サッカーW杯2002の決勝戦が繰り広げられた日産スタジアムにサイクリストが集結。「ブリヂストン×日産スタジアム サイクルパークフェスティバル」が9月23日に開催された。普段は走行できない競技場内と新横浜公園をのびのびと駆け抜けるエンデューロレースの様子をCW編集部員がレポートする。



NISSAN STADIUMと書かれたバックスタンドを眺めながらトラックを一周するNISSAN STADIUMと書かれたバックスタンドを眺めながらトラックを一周する
9月23日午前3時。目覚まし時計が騒ぎ立てる時間より30分ほど前に目覚めた私は、窓に打ち付けられる雨音に耳を疑った。前日の夜より降り続く雨はあがるどころか、むしろ勢いを増しているかのようだ。てるてる坊主を自宅の窓際に祀ってみたものの効果は無かった。私の脳内は絶望モードに。

なぜこんなにも晴れを願うのか。この日は1年に1度だけ競技場内と新横浜公園内を走ることができる貴重なイベント「ブリヂストン×日産スタジアム サイクルパークフェスティバル」が開催されるからである。

雨であっても楽しんで走ることができるが、自分の出走時間以外は体を冷やさないように淡々と自分の番が回ってくるのを待ち続けないといけない。まるで精神修行かのように。加えて雨天装備だと荷物も多くなるし、風邪にかかりやすくなるし、あまり良いことはない。できれば晴れてくれ、これが参加者の総意のはず。

雨ながらもにこやかに朝の準備を済ませる参加者たち雨ながらもにこやかに朝の準備を済ませる参加者たち 常連チームはタープを立てて、快適に過ごせるような拠点を構えていた常連チームはタープを立てて、快適に過ごせるような拠点を構えていた

開会の言葉を述べる初山翔選手開会の言葉を述べる初山翔選手 コースマーシャルが振るフラッグの意味を伝え、全員が安全に走れるようなブリーフィングを行ったコースマーシャルが振るフラッグの意味を伝え、全員が安全に走れるようなブリーフィングを行った


そんな想いが通じたのか、参加者の皆さんが"持っている"のかはわからないが、試走が始まる7時頃は既に小雨状態に。相変わらず雨具を手放すことはできないが、日産スタジアムには、遠くは大阪から近くはスタジアムのアナウンスが聞こえるのではないかというほどのご近所から、数多くの参加者が集結した。

日産スタジアムはサッカーW杯決勝など国際大会が数多く開催される競技場であり、遠方からのスポーツファンを受け入れるため、各地からアクセスしやすいことが魅力。羽田空港からもバスがでているため、来ようと思えば日本全国から比較的簡単に足を運ぶことができるのだ。もっとも、多くの参加者は首都圏内のサイクリストではあるが。

今回筆者はJR横浜線小机駅で下車し徒歩で会場入りしたのだが、駅では輪行を解く姿がそこかしこに。歩いても10分程度であるため、応援のみの方でも来場しやすいのは嬉しい。高速道路のインターチェンジも至近にあるため、自動車でももちろんアクセスしやすい。

ブリヂストンアンカーの選手が先導してくれるブリヂストンアンカーの選手が先導してくれる 鈴木龍選手と大久保陣選手がまずは先頭に立つ鈴木龍選手と大久保陣選手がまずは先頭に立つ

トラックの中を駆け抜けていく集団トラックの中を駆け抜けていく集団
さてスタジアムのゲートをくぐり、いよいよ競技場に足を踏み入れる。テレビの画面越しで眺めていたピッチとトラック、スタンドを目線の高さを見ると、競技場は想像以上も広く壮観の一言。スポーツ選手として競技を行えるのは一握り。そんなところを走るのはこの上ない喜びだろう。

格式高い競技場ではあるが、コースとなる陸上トラックの外縁にはテントやタープを立てることが許されている。13回目の開催を迎える本大会に常連チームも多いようで、手慣れたようにスペースを確保しチームの拠点を構えて、雨対策万全を整えている。

参加者に用意されたスペースが埋まり始めた頃、いよいよレースが始まる。ブリヂストン×日産スタジアム サイクルパークフェスティバルは、3時間の部と2時間の部にわかれた2部制レースとなっており、3時間の部からレースの幕が切って落とされる。

日産スタジアムから徐々に離れていく日産スタジアムから徐々に離れていく
まず集団の先頭に立つのはブリヂストンアンカーの選手たち。全日本TTチャンプの西薗選手を始めとするロードチーム、星野選手と沢田選手のMTBチームが参加者たちと一緒に走ってくれることが、このイベントの魅力の1つ。

鈴木龍選手が参加者たちを引き連れスタジアムの外へ飛び出しても、車列の最後端はトラックの半分以上後方にいる。それほど参加チームが多いうえ、雨が降り続き落車の危険性が高まっているため、レースは安全性を高めるために、最初の半周はローリングスタートとなっているのだ。

選手たちが走るコースは日産スタジアムを離れたあとは隣接する新横浜公園を大きく一回りする3km。かねがねフラットなコースであるが、トラックが2階相当に位置するため、スタジアムに出入りする際にアップダウンが1箇所ずつ設けられている。また、このイベントでは広々とした園路を占有しており、のびのびと気持ちよく走れることが特徴だ。

高架下を走る高架下を走る 広々とした園路を専有しているため、のびのびと走ることができる広々とした園路を専有しているため、のびのびと走ることができる

緑が多い公園内を集団は行く緑が多い公園内を集団は行く スタジアムをバックに走るスタジアムをバックに走る


参加者が走り出すと、空から落ちる水滴の量は徐々に少なくなり、いつの間にか雨はあがっていく。朝方は晴れる気配を感じさせない本降りの雨だったが、まさかやんでしまうとは。やはりこのイベントを走るサイクリストたちは"持っている"。路面も徐々に乾いていき、ますます安全にサイクリングが楽しめるようになっていった。

コース上にはマーシャルが狭い間隔で配置されており、レースを細かく観察。落車などが発生するとフラッグでコースでの異変を知らせてくれるシステムが採用されている。選手たちはトラブル発生現場に辿り着く前に、注意しなければならないことを察知できるため、意識をスピードを追求することから安全に切り替えやすくなっている。無事に家に帰ることが第一であることを再認識させられるほど、安全対策が徹底した大会だと感じさせられた。

コースを1周見て回り、トラックへと戻ると会場の熱気はスタート時よりも高くなっているようだ。ピット脇には人垣ができており、チームメートが通る度に歓声があがっている。日産スタジアムのトラック上を走り応援される。陸上競技ではないが、その時の高揚感は唯一無二のはずだ。筆者ならば超満員のスタンドを妄想し、1人でニヤニヤしながら走ってしまうことは間違いない。

謎のカカシが集団を応援してくれる謎のカカシが集団を応援してくれる トラス構造の陸橋を横目に走るトラス構造の陸橋を横目に走る

台風の影響で倒れてしまったコスモスだったが力強く咲いていた台風の影響で倒れてしまったコスモスだったが力強く咲いていた
一度レースが始まってしまうと時間はあっという間に経過してしまうもので、いつの間にか3時間の部はフィニッシュとなる。ピットがクローズされると観客たちはコースのすぐ脇まで出てくることができるため、3時間を走りきったチームメートとハイタッチして完走を祝うチームも。3時間+2時間のキングの部もここで一度小休止。お昼ごはんの時間だ。

スタジアムの外を出るとメーカーの出展ブースと飲食のケータリングカーが立ち並ぶ。出展の中心となるアンカーブースは、ブリヂストンがオリンピックをサポートすることもあり、五輪を走ったアンカーバイクたちが勢揃いした。ソウル五輪からリオ五輪までのバイクは、ブリヂストンが長い間日本のサイクルスポーツをサポートしていたことを物語っている。もちろん最新バイクの試乗も行われており、スタッフによる詳しい説明とともに自分の足でロングライドバイクRL9を確かめることができた。

最後の最後に難所ピレネーピークが待ち構える最後の最後に難所ピレネーピークが待ち構える
ブリヂストンは電動アシスト自転車や免震ゴムを体感できる特別トラックなどスポーツバイクに留まらないコンテンツを用意。世界に誇るジャパニーズカンパニーであるブリヂストンを余すこと無く感じられたはずだ。

また、今年からはBSエクスペリエンスと銘打ち、ブラインドサッカーやハンドサイクルのスピード体験、ビームライフル射撃などオリンピック/パラリンピックにちなんだ体験ブースも用意された。来る2020年の大会がより身近なものに感じることができたはずだ。

ステージではチームブリヂストンの上田藍選手(トライアスロン)と秦由加子選手(パラトライアスロン)、リオ五輪400m個人メドレーをはじめ輝かしい戦績を持つ荻野公介選手(競泳)と近谷涼(自転車トラック)によるトークショーも開かれた。CHASE YOUR DREAMというブリヂストンのスローガンのもとにトークが繰り広げられ、夢を追いかけることの素晴らしさを語ってくれた。

コース脇では数多くの参加者が仲間の到着を待つコース脇では数多くの参加者が仲間の到着を待つ
仲間が到着するのを待ちわびる仲間が到着するのを待ちわびる ピット交代の素早さを極めるのもエンデューロレースの楽しみピット交代の素早さを極めるのもエンデューロレースの楽しみ


ブリヂストンアンカーをサポートするウエイブワンやVAAMの明治製菓、輪行袋のオーストリッチなども参加。オリジナルジャージに身を包むチームが多い大会であるためか、ブースで熱心に説明を受ける参加者も多い。アンカーの選手たちが身を包むピタリとしたジャージが気になる方もいたようだ。VAAMブースでは製品が貰える抽選会が開かれており、レース後の回復に役立てたいために参加者が列をなしていた。プレゼントの中には明治グループという縁もありガブリチュウも。なんでも石橋学選手のお気に入りのお菓子なのだとか。

ケバブや豚丼、ラーメン、パキスタン料理をそれぞれ振る舞うケータリングカーで購入したお昼ごはんをスタンドで頬張っているとあっという間に2時間の部がスタートしてしまう。この頃になると天気は晴れ。気温も心地よさを感じる涼しさで絶好のサイクリングシチュエーションになっていた。

オリンピックを走った歴代のバイクがずらりと並んだオリンピックを走った歴代のバイクがずらりと並んだ アンカーブースではRL9の試乗が行われていたアンカーブースではRL9の試乗が行われていた

ウエイブワンブースにはオリジナルジャージの相談を行う選手もウエイブワンブースにはオリジナルジャージの相談を行う選手も お昼休みにケータリングカーに並ぶ選手お昼休みにケータリングカーに並ぶ選手

ケバブ屋さんでは豪快に野菜と肉を詰め込んだケバブをいただけるケバブ屋さんでは豪快に野菜と肉を詰め込んだケバブをいただける 一生懸命自転車を乗りこなそうとするキッズ一生懸命自転車を乗りこなそうとするキッズ


2時間の部はリアルな時間経過よりも体感時間はずっとずっと早く流れていってしまい、いつの間にか2度めのピットクローズを迎えてしまった。ギリギリピットインが間に合わず最後の数周回が苦しそうな表情、選手交代を行えてホッとした表情、最後の最後にバトンが渡されキリッと集中した表情、十人十色の顔色を覗けるピットクローズ劇は午前よりも白熱していたよう。

フィニッシュ時も雨天の午前中を過ごした選手たちは笑み満面。力強くガッツポーズを取る選手もいれば、クールに戻ってくる人も。コース脇まで出てきた仲間たちとハイタッチを行い、この日の健闘を称え合っている姿もあり、これぞチームエンデューロの良いところと感じさせるシーンに小さく感動。

大人たちのレースが終わると、子どもたちの出番がやって来る。未就学児が頑張るレベナカップ、小学1~2年生用のBWXカップ、小学3~4年生用のアンカーRJ1カップが繰り広げられるのだ。陸上トラックをコースとしたキッズレースは、あまりの元気の良さに先導を務めたブリヂストンアンカーの選手たちを追い越してしまいそうになる場面も。

川本選手、相園健太郎選手、藤井美穂選手がファーストライダーを送り出す川本選手、相園健太郎選手、藤井美穂選手がファーストライダーを送り出す いつの間にか出来上がったブリヂストンアンカートレインいつの間にか出来上がったブリヂストンアンカートレイン

ハイタッチで仲間を迎えるチームメート達ハイタッチで仲間を迎えるチームメート達 仲間をカメラにおさめるのも恒例行事仲間をカメラにおさめるのも恒例行事


先程まで自分のレースを走っていてアドレナリンが出ているためか、応援に力が入っている親御さんの熱い応援も聞こえてくる。この日一番の盛り上がりを見せていたのはキッズレースでは?と思うほどの熱狂がそこにはあった。

全てのレースが終了するとようやく表彰式と大抽選会。細かく分けられたクラスによって、ありとあらゆるチームが登壇できるため、多くの人にチャンスがあるのもこの大会の魅力。3時間の部の女子ソロはエントリーがなんと1名だったとか。表彰台に乗ってみたい!と思う方には狙い目かもしれない。すべてのプログラムが終了した頃はすっかりと夕方となり、西日が日産スタジアムに差し込んでいる。朝は雨に悩まされたけど、終わり良ければ全て良し。笑顔で選手たちはスタジアムをあとにするのであった。

キッズバイクレースは熱が入るキッズバイクレースは熱が入る 救護班がレースを見守る救護班がレースを見守る


数多くの参加者が入賞できるカテゴリーの細かさが特徴だ数多くの参加者が入賞できるカテゴリーの細かさが特徴だ
チームの皆と走る地元のレースという立ち位置のブリヂストン×日産スタジアム サイクルパークフェスティバル。会場はアットホームな雰囲気に包まれ、なんとも言えない居心地の良さを感じた大会だった。レースの面白さはもちろんのこと安全対策の徹底などが走りやすさを支えていた。ブースや体験コーナーの充実しており、1日中楽しめるイベントだった。


text&photo:Gakuto.Fujiwara