JBCF宇都宮に出場した国内トップチームのゼッケンプレートホルダー事情を紹介する、スーパーニッチな企画記事後編。キナンが市販品を使う理由とは?え?愛三工業は手作りのチタン製だって??



前編はこちらから。

加藤GM:うちはほら、ステージレースが多いじゃないですか。ステージ間の移動時にバイクをチームカーのルーフに互い違いに載せるんですが、その時高速道路を走ると後ろを向いた自転車のプレートが風でバキッとなっちゃう。そうならないようにゴムバンド式のホルダーを使って、あえて強く固定しないようにして風を受けた時に回転して受け流す(写真参照)ようにしてるんです。そしてそれには、ゴムバンドタイプの市販品がベスト。

少し緩めにホルダーを固定しているキナン少し緩めにホルダーを固定しているキナン 「ルーフキャリアに逆積みにして走った時に風を受け流して壊れないようにしてるんです」(ツール・ド・とちぎにて)「ルーフキャリアに逆積みにして走った時に風を受け流して壊れないようにしてるんです」(ツール・ド・とちぎにて)


CW:なんという深さよ。

加藤GM:大会側に作り直してもらうのも迷惑ですしね。こちらとしてもなるべくメカの手間を省きたいですから。

CW:さすがはアジア・ヨーロッパ遠征が多いチーム。それに即したノウハウがホルダーにも込められていますね。ありがとうございました。どんどんいきましょう。お次はアジア遠征が多い愛三工業レーシングの別府GMと吉田チーフメカです。

吉田メカ&別府GM:うちのは自作なんですが、チタン製ですよ!

CW:おわ、非常にかっこいい。チタン色が激渋い。

愛三工業レーシングのお手製チタン製ホルダー。タイラップを併用している点にも注目愛三工業レーシングのお手製チタン製ホルダー。タイラップを併用している点にも注目
吉田メカ&別府GM:以前のチームメカさんより前の時代からずっとホルダーは自作という伝統がありまして、それを踏襲してますね。せっかくならチタンにしてみようと思って。アルミに比べると加工は大変でしたけど。タイラップでも留めてる理由ですか?バタつきを抑えるためですよ。念のためにシートクランプの割り部分にもプレートを挟んでいます。

あえてホルダーを使わないのがシマノレーシングの流儀あえてホルダーを使わないのがシマノレーシングの流儀 シエルヴォ奈良 MIYATA-MERIDA レーシングチームもタイラップ式シエルヴォ奈良 MIYATA-MERIDA レーシングチームもタイラップ式 タイラップ2本留めなインタープロサイクリングアカデミータイラップ2本留めなインタープロサイクリングアカデミー 西メカお手製のホルダーを付ける宮澤崇史(LEOMO Bellemare)のバイク西メカお手製のホルダーを付ける宮澤崇史(LEOMO Bellemare)のバイク 「市販品と自作の半々くらいですかね」(ブリヂストン・アンカー)「市販品と自作の半々くらいですかね」(ブリヂストン・アンカー) CW:愛三工業も他チームに負けず劣らずこだわりの熱量がすごい。もしかしたらチタン製ホルダーって世界で唯一かもしれません。お次は若手を多く揃えるシマノレーシングですが、あれ、機材はジャイアントTCR(シートステーにブレーキ装着)なのにホルダーそのものを使ってないですね…。

野寺監督:ホルダーは使いませんねー。ほらやっぱり「世界のシマノ」なんで、フレームとブレーキキャリパーの間に余計なもの挟みたくないんですよね。実際にはずれたり緩んだりとかトラブルはないでしょうが、そこは、ね。

大久保メカ:固定力としてはタイラップで十分だし、インテグラルシートポストなので横にプレートが張り出して脚に当たることもないんですよ。だからこれでオッケーなの。

CW:なるほど。さすがは大御所シマノ。ブランドとしての威信がほとばしるお答えでした。

なおリアブレーキがBB下に搭載されているメリダに乗るシエルヴォ奈良 MIYATA-MERIDA レーシングチームと、「リアブレーキがシートステーにあるけどダイレクトマウント方式」のチーム右京(ツール・ド・とちぎ調べ)、それからインタープロサイクリングアカデミーもシートポストタイラップ留めスタイルでした。

お次は宮澤崇史監督率いるLEOMO Bellmare Racing teamですが、レース直前で時間が無くスタートラインに向かわれてしまった。ので、編集職の必殺奥技「後日電話インタビュー」。

Prrrr....

宮澤監督:もしもし宮澤ですけど。

CW:あ、こんにちは。これこれこんな理由でお話聞いて回っているのですが。

宮澤監督:なんとニッチな(笑)。うちは選手個人に任せていますよ。ヨーロッパ経験のある選手も少なくないのですが、向こうで買ってくる場合が多いですかね。僕はNIPPO時代に西メカが作ってくれたものを今でも使っています。

CW:むむ、なるほどありがとうございます。ガチャン(受話器を置いた音)。LEOMOは選手に委ねている、と。この方式は社会人チームのイナーメ信濃山形も同様でした。お次はツール・ド・とちぎでJBCF宇都宮に参加しなかったブリヂストン・アンカーにお話を聞けたので紹介しましょう。中山メカ、ホルダーってどうなってますか?

中山メカ:うちは自作もしていますが、人数が多いから正直手間がかかるので大変です。フランス遠征が多いのでその時に向こうで購入してきたものを使っている選手が半分くらいでしょうか。

CW:ブリヂストン・アンカーは「自作もするけど大変なので海外で買ってきたやつも使っている派」でした。資金力の豊かさすら感じられるお答え。続いては少ないながらもホビーレーサー編です。まずはこの記事のきっかけとなったザイコーさんこと香西真介さん(FIETS GROEN 日本ロボティクス)から。

香西選手:おお、まさか本当に記事になるとは。今日はあなたの自転車見せてくださいやらないの?

CW:ちょっとそこまで余裕がなくて。ごめんなさい(汗)。ズース(DZUS)ってどんなモノなんですか?

クイックファスナー「ズース(DZUS)」を使う香西真介選手(FIETS GROEN 日本ロボティクス)クイックファスナー「ズース(DZUS)」を使う香西真介選手(FIETS GROEN 日本ロボティクス) 「受けの部分が重たくて不満なので作り直そうと思ってます」「受けの部分が重たくて不満なので作り直そうと思ってます」

合田選手:「なかなかスマートでカッコイイでしょ?」合田選手:「なかなかスマートでカッコイイでしょ?」 「市販品とDIYカーボン台座のミックスです」浜頭泰(ACQUA TAMA EURO-WORKS)「市販品とDIYカーボン台座のミックスです」浜頭泰(ACQUA TAMA EURO-WORKS)


香西選手:バイクのカウルとかを固定するクイックファスナーなんですが、レース前の忙しい時に少しでも簡単に装着できればいいな、と思いまして。製作時間ですか?だいたい30分くらいかな。会社の昼休みに工作しました(笑)。取り付けは5秒くらいなので目標は達成したんですが、受け側の金具が重いので改良予定です。

CW:うなってしまうくらい素晴らしいDIY精神です。さすがは本職技術屋さん、お見それしました。レース前ってどうしてもドタバタしちゃいますもんね。最後はアクタマことACQUA TAMA EURO-WORKSの浜頭泰選手と合田正之選手。ベテランならではのノウハウがありそうです。

浜頭選手:僕のは市販品とDIYのミックスですよ。知り合いがカーボン台座を作ってくれて、プレートの固定をやりやすいようにカスタマイズしてるんです。

合田選手:なーんかまた変な取材してるね。僕のバイク(ジャイアントPROPEL)は普通のホルダー付かないからさ。市販のリアブレーキに付けるやつをサドルのやぐらに固定してるの。後ろ側を蝶ネジにして抑えてるだけなんだけど、なかなかスマートでカッコイイでしょ?

CW:むむむ、ホビーレーサーのカスタマイズホルダーもプロ選手に負けず劣らずこだわりとアイディアがつまっているようです。会場中全てのレーサーに聞いて回って統計を取りたいところですが、本懐たるレース取材とプロバイク取材があるので、残念ながらこれにて終了です。

(番外編)HKSIプロサイクリングチームは非常に長いステーとISPクランプのダブル留め(番外編)HKSIプロサイクリングチームは非常に長いステーとISPクランプのダブル留め (番外編)よれよれな謎形状のトレンガヌプロサイクリング(番外編)よれよれな謎形状のトレンガヌプロサイクリング


結果的に、10のTOP-Pチーム中6チーム(アンカーとLEOMOを含む)が自作ホルダーを運用しているほか、キナンやシマノも独自のフィロソフィーを持たれていました。まさにゼッケンプレートホルダーは各チームの性格を表していると言っても過言ではないでしょう。引き続きツアー・オブ・ジャパンやジャパンカップなどで来日する海外チームのホルダー事情にも注目をしていきたいと思います。

ニッチすぎる企画にも関わらずお話を聞かせてくれた方々、ありがとうございました。ご協力に感謝申し上げます。

text&photo:So.Isobe