林寺が受け継いだそうだ。また他の札所とは違い、白い外壁で洋風な作りが特徴的な本堂は明治11年の秩父大火による焼失の教訓を活かして火に強い白漆喰塗りの土蔵造りで作らたとのこと。

ここでちょっと気付いたことがある。13番から15番辺りは秩父駅周辺に密集しており、そのためか密かなブームとなっている”御朱印ガール”がまま散見される。それこそ年配の方よりも若い女性の方を多く見かけるくらいだ。はたして編集長の言っていた”年配の読者層向けコンテンツ”は正しいのだろうか?と疑ってしまうほど平日にも関わらず”御朱印ガール”が目立つ。

秩父札所十五番 ”少林寺(しょうりんじ)”は西武鉄道の踏切を越え綺麗に整備された石段の先にあります秩父札所十五番 ”少林寺(しょうりんじ)”は西武鉄道の踏切を越え綺麗に整備された石段の先にあります
少林寺は明治11年の秩父大火の教訓を元に火に強い白漆喰塗りの土蔵造りで再建されました少林寺は明治11年の秩父大火の教訓を元に火に強い白漆喰塗りの土蔵造りで再建されました 本堂の屋根には”札所”の由縁たる納められた御札がびっしりと貼られています本堂の屋根には”札所”の由縁たる納められた御札がびっしりと貼られています


この時点でまだ14時前、走行距離はおよそ30km程度。秩父の札所は全部で34箇所あるわけだが、会長は今日1日で何か所廻るつもりなんだろう?そもそも全部で何kmくらい走ることになるんだろう?そんな初歩的なことを疑問に思い尋ねてみると

「全行程でちょうど100kmくらいかな?自転車使って巡る人たちは、1泊2日か2泊3日で三十四箇所巡る人が多いみたいだけど、気合の入っている人は1日で全部巡っちゃう人もいるらしいぞ。」なるほど。できるならその情報は取材開始前に欲しかった。などと思っていると会長からの言葉が続く。

「でもなカマタ君、取材に来るならそれくらいの予習はしておくべきじゃないのか?君の先輩たちはそんなことも教えてくれなかったのか?」

やってしまった!これには気を付けるようにと先輩方にクチ酸っぱく言われていたのに・・・。優しい口調に穏やかな表情のままだが、メタボ会長の目の奥が一瞬ギラリと光った気がした。もの凄い威圧感にたちまち萎縮してしまう私。これが先輩方が恐れているヤツだと私の生存本能が教えてくれる。ヘビに睨まれたカエルの気持ちが痛いほど判る!

ちょっとした気の緩みが招いた緊迫した空気とともに、次回は札所16番・西光寺から札所22番・童子堂までを巡ります。



メタボ会長連載のバックナンバー こちら です

メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 84kg 自転車歴 : 8年目

当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を辞し会長職に退くも、平成20年に当サイトが属するメディア事業部の責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。豊富な筋肉量を生かした瞬発力はかなりのモノだが、こと登坂となるとその能力はべらぼうに低い。日本一登れない男だ。

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投稿者: 豊田 美加, 超平和バスターズ
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装丁: 文庫, 301 ページ
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