GIRO社が主催するグラベルライドイベント、GRINDURO(グラインデューロ)。アメリカはカリフォルニア州、クインシーで開催された同大会に、日本から仲間と共に参加した森本禎介さん(TKC Productions)によるレポートを紹介します。 グラベルライドの最前線で見たこと、感じたこととは?



レースの朝。テントから出て10秒でレースのスタート地点だレースの朝。テントから出て10秒でレースのスタート地点だ
自転車レースと聞くと、どんな光景を想像するだろうか?多くの場合、ローラー台は唸りを上げ、マッサージオイルは香り立ち、黙々と仕事をこなすメカニック、難しい顔をした競技役員達がテントの中に収まり、そこは張り詰めた空気で満たされている場合がほとんどだ。

しかしGrinduro(グラインデューロ)は違う。主催者は積極的にレースに出ない家族や犬を連れてくる事を推奨し、託児サービスまで用意しているため子供を預けて夫婦でレースに参加することも可能だ。カリフォルニア州クインシーというシェラネバダ山脈に抱かれた高地を舞台するGrinduroは巨大なキャンプ場をヴィレッジとし、ほとんどの参加者はここにテントを張ってキャンプを楽しむ。レース以外にもハンドメイド・バイクショー、アートショー、ライブミュージック、フードトラックなどのアクティビティが多数用意され、レースにエントリーしていない来場者でも一日中飽きずに楽しむことができるので、バイクフェスと表現するのが適切かもしれない。

ポートランドから下り、Weedという街で高速道路を降りてクインシーに向かうところ。マウント・シャスタが見えているポートランドから下り、Weedという街で高速道路を降りてクインシーに向かうところ。マウント・シャスタが見えている クインシーに向かう道。とにかく真っ直ぐだクインシーに向かう道。とにかく真っ直ぐだ

これがGiroの世界観これがGiroの世界観 SRAMは32Tまで対応したWiFLiのeTap版を発表。このSTINNERは大変素晴らしかったSRAMは32Tまで対応したWiFLiのeTap版を発表。このSTINNERは大変素晴らしかった


クインシーは僻地と言っても良いだろう。サンフランシスコから北に向かって車で5時間のドライブを要するが、$200の参加費には2泊のキャンプ、朝食、コーヒー、ランチ、レース中のフィード、ディナー、そしてシェラネバダ・ブルーイングのビール2杯が含まれ、受付では協賛メーカーによる特別なノベルティが多数入ったバッグがゼッケンと共に渡される。実際、金曜から日曜日に掛けての週末は現金を使うことがほぼ無く、$200の内容として破格で、実際に参加してみると、クインシーまで遙々と日本からバイクを担いで足を向けた価値はあったと断言できる。

GrinduroはGiro Sport Designのマーケティング部門の2人、デインとエリックが昔から地元サンタクルーズで行っていたグラベルライドに彼らの愛するハンドメイドバイク、音楽、アートをミックスしたもので、ダウニーヴィルの開催で有名なシエラ・バッツ・スチュワードシップというMTBトレイルの保護、伸張を目的としたNPOが主催し、そこにSRAM、Giro、Charge Bikesが協賛するという形を取る。2015年に第1回が開催され、今年2月にサクラメントで開催されたNAHBSにて第2回の開催を知った筆者はエントリー受付の開始と同時にオンラインでエントリーを済ませ、航空券も購入して楽しみにしていた。

会場で前夜に行われていた焚き火。めちゃくちゃに寒かった会場で前夜に行われていた焚き火。めちゃくちゃに寒かった 前夜のノーティスボード。色々とジョークが効いている前夜のノーティスボード。色々とジョークが効いている

ピースをしているのは出展もしていたThe AthleticのJD。昨今のソックスブームの仕掛け人だ。業界人も多く参加するのがGrinduroの特徴でもあるピースをしているのは出展もしていたThe AthleticのJD。昨今のソックスブームの仕掛け人だ。業界人も多く参加するのがGrinduroの特徴でもある
オレゴン州ポートランド入りした筆者を含めた日本人6人は10時間のドライブでクインシーまで移動したのだが、途中から想像を絶する風景の中を進むドライブとなるので、是非金曜日の太陽の高い内にGrinduroヴィレッジに到着してテントをセットアップするのをお奨めする。この日はレジストレーションの開いている時間に間に合わなかったため、早々にテントで就寝し、土曜日の早朝にゼッケンを受け取ってハンドルバーに装着、8時に味のあるブルース・ハープによるアメリカ国歌の演奏があり、700人のレーサーが一斉にスタートした。

この日はカリフォルニアらしい快晴に恵まれたものの、スタート直後のGarminは摂氏0度を表示しており、最初の30分は寒さに震えながら走ることになった。しかし10kmも走ってグラベルに入る頃には10度を超え、最高の自転車日和となる。距離は100kmで争われ、大まかに言うと標高1,000mからスタートし、雪の残る標高2,200m地点が最初のピークとなる。ここから再び標高1,000mまでグラベルで下り、しばし平地走った後に再びグラベルで標高1,800mまで登り、そこから標高1,000mまでシングルトラックのダウンヒルでゴールに向かう。レース区間は登り1ヶ所、下り2ヶ所、平地1ヶ所の4セグメント総合で争われ、大部分がニュートラルだ。本当の意味でのレースをしているのは先頭集団の極一部だったに違いない。参考までに、筆者の4セグメント合計は約65分だった。

標高2,000m近くを走るグラベルの美しさは言葉にできない標高2,000m近くを走るグラベルの美しさは言葉にできない ビール?コーク?と聞いてくれるフィードのボランティアスタッフ。ベーコンまで用意されていたビール?コーク?と聞いてくれるフィードのボランティアスタッフ。ベーコンまで用意されていた

参加者のバイクをチェックするのも楽しみの一つ。業界人の参加も多く、参加すること自体がプロモーションになるのだ参加者のバイクをチェックするのも楽しみの一つ。業界人の参加も多く、参加すること自体がプロモーションになるのだ M35A2だろうか?フィードに停まっていた2.5トンの元軍用車。オフィシャルの車もこれ位タフでなければ務まらないM35A2だろうか?フィードに停まっていた2.5トンの元軍用車。オフィシャルの車もこれ位タフでなければ務まらない


100kmの80%以上がグラベルであるため、主催者はディスクブレーキ採用のグラベルバイクを推奨していたが、実際には主催側の狙い通りファットバイクからフルサスペンションMTB、ハードテイルMTB、グラベルロード、シクロクロスバイク、ツーリングバイクまで驚くほど多様なバイクを見ることができ、昨年には25Cを履いた普通のロードバイクで完走した猛者もいたと言う。

どんなバイクに乗ればいいのか?という問いに正解は無い。どこを主眼に置いて楽しむのか、というのがポイントで、例えば最後に用意された9kmで標高差650mのシングルトラックを楽しむなら絶対にMTBが良いし、平坦路や登りを優先すると40Cのタイヤを履いたグラベルロードは楽に走れるだろう。

筆者はキャノンデールSLATEをそのままタイヤを交換せずに持ち込んだのだが、グラベルでの登りでは十分にトラクションを稼ぐことができ、舗装の平地でもタイヤの特性を生かして楽に走ること出来たが、シングルトラックの下りや、延々と続く滑りやすいグラベルでの時速40kmを超える高速ダウンヒルはかなりナーバスだった。

ブロックパターンのあるタイヤに交換すれば、もっと楽に走れるのは確実で、実際に出会った他のSLATEオーナーは例外なくタイヤを交換していた。しかし、スリックタイヤでGrinduroを完走する、というささやかな挑戦の意味もあったのだ。ラインを見極めてバイクをコントロールする喜びは格別で、落車もなく無事ゴールすることができた。

日本では絶対にお目にかかれないような光景が連続する日本では絶対にお目にかかれないような光景が連続する これが最後の山の山頂。ここからシングルトラックが始まるこれが最後の山の山頂。ここからシングルトラックが始まる


印象的だったのは、フラットバーのグラベルロードに乗ったお年寄りだ。その走りは決して速いとは言えないのだが、休憩を減らして淡々と前に進む熟練のペーシングで、何回も抜きつ抜かれつを繰り返した。機材は当然ワイドカセットに、ディスクブレーキ、リジッドのカーボンフォークという組み合わせだ。もし、これが20年前ならプアなタイヤにVブレーキ、最小ギアはせいぜい26x32T程度になる。この組み合わせで、標高差1,000mの高速グラベルを延々を下るのも、最後に用意された15%のグラベルを延々と1時間登るのも相当過酷だ。

よく、自転車業界は新しい規格をどんどんと生み出して、消費者にお金を使わせようとしている、という陰謀説のような話を聞くが、Giroのデインは真っ向から否定した。エンジニア達は情熱を持ち、少しでも良くしようと努力していると。

最後のシングルトラックを下りきると、そこには線路が横たわる最後のシングルトラックを下りきると、そこには線路が横たわる Grinduroをフィニッシュするとバイク全体がこの様になるGrinduroをフィニッシュするとバイク全体がこの様になる

フィニッシュにはフォトブースが設けられ、写真を撮影してくれる。翌朝には人数分のプリントが配布され、後日にはfbにも掲載される。最高の思い出だフィニッシュにはフォトブースが設けられ、写真を撮影してくれる。翌朝には人数分のプリントが配布され、後日にはfbにも掲載される。最高の思い出だ
ワイドカセットの恩恵は大きく、体重が重く、登りで苦労しているようなライダーでも、遅くとも最小ギアでジワジワと登り、山頂に到達していた。握力の弱い女性でも、ディスクブレーキの引きが軽く、安定したストッピングパワーの恩恵で安心してグラベルを下ることができる。このように、新しい規格のおかげで裾野が広がり、ともすれば車種別に分断されてしまいがちな自転車イベントだが、Grinduroと言う、あらゆる車種に乗るライダーを一つに集めるイベントが成立したのはその恩恵だ。

キャンプ場内のメインビルディングでは各社がブースを出展し、SRAMはeTapのWiFLiをワールドプレミアでひっそりと発表している。ミドルケージで32Tまで対応するRDで、最新の無線変速システムeTapをディスクブレーキと組み合わせて使うことができる。これ以上、Grinduroで発表するのが相応しい新製品があるだろうか?GiroはGrinduroモデルのソックス、FabricはGrinduroモデルのボトルを参加者全員に配布し、さらにGiroはGrinduroモデルのシューズを販売するなど、そのプロモーションの手腕には感嘆させられた。



レース中のフィードも多数設置され、クリフバーは食べ放題、コーラやフルーツも大量に配布され、ほとんど補給食や飲料を持つ必要が無いほど充実していた。もちろん、レース後のディナーもバフェ形式で十分な量が用意され、ビールにライブミュージック、表彰式、さらに深夜にはメインビルディング内でDJを入れてのパーティなど、アクティビティは日付を変えても続いていた。残念ながらその頃の筆者は既に疲れ果ててテントで熟睡していたのだが。

今後、Giroでは年間に5戦開催するのを目標としており、次回はスコットランドでの開催を予定している。日本での開催も熱望しているが、まずは主催団体を探す所から始まるため、越えなければならないハードルは多いそうだが期待したい。参加して分かったが、Grinduroは最後の10kmでグラベルレースの仮面を捨て、極上のシングルトラックを下るMTBレースに豹変する。特にマウンテンバイク愛好家には来年のクインシーに参加するのを強くお奨めしたい。キャンプ道具はお忘れなく。



森本禎介森本禎介 photo:Kei.Tsuji森本禎介プロフィール

中学生でMTBに目覚め、大学卒業後にブラブラしていると自転車メーカーに拾われる。自分で作った物を売りたいと思い立ち、独立してMTBの映像制作を始めるが、アメリカとのコネクションの中で並行して始めていた問屋業も開始。こちらがメインとなり、結局は人の作った物を売ることになる。最近はワーク・ライフ・バランスをどこまでライフではなくバイクに振れるのか試す日々。

TKC Productions: https://www.facebook.com/tkcproductions

Report:Teisuke.Morimoto

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