今日は2010年モデルのインプレッション当日。現場には朝一番からピリピリとした空気が流れている。集まって頂いたテスターさん達も真剣な眼差しで自分が担当する車体のポジション合わせを入念に行っている。この作業がとても重要なのである。

各メーカーさんが自信を持って登場させたモデルばかりが集まってきているだけに、テスターさんもかなりハードな試走を繰り返す。その為、落車や機材破損などのトラブルが少なからず起こるのだ。それらのリスクを少しでも減らす為に各テスターさんのポジション合わせや細部の締め付け確認は決して怠る事ができないのだ。

いきなり写り込んできたメタボ会長。「何も今日じゃなくても。」いきなり写り込んできたメタボ会長。「何も今日じゃなくても。」 我々編集部はカメラを覗くだけなので危険はないが、旋回性能を見る為に下りのハイスピードレンジで一気に車体をバンクさせる様や前後輪ともロックするまで試す急制動を見ていると、この人達はいくらか頭がおかしいんじゃないか(失礼!)と思う程である。

もっとも、激しい試走をこなせる能力を持ち合わせている人をチョイスしてテスターをお願いしているのだから、トラブルの発生率は極めて低いのだが。

そんな張り詰めた空気の中でも、試走は至って順調に進んでいく。

テスターさんにカメラを向けファインダーを覗いていると、なんか見たことあるバイクが私のカメラに写り込んできた。

まさか!と不快な予感と共にカメラを外すと、ゲゲゲのメタボ会長の登場である。選りによってこんな大事な日に登場しなくてもいいじゃないか、と思いながらも
ワガモノ顔でくつろいでます。ワガモノ顔でくつろいでます。
「会長!いま撮影中なので、ファインダーからハケてもらっていいですか? 待機所があっちにありますから、あそこで待ってて下さい。」

と優しく注意を促す事しかできない自分の立場が無性に悲しくなる。

慌てながらも慎重に撮影を終わらせ、待機所に戻ると、セットアップ中のテスターさん達と親しげに話すメタボ会長の姿が目に飛び込んでくる。

インプレ・スケジュールはまだ途中なだけに、ここで邪魔される訳にいかないぞ!と固い決心と共に嫌味たっぷりに
「会長、いったい今日は何のご用ですか?」 と冷たく問いかけると

「編集部のスケジュールボードに今日インプレって書いてあったから来てみたんだよ。」
と、休日のピクニック気分で楽しげに答えてきた。

しまった!私としたことが、悪魔の目に触れる場所に大事な予定をサラしてしうとは(悲)。いまさら後悔しても手遅れなので、現状をできるだけ穏便な方向に振るべく、赤子を諭すかのように声を掛ける。

「会長、試走はかなり危険を伴いなすので、できるだけ遠くで見学していて下さいね。あと、ここにある車体にはくれぐれも手を触れない様にお願いしますよ。」
撮影の合間に話題のライトウェイトホイールを取り付け、何となく記念撮影してみました撮影の合間に話題のライトウェイトホイールを取り付け、何となく記念撮影してみました
「了解!了解! じゃ俺は君と一緒にテスターさんの走りを見ることにするよ。」 とアッサリ。

お? このオヤジでも空気を読める事もあるんだと思いながら、メタボ会長を引き連れ撮影ポジションに戻る。
一緒にさえ居れば迷惑を被るのは私だけで済むので、とっても気が楽である。

撮影ポジションに付いた私とメタボ会長の前をテスターさんが駆け抜けていく。そのスピードレンジに驚きを隠せない表情のメタボ会長から質問が飛んでくる。

「おいおい随分と飛ばしてるな。危なくないかい? そもそもメーカーさんからの借り物だろ? いくらウチの会社で保険かけてるとはいえ、あんだけガシガシ走ったら壊れちゃわねえか? これ見たら保険会社が怒るぞ!」

このオヤジは何をトンチンカンな事を! インプレッションの試走でアンタみたいにのんびりサイクリングしてたんじゃ性能もなにも判らないじゃないの! ガシガシ走る為にわざわざお願いしてバリバリのテスターさん達に来てもらってるんだから! 今日来て下さってる方々は、アンタとは異次元の世界の人達だから、少なくともアナタが心配する必要は全くありません!(キッパリ!)

見事なお腹に苦笑を隠せない西谷さん見事なお腹に苦笑を隠せない西谷さん と、心の中で怒鳴りながらも、淡々と撮影をこなす私だった。

今日のスケジュールもあとワンクールとなり、テストバイクの到着を待つ私達。テスターさん達と楽しそうに喋るメタボ会長。ふと見ると、メタボ会長の腹廻りが妙に出ている
「会長、ひょっとして体重増えました?」

「おぉ、そうなんだよ。仕事忙しくて2か月乗ってなかったから体重戻っちゃったよ。(笑)」
見りゃ判るよと思いながらも振りかえると、その腹を見た西谷さんが必死で笑いをコラえている。

「だいたい、君達がくれたこのジャージも妙に小さくて、シクロワイアードのロゴが伸びちゃうからカッコ悪いんだよな。」 って、
オッサン!そのジャージのサイズはLLだぞぉぉ!

「久し振りにサイクリングに来たのに、見てるばっかじゃつまんないな。君達はいっぱい乗っかれるからいいよな。」
いつもの悪魔の囁きが始まった!

「これ欲しい!」メタボ会長お気に入りのトレック「これ欲しい!」メタボ会長お気に入りのトレック この悪魔の囁きに、彼の本性を知らず、彼への免疫を全く持たない優しい仲沢さんが呑気に声を掛けてしまった。

「会長も乗ってみれば如何ですか?車体それぞれの個性がわかりますよ。」

あっ!っと思う間もなくメタボ会長がニヤリとこちらを伺いながら
「いいの~?」

待機所に垂れ込め始めた暗雲を止める事はもはや誰にもできない。挙句にペダル交換を三上さんにやらせる始末だ。

「会長、今日はいつもと違って真剣な案件なので、迷惑だけは掛けないで下さいね。」 と小声で進言する私に対して

「皆さん別に嫌な顔してないけど?」
素っトボケた表情で、抜け抜けと返答してきた。そんなのただの社交辞令だよ!怒鳴り散らしたい衝動に駆られながらも黙って見守るしかできない自分の立場が心から悲しくなる。

注目の的のGDRにもちゃっかり乗ってます。壊さないでね。注目の的のGDRにもちゃっかり乗ってます。壊さないでね。 テスターさん達にサポートされながら何台かの車両を味わうメタボ会長。ただ、その表情は新しいオモチャを手にした子供のように底抜けに明るい。

そんなホノボノとした姿を見ていると
「やっぱり、自転車っていいもんだな~!」 としみじみ感じてしまう私がいるのも事実である。

「どれもこれもみんな良いバイクだな!全部欲しくなっちゃうぞ!」 とご満悦のメタボ会長。もっとも、各メーカーさんが自信を持って登場させたニューモデルばかりが集まってきているだけに当たり前の話である。

メタボ会長が一通り遊び終わった頃合いを見計らったかのように、スペシャライズドの派手なペイントを施したトランスポーターが待機場所に滑り込んできた。同社スタッフのジョンソンさんが都内の展示場から直行でインプレ用車両を運んできてくれたのだ。

そのジョンソンさんにメタボ会長が声を掛ける 「おぉ、ご苦労さん。この赤いのカッコいいねぇ!」 ちなみにこのオヤジはジョンソンさんとは全くもっての初見である。このふてぶてしさは何処から湧いてくるのか?常人には全く持って理解できない特徴である。

テストバイクを届けてくれたスペシャライズドのジョンソンさん。メタボ会長いわく「フレンドリーなナイスガイ!」テストバイクを届けてくれたスペシャライズドのジョンソンさん。メタボ会長いわく「フレンドリーなナイスガイ!」

ともあれ、最後のテスト車両到着と共に、さっきまでの和やかな空気が一気に引き締まる。テスター3名も明らかに仕事の顔に変貌している。一人だけ楽しそうなメタボ会長を除いて、全員が臨戦態勢に突入だ。

ラストクールの試走も無事に終了し、現場作業は終了。後は編集部に戻りテスターさん達と共にインプレシートのチェックをこなさなければならない。

「会長、我々は編集部に戻って事後処理がありますので失礼しますよ。」 と冷たく言い放ち、興奮冷めやらぬメタボ会長に別れを告げる。

「皆さん今日はありがとう。また今度も誘ってくれよ!」 って誰もアンタを誘って無いし!
鼻歌交じりに愛車のヴィーナスで引き上げるメタボ会長の後ろ姿を見送りながら、

今後、編集部のスケジュールボードに大事な案件は絶対に書き込まないぞ!と固く心に誓う私だった。



次回ですか?

不況の影響で、メタボ会長もまだまだ忙しそうですから、当分の間は来ないと思いますよ。
できれば、一生来て欲しくないものですが・・・。


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「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」「ポイ捨てはダメだぞ!携帯灰皿を忘れずに。」 メタボ会長
身長 : 172cm
体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 6ヶ月目

当サイト運営法人の代表取締役。
高校3年まで野球に明け暮れ、大学時代にオートバイのロードレースに夢中になり、卒業後メーカー系チームに所属し全日本選手権に3年間出場。鳴かず飛ばずで所属チームを解雇された後、平成元年に現法人を設立、平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となるが、その勤務実態や社内での立場は謎に包まれている。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。

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