春のサイクリングに向けてCW編集部がオススメするスポットを紹介。暖かくなったらぜひ走って欲しい千葉県は南房総にフォーカスし、編集部の3名でお邪魔したレポート。春を先取りした編集部ライドの模様をお伝えしよう。



関東地方では、まだまだ寒い日が多いが、ごく稀に暖かい春の息吹を感じられる日も混じる2月下旬。我々シクロワイアード編集部のイソベ、ムラタ、そして私カマタの3名は関東の南東部に位置する千葉県は南房総へ降り立った。

事の発端は編集会議での会長の一声。「レビュー記事で製品を紹介していくのももちろん大事だが、そこで紹介したロードバイクやアイテムやらを使ってどう楽しむかを発信していけないと、君たち編集部はあと2年でお払い箱になるぞ!」という脅しとも取れる正論を振りかざし編集部員に魅力あるサイクリング企画の提出を求めたことに始まる。

太平洋を眺めに、いざ房総半島へ太平洋を眺めに、いざ房総半島へ それならばと立ち上がったのが我が編集部が誇るサイクリングフリークのイソベ先輩だ。彼の地元の千葉・南房総にロケーションも良く、しっかり走れる最高なライドコースがあるということで、企画を作成。入社3か月の新入社員で、実業団レースも走るクライマーのムラタと、一番最近走ったレースは2年前となってしまった私を引き連れ、春先取り、南房総ライドに行くことが決まったのである。

房総半島と言えば海に囲まれた海洋性の気候で、特に南房総は一年を通して比較的温暖な地域。平野と丘陵が県土の大半を占めるため、キツい登りも少なく、流れるように走れる地形はサイクリングにはもってこいの場所だ。温暖な気候のために南国風の植生も特徴的で、同じ関東でも一味違った雰囲気が魅力的な地域である。

そんな房総半島を目指し、当日は夜明け前に東京の編集部を出発。まだ動き始めていない街中を走り抜け、高速道路に乗る。6時前に高速に乗ることで渋滞を避ける算段だ。策は功を奏し、朝の通勤渋滞に嵌ることなく都心をスルー。続いて東京湾アクアラインを通過するのだが、ここはいつ来ても良い。海の上を走れる非日常を味わえるのだから。少しざわめきだった海の様子と、青い空と、申し訳程度のヤシの木が千葉県上陸を歓迎しているかのようだ。そんな清々しい空気がまだ旅の序章ながら房総半島に来て(行く計画を立てて)良かったと思わせてくれる。

「道の駅富楽里とみやま」をスタートし春先取り 南房総ライドの始まりだ「道の駅富楽里とみやま」をスタートし春先取り 南房総ライドの始まりだ
程なくして千葉県木更津市に上陸すると館山自動車道を南下。鋸南富山ICで高速を降り、そこからほど近い有料駐車場に車を留める。スタートはすぐ近くの「道の駅富楽里とみやま」だ。ここは地元富楽里の地元漁協の直営レストランがあり、特産品のお土産を多く取りそろえている道の駅だが、まだ早朝でお店も空いてないことも事もあり、ライド後のお楽しみに取っておくことにする。

私たちは諸々準備をし、いざライドへ。江戸時代の冒険小説「南総里見八犬伝」の舞台にもなっている富山の地を進む。ここでまず立ち寄るのが内房の名湯、岩婦温泉だ。サイクリングの最初に行くのが温泉?と思うかもしれないが、この温泉、既に廃業してしまっているのだ。それでも紹介したくなるその理由は千葉という海国でありながら、本格的な硫黄泉である故である。現在では建物自体は廃墟と化してしまっているが、辺りは硫黄の香りが漂っており、軽い温泉気分を味わえる。近くを通ったらほんの少し寄ってみても良いかもしれない。

田舎情緒溢れる道を駆け抜ける田舎情緒溢れる道を駆け抜ける
廃墟と化した岩婦温泉廃墟と化した岩婦温泉 岩婦温泉横の林道原田山線が旅は始まる岩婦温泉横の林道原田山線が旅は始まる


岩婦温泉横の林道、原田山線を登っていくと、現れるのが3本の隧道。なんの変哲もないコンクリート隧道だが、東京の喧騒とはかけ離れた静かな空間に癒され、これから始まるライドが良いものになってくれそうだと思ってしまうから不思議だ。それに何気に拝み勾配となっており、排水性が良いらしい。というイソベパイセンからのプチ情報も。

林道を抜け田舎情緒溢れる道を走っていくと、那古船形駅に到着。一見、何のことはない駅だが、現在となっては貴重な大正時代の木造建築とのこと。東京にはない無人駅であるし、自動改札はなく、スイカのタッチ端末しかない簡素な作りで、味のある雰囲気だ。電車が来るのを待っていたかったが、次の予定があるとのことで泣く泣くお別れすることになった。この後電車との運命的なすれ違いを引き起こすとは思いもせずに。

大正時代の木造建築がそのまま残る那古船形駅大正時代の木造建築がそのまま残る那古船形駅
駅の中は新しい物と古い物が入り混じった空間駅の中は新しい物と古い物が入り混じった空間 ペンキで書かれた駅名がどこかノスタルジックな雰囲気を醸し出すペンキで書かれた駅名がどこかノスタルジックな雰囲気を醸し出す


序盤、私たちの行程は順調に進む。海岸線に出ると青い空、青い海が我々を歓迎してくれた。途中イソベ先輩を先頭に少しスピードを上げ、気持ちいいペースで走って行く。海なし県に生まれた私としては海沿いを走るだけでテンションが上がってしまうが、この気持ちいい天気であれば尚更だ。房総半島の2月はそこまで寒くなく、程よく汗ばむ陽気に自らの運の良さを感じた。

青い海と青い空、そして青いレーパンを履くムラタと青いアイウェアの私カマタ青い海と青い空、そして青いレーパンを履くムラタと青いアイウェアの私カマタ
海と空と桟橋をバックにちょっとカッコ良く取ってもらった私海と空と桟橋をバックにちょっとカッコ良く取ってもらった私 自転車カタログなどにも使えそうなほど魅力ある写真が撮れるロケーションが多々ある自転車カタログなどにも使えそうなほど魅力ある写真が撮れるロケーションが多々ある


実は我々、朝ごはんをまだ食べていない。それならということで立ち寄ったのが館山駅前に大正8年から続くパン屋さん館山中村屋。新宿中村屋と兄弟にあたる創業経緯を持つ同店はクリームパンが人気商品だ。モッチモチの生地に、カスタードクリームとは違う練乳を練り込んだかのような甘いクリームが閉じ込められ、風味が口の中いっぱいに広がる。かと言ってくどい甘さではなく、さっぱりした軽さも感じる味わいだ。自転車に乗っていても喉を通りやすい。

館山中村屋のクリームパンはモチモチの記事とあっさりした甘さが印象的な館山市民に大人気のパン館山中村屋のクリームパンはモチモチの記事とあっさりした甘さが印象的な館山市民に大人気のパン
ピーナッツクリームをそのままソフトクリームにした濃厚なピーナッツソフトピーナッツクリームをそのままソフトクリームにした濃厚なピーナッツソフト 私の母の大好きなピーナッツみそがたくさんあった私の母の大好きなピーナッツみそがたくさんあった


これだけではお腹が減るだろうと次に立ち寄ったのが、房総半島の名産、落花生を使った商品を販売する木村ピーナッツ。様々なピーナッツを使った食べ物が並ぶが、ここでのお目当は落花生をふんだんに使ったピーナッツソフトだ。ピーナッツバターをそのままソフトクリームにしたかのような濃厚な味わいが特徴で、食べ応えがある一品だ。因みに関係ないかもしれないし、関係あるかもしれないが、私の母の大好物であるピーナッツみそも販売している。

途中通過した道の駅「南房パラダイス」は温室動植物園を完備し、ハワイアンな雰囲気を楽しめる施設途中通過した道の駅「南房パラダイス」は温室動植物園を完備し、ハワイアンな雰囲気を楽しめる施設
朝の朝食タイムはここまで。本格的なライディングに備え補給を万全にした私たちは一路、野島崎灯台へ。ここからは見晴らしの良い海岸線がずっと続き、思わずペースを上げてしまいたくなる県道275号「房総フラワーライン」を突き進む。車の量もグンと減り、非常に走りやすい。今回はシクロワイアードが誇る競技派である、シクロクロッサーイソベと実業団ライダームラタに連れられての走行ということもあり、私としては、かなり頑張るペースであったが、とても気持ちよく走ることが出来た。もちろんゆっくり景色を見ながら走っても楽しめるだろう。

灯台までの道中、小さな港「相浜漁港」に寄り道。ここは地元漁協による食堂が軒を連ねる場所で、海鮮丼などの新鮮な海の幸を堪能できる隠れた名スポットだ。明治時代にはマグロが多く揚がる漁港として名を馳せ、鮪延縄漁の発祥の地として石碑も立てられていた。

房総フラワーラインの沿道に菜の花が咲き乱れていた房総フラワーラインの沿道に菜の花が咲き乱れていた
小さな漁港が多くあり、ここに住む人々の生活の核となっている小さな漁港が多くあり、ここに住む人々の生活の核となっている ウツボの干物だそうだウツボの干物だそうだ


そろそろ休憩してもいいんじゃないか。という丁度いいタイミングで現れるのが野島崎灯台。房総半島の最南端に位置するこの灯台は「日本の灯台50選」にも選ばれる大型灯台だ。慶応2年に日本がアメリカ、イギリス、フランス、オランダと結んだ江戸条約によって建設され、長らく東京湾には入る船舶の目印となった。現在では展望台は中に入り太平洋を一望することができるとのことで、海に沈む夕日が大変美しい場所だ。

房総半島の先端に位置する野崎島灯台房総半島の先端に位置する野崎島灯台
そんな観光的価値が高いこともあってか、付近には海鮮丼を出すお食事処や、干物屋などのお店が軒を連ねる。一行はここで暫しの自販機休憩。過ごしやすそうな広場もあり、小休止にはうってつけだ。美味しそうな、なめろう丼の看板もあったが、本日の目当てはここではないため今回はスルーする。だが、お昼ここで食べたいな?と思ったのは私だけだったのだろうか。

お腹空いたんで編集部から持ってきた補給食でも摂るか。次回、遂にお昼。


text:Kosuke.Kamata
photo:So.Isobe