世界中のサイクリングファンの間に議論を巻き起こした第4ステージのサガンへの処分について、現地のファンたちの反応はどんなものなのか。彼らの忌憚ない意見をお届けする、目黒誠子さんの現地レポート。



フィニッシュ直後のアルノー・デマールとぺテル・サガンフィニッシュ直後のアルノー・デマールとぺテル・サガン photo:Tour de France
第4ステージにおける、世界チャンピオン、ペテル・サガンの失格、そしてツールの離脱という衝撃のニュースに、フランス中も混乱しました。この処分について、さまざまな報道がされていますが、現地のファンはどのように感じ、どのように話しているのでしょうか?ツール・ド・フランス現地の生の声をお届けします。

優勝はフランスチャンピオンのアルノー・デマール(エフデジュ)。2位は世界チャンピオンのペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)。私はヴィッテルのフィニッシュ地点でそのスプリントを見ていました。遠すぎてよく見えませんでしたが、落車が起こったことは確認、それとほぼ同時にリュックを背負ったドクター(チーフドクターのMme. フローレンス含む)3、4名がかけつけ、手当てを行っていました。指に包帯が巻かれていたのが見えました。後にそれがマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)だとわかりました。

スプリント前のフィニッシュ地点の様子スプリント前のフィニッシュ地点の様子 photo:Seiko.Meguroその後、サガン失格のニュースを知ったのは夜、ホテルで。ツール関係者だと気づいたスタッフが、「見て!サガンが失格ですよ!」と。テレビから何度も流れるニュース。初めは信じられませんでしたが、何度も見ているうちに、それが本当なのだとじわじわと実感したのでした。私に教えてくれたホテルの人も驚きを隠せない様子。意見を求めると、「厳しすぎます。ショッキングです。でも……、確かにこの行為は危険ですよね。サイクリングするとき、ああいうことはよくない。厳しすぎると思うし悲しい。でも、仕方がない……」

一夜明けた、第5ステージではヨーロッパの夏らしく、太陽が照り付け爽やかな青空が広がっていました。スタートは昨日のフィニッシュ地点と同じ、ヴィッテル。いつもと変わらないスタート地点の様子に見えましたが、晴れている天気にもかかわらず、心はざわざわついたまま。スタート地点は、ヴィラージュやチームパドック、スタートまでの動線などの配置のせいか、心なしかファンの数が少なく見えました。

さわやかな青空が広がるヴィッテルのスタート地点さわやかな青空が広がるヴィッテルのスタート地点 photo:Seiko.Meguro
「サガンはいつでもチームと一緒だ」と結束を語るボーラ・ハンスグローエのスタッフたち「サガンはいつでもチームと一緒だ」と結束を語るボーラ・ハンスグローエのスタッフたち photo:Makoto.AYANOさっそく向かったのは、ボーラ・ハングスローエのチームパドック。スタッフが忙しなくスタート前の準備をしていますが、昨日までのステージと同じく、サガンの自転車がきちんとセッティングされていました。昨夜のことをなにも知らなければ、これまでと同じようにスタートするかのように。ボーラのスタッフが言いました。「このバイクはパリまで一緒に行きます。サガンはいつでもチームと一緒。チームからのメッセージです」

サガンは失格になったことについて、コメントを出しています。

ナンバー111をつけたペテル・サガンのバイクは主不在のままパドックに並べられたナンバー111をつけたペテル・サガンのバイクは主不在のままパドックに並べられた photo:Makoto.AYANO「僕はもう何もすることができません。処分は受け入れるけれども、同意はしていません。自分はスプリントで、なにも間違ったことはしていなかったことは確かです。よくないのは、マークが落車してしまったこと。彼がうまく回復できることが重要だということです。落車については残念に思っています。あなたたちもインターネット上で見ることができるように、それはもうクレイジーなスプリントでした。マークが早く回復することを祈る、ただそれだけです」

ボーラ・ハンスグローエのパドック側にいた、ヴィッテルのTシャツと帽子をかぶったフランス人のファン2組は、「本当にこの判定はとても厳しい。サガンがいなくなるのはすごく残念。だけど、仕方がない。決まってしまったのだから……」と、残念だけれど諦めて受け入れている、という雰囲気。

次に聞いたのは家族連れのベルギー人。第3ステージのスタート地点でもあり、フィリップ・ジルベールの出身地、ヴェルヴィエに住んでおり、もちろん、フィリップ・ジルベールを応援するためにデュッセルドルフから追いかけてきたと言います。「昨晩のニュースはほんとうにショックでした。残念です。この判定は厳しすぎると思うわ。コミッセールはとても難しい決定だったと思うけど……。でも、もう決まってしまったのだからしょうがない……」とこちらも同じ。

カップが付いている帽子で一石二鳥?!カップが付いている帽子で一石二鳥?! photo:Seiko.Meguroベルギー・ヴェルヴィエからフィリップ・ジルベールを追いかけてやってきたベルギー・ヴェルヴィエからフィリップ・ジルベールを追いかけてやってきた photo:Seiko.Meguro

ヴィッテルでヴィッテルのキャラバンから水のプレゼント~ヴィッテルでヴィッテルのキャラバンから水のプレゼント~ photo:Seiko.Meguro
次に聞いたのは、チームスカイのパドックの前にいたイギリスからのファン。イギリスの国旗を掲げていて、ツールの応援のためにここに来た熱心なファンのようです。そしてカヴェンディッシュのサポーターだとも。「本当に、残念なことだと思います……。処分の決定はとても難しかったと思う。でも、ビデオを見ると、明らかにサガンは肘を出してしまっているよね。以前、マーク・レンショ―も失格になっているし、コミッセールの判断は、難しいながらも的確だったのではないか」と。

私が「そうですね……。でも、サガンはカヴェンディッシュに当たってなくて、カヴェンディッシュが狭いところを無理やりこじ開けようとしたために先にサガンに触れて、サガンがバランスを取るために肘を出した、という見方もありますが、それについてはどう思いますか?」と続けると、「でも、それでも、サガンには前方にスペースがあったはず。カヴェンディッシュの方に肘を曲げることはないと思うわ。あの失格処分は必要なことだと思う」と話し、そして「でも、私たちはカヴェンディッシュのサポーターだし、いろんな意見があると思う」と続けていました。

サガンの失格をメディアに伝えるUCIチーフコミッセールのフィリップ・マーリアン氏サガンの失格をメディアに伝えるUCIチーフコミッセールのフィリップ・マーリアン氏 photo:Kei Tsuji / TDWsport
今年のツール・ド・フランスのチーフ・コミッセールのフィリップ・マーリアン氏は、UCIの「ミスターロードレース」と言われており、コミッセールの親分格、つまりお手本にされるような人で、コミッセール試験の試験官も務めています。つまり、今後の様々な審判基準に影響を与える人と考えられます。そんなフィリップ・マーリアン氏は、「今年のツール・ド・フランスは厳しく行く」とプレスインタビューで答えていました。それが今回の処分に影響を与えているのでしょうか?また、オーガナイザーであるA.S.O.は、今回の決定に多少なりとも関わりはあったのでしょうか?UCIのオフィシャルのルールでは、処分はあくまでコミッセールが判断することであって、オーガナイザーの見解は入らないことになっています。

サガンは来年勝つ!と話してくれた地元ファンサガンは来年勝つ!と話してくれた地元ファン photo:Seiko.Meguroフィニッシュ地点で、ボーラ・ハングスローエのジャージを着た、サガンの大ファンであるというサイクリストの男性(フランス人)に話を聞きました。

「僕はサガンのファンであるし、処分はとても残念なことでした。本当に悲しいです。この目で見て、応援したかったのに……。本当は肘もカヴェンディッシュに当たってないかもしれないし、バランスを取るためのものだったかもしれない。

でも、僕も自転車に乗るからわかるのだけれど、あの肘の動きは、とても危険だと思う。それがわざとじゃなくて本能から来るもので、自発的なものだとしても、危険だよ。しっかりビデオに映っているし、よくない事なんだ。あの動きはサガンはするべきじゃなかった」そして最後にこう続けていました。「でも、ツールで失格になっても、チャンピオンはチャンピオン。サガンは来年戻ってきて、勝つ!」

「これ、ゲットしたよ~」とヴォクレールファンの仏人ファミリー「これ、ゲットしたよ~」とヴォクレールファンの仏人ファミリー photo:Tour de France最後に聞いたのは、トマ・ヴォクレールのサポーターだというフランス人ファミリー。子供たちはキャラバンからのプレゼントの数々を興奮しながらかき集めていました。「ツールドフランスは僕が子供のころからずうぅーっと見ている、サガンへの処分は厳しいし、仕方がない。でも、見て、ツールはツール。壮観でたのしい大イベントなんだ。大事なのはこれを楽しむこと」事実は事実でもう覆せない。それならば、今この時を楽しもうという、ツール・ド・フランスがフランスの文化となっている一部分を見たような気がしました。

text&photo:Seiko.Meguro


目黒誠子(めぐろせいこ)目黒誠子(めぐろせいこ) 筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)

2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年よりツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。ライター、自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、宮城インバウンドDMOアドバイザー。

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