巷で話題の自転車映画「疾風スプリンター」が1月7日から日本全国で上映中だ。「疾風怒涛の本格プロロードエンターテイメント」とはどんなものなのか、新宿で開催された初回上映&鈴木真理選手と絹代さんによるスペシャルトークショーの様子をお伝えします。



映画「疾風スプリンター」映画「疾風スプリンター」 (c) 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved
近年盛り上がりを見せる自転車を題材にしたエンターテイメント。漫画「弱虫ペダル」を始め、映画やアニメ、小説など多彩な作品が世に出ている。そんな中、1月7日に日本での公開初日を迎えた映画「疾風スプリンター」。映画史上初のプロ・ロードレースエンターテイメントということで、東京の新宿武蔵野館では公開を楽しみにしていたファンが集まり、満員御礼の大盛況となった。また初回上映後には現役プロロードレーサーの鈴木真理選手(宇都宮ブリッツェン)とサイクルライフナビゲーターの絹代さんを招いてスペシャルトークショーが行われ、実際の選手とサイクリストの観点から作品の感想を語った。

香港での作品公開時から自転車ファンの間で密かに話題になっていた本作。日本では2015年の東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で原題「破風」として上映された。監督は香港アクション映画の人気監督ダンテ・ラム。メインキャストには台湾、中国、韓国を代表する人気役者を起用している。

ロビーには実際に撮影に使用されたバイクが展示されていたロビーには実際に撮影に使用されたバイクが展示されていた 疾風スプリンター映画オリジナルジャージも疾風スプリンター映画オリジナルジャージも


ストーリー

物語はチョン・ジオン(チェ・シオン)をエースとする強豪”チーム・レディエント”の加入テストから始まる。そこにアシストとして所属することになったチウ・ミン(エディ・ポン)とティエン(ショーン・ドウ)は互いにエースになることを目標に切磋琢磨しながら、台湾各地でレースを繰り広げていた。そんな中”チーム・レディエント”は資金難からチームを解散することに。ジオン、ミン、ティエンの3人はそれぞれ別のチームでエースとして競い合うこととなるが、そんな彼らにプロ選手ゆえの様々な苦悩が振りかかる。

実際に鑑賞してみた感想

本作はサイクルロードレースを生業とするプロ選手の物語だ。華やかなプロロードレースの世界を舞台に、時に栄光をつかみ取り、時に苦悩し葛藤するリアルな選手の気持ちを描いている。自転車レースならではの集団走行やスピード、スリリングなシーンを実写によりリアルに描き出すことに重きが置かれ、迫力のあるアクション映画としながらも、レースでの勝利やプロ選手としての人生に命がけで臨む選手たちの不安や決断に心震える様を描き出している。かと言って重苦しい雰囲気だけではなく、友情や程よいラブコメ要素も散りばめられており、癒しと笑いを与えてくれる。アクション、スポーツと青春のドラマ、ラブストーリーの要素が詰まった、自転車ファンならずともどんな方でも楽しめる娯楽作品だと感じた。

香港アクション監督らしい熱い展開も香港アクション監督らしい熱い展開も (c) 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved自転車ロードレースならではの落車シーンも豊富だ自転車ロードレースならではの落車シーンも豊富だ (c) 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved


そのストーリー構成は、香港アクション映画の監督らしい王道なのに大胆かつ奇抜な展開で、心から熱くなれるドラマにどんどんのめり込んでいくだろう。圧倒的なスピード感と小気味よいリズムで話が進むので、観ていて飽きないのもまた良い。

この映画で一番特筆すべきはレースシーンの迫力と臨場感だろう。ロードレースの実写映画というと、集団で密集してハイスピード走るという競技の特性上、そのスピード感や集団の密集具合の再現は難しい。しかしこの作品では香港に本社があるサイクルウェアブランドのチャンピオンシステム監修の元、アクションシーンが撮影されたという。台湾の大都市や砂漠でのロケが敢行され、空撮やハンドルにマウントされたカメラなどあらゆる手法を使い、自然の過酷さやダイナミックな風景と絡み合って展開するロードレースの美しさや色彩を見事に表現している。

また自転車の乗車シーンもスタントを使わずに俳優自らが演じることにこだわり、半年前から実際の選手とほぼ同様の生活をし、トレーニングをして身体を造りこみ、役作りに励んだという。その甲斐あって、本当の選手なのでは? と思ってしまうほど違和感のない肉体と乗車フォームでとても感心してしまった。彼らの生み出す迫真の演技がスピード感のある緊迫したレースシーンとなって、手に汗握る興奮と臨場感を楽しめる。

熱い友情を繰り広げるチウ・ミン(エディ・ポン)とティエン(ショーン・ドウ)熱い友情を繰り広げるチウ・ミン(エディ・ポン)とティエン(ショーン・ドウ) (c) 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reservedシーヤオ(ワン・ルオダン)を巡る恋の行方も見逃せないシーヤオ(ワン・ルオダン)を巡る恋の行方も見逃せない (c) 2015 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved


劇中のレースの展開は、ロードレースの迫力やスピード、そして戦略に基づいたチームプレーなどの動きを見事に描きながらも、肉弾戦とも言えるタックルやクラッシュシーンなど、奇想天外なシーンが盛り込まれる。

本当のロードレースを知る方からすれば違和感があるかもしれないが、それを越えて心の底から楽しめる映像ドラマに仕上がっている。

良く考えればこの展開は弱虫ペダルなどにも見た、チームでアタックする熱い展開のあれだと気づかされる。選手たちの勝利を求めるあくなき心情や欲望、味方・敵を取り巻く友情や裏切りを徹底的に熱く表現しているのだ。弱虫ペダルが好きになった人は、間違いなくこの映画にハマるのではないだろうか。

またアジアの俳優陣のイケメン具合にも注目だ。皆キリッと目鼻が整っている二枚目俳優揃いで、男の筆者でも見ていて飽きない。特にそんな彼らがヒロイン役で大病からの復帰を目指す女性サイクリスト、シーヤオを巡るシーンは恥ずかしながらキュンキュンしてしまった。スポ根映画のなかに友情と恋愛のラブストーリーを込めるのはあまりに王道だが、それが見事に楽しめる。

迫力の走行シーンを撮ることにこだわったため、スタッフ、キャストの負傷者数が80人を越えたという。生身で展開する激しい走行シーンに、ストーリーの重要人物が実際に転倒した負傷で出演を続けられなくなったという話もあるほど生傷の絶えない撮影現場であったようだ。裏を返せば演じるすべての人間が強い情熱を持ってこの作品の製作に取り組んだ証でもあるように思える。今までの自転車映画の概念を覆すほどの臨場感と気迫ある演技は、自転車ファンでも、そうでない人も、心の底から痛快に楽しめるものだ。

鈴木真理選手を招いてのスペシャルトークショー

初回上映後にはスペシャルトークショーが行われた。登壇者は日本を代表するプロ選手で今回の映画タイトルの通りのスプリンター、鈴木真理選手(宇都宮ブリッツェン)とサイクルライフナビゲーターの絹代さんだ。

鈴木真理選手(宇都宮ブリッツェン)と絹代さんのトークショー鈴木真理選手(宇都宮ブリッツェン)と絹代さんのトークショー photo:Makoto.AYANO
鈴木選手は「正直あんまり期待せずに見てみたら、のめり込んでしまった。レースシーンは凄い迫力でした。選手の目線からすれば少しだけ違和感を覚えるシーンはありますが、そんな事よりも勝利を貪欲に狙う彼らの真剣さへの共感する気持ちが勝っていたので、気にせず楽しめました。」と話す。

また、今は脚にできた血栓の治療に専念しているため、レースに出れない日々が続く鈴木選手。「選手としての心理描写がとてもリアルで共感出来る部分がいっぱいありました。エースを死守したい、勝利したいと、貪欲に競技を続けていた昔の頃を思い出して感情移入してしまい、目と心を鬼にして走っていた20代の頃が懐かしく感じましたね」。

絹代さんは「近年自転車を題材にした映画は多いですが、ヨーロッパの自転車映画は内容が重厚かつ濃いですよね。その点、この映画はストーリーにドキドキワクワクの楽しさがあって、更に可愛い女性も出てきて、自転車映画としてだけでなく、純粋にエンターテイメントとして面白い作品に仕上がってますね」。

「女性目線としては不屈の強い女性が自転車に乗るというのも良いですし、自転車映画でラブロマンスが描かれているのも中々珍しいので面白かったです。ツール・ド・フランスの中継などでもそうですが、自転車レースって様々な場所を巡って美しい景色が映されるじゃないですか。この映画も海岸線だったり、美しい山が映しだされていて、見ていて旅行している気分になりました」と話す。

「選手たちの心情がうまく描かれていて感情移入してしまった」と鈴木真理選手「選手たちの心情がうまく描かれていて感情移入してしまった」と鈴木真理選手 鈴木真理選手はリハビリライド中のためロードにママチャリペダルを装備し会場まで来た鈴木真理選手はリハビリライド中のためロードにママチャリペダルを装備し会場まで来た


最後に鈴木選手が「僕、今日はいつも乗っているレース用バイクにママチャリのペダルを付けて映画館まで自走して来たんですが、自転車はレースだけじゃなくて街乗りしても楽しいですし、都内ならママチャリでも良いですね。」とママチャリを推すと、絹代さんがすかさず「スポーツバイクはママチャリと違い、ギアがあって重量も軽いので、軽い力で進みます。レースに出る人でないと乗りこなせないというものではなく、もっと楽に走ることができる自転車ですので、この映画を見て少しでも興味が湧いた方は是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。」とスポーツバイクのオススメをして締めくくった。

映画「疾風スプリンター」は新宿武蔵野館ほか全国の映画館で公開中だ。抽選でメリダのロードバイクなどが当たるプレゼントも実施されている。上映される映画館やスケジュール、キャンペーンの内容は公式サイトやFacebookで確認して欲しい。


疾風スプリンター 予告編


text:Kosuke.Kamata
photo:Makoto.AYANO

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