ツール・ド・宮古島140kmレースに参戦したCW編集部・綾野の実走レポートをお届け。公道を使った長距離市民レースは走りごたえたっぷり。海の上を渡る3つの海上道路を走り抜ける、トライアスロンの島のロードレースのインサイドレポートだ。



184kmレースが7時のスタート。10分後に114kmレースがスタートする184kmレースが7時のスタート。10分後に114kmレースがスタートする photo:Akihiko.Harimoto

大会を支えるスタッフたち。右端はストロングマン優勝者・宮塚英也さんだ大会を支えるスタッフたち。右端はストロングマン優勝者・宮塚英也さんだ 落車の危険が多いから、あるいは距離が短くて強度が高すぎるという理由で短距離系ホビーレースへの出場は控えていた私だが、ロードレースの醍醐味は公道での長距離レースにあるというのが持論。114kmと184kmの長距離レースであるツール・ド・宮古島はなんとも魅力的だった。そしてこのレースに出るチャンスは突然巡ってきた。

居酒屋でのスタッフミーティングにて筆者のレース出走は決まった居酒屋でのスタッフミーティングにて筆者のレース出走は決まった ツール・ド・宮古島の主催は(株)パワースポーツ。SDA王滝などでお馴染みのイベント会社だが、筆者にとって個人的にはスタッフの皆さんとはアイアンマントライアスロンを撮影していた頃からの旧知の仲ということで、ほとんど同窓会のような取材旅行になった。

初日のサイクリングを走った夜、居酒屋でオリオンビールを飲みながら「せっかくオフィシャルカメラマンがいるんだから明日のレース走れば?」という流れになった。つまり自分で撮る必要無しと。撮ってくれるのはトライアスロン&アドベンチャーレース系の大御所カメラマン、ハリさんこと播本明彦さん。光栄である。ならば、ということで特別に走らせていただくことになった。

冬場はシクロクロスに出ている筆者だが、ロードレースに出るのはいったい何年ぶりだろう。記憶をたどると、近年だと神宮クリテリウムに出て即切れリタイヤしたことぐらしか思い出せない。ツール・ド・おきなわファンではあるが、自身で出たのは15年以上前だ。幸い、最近はまあまあ走れている。欲張って184kmに出たいところだが、ここは無難に114kmクラスを選ぶ。しかし驚くべき事実が…。

渡されたプログラムを見ると、114kmクラスの出場者リストにはなんと401人が名を連ねている! どんだけの大人数!(笑)。対して184kmは109人。どうやら短い距離のほうが人気のようなのだ。

開催されてから9年の間、取材を入れてこなかったのでツール・ド・宮古島のことについてはほとんど知らない。レースのレベルは? リストから判断するに、名前を知っている選手は10数人。おきなわとは参加者層が少し違う? 安心材料は前日のツーリングでコースは下見バッチリということ。不安材料は天気予報が雨であることと、すでに114km走って脚が痛いこと。雨でずぶ濡れで傷んだバイクは夜のうちに頑張ってメンテした。


「リアルまもる君」は、この格好で114kmレースを走るそうだ「リアルまもる君」は、この格好で114kmレースを走るそうだ photo:Akihiko.Harimoto「ワイドー(頑張れ)」を三唱して気合を入れる選手たち「ワイドー(頑張れ)」を三唱して気合を入れる選手たち photo:Akihiko.HARIMOTO


朝7時、スタート地点には島の名物キャラクター「宮古まもる君」の仮装をした「リアルまもる君」がいた。その格好で114kmレースを走るつもり?? リアルまもる君はまだ全国区とはいえないマイナーな存在で、素性はよくわかっていないため色々訊いてみた。那覇に住んでいて、普段はこの格好でランニング大会によく出るそうだ。普段からロードに乗るが、レースの場合はそのコスチュームのおかげで平均時速は7km/hぐらい落ち、汗だくになるそうな。今度トライアスロンにも出るそうだが、スイムをどうすればよいか悩んでいるとのことだ(笑)。ちなみにリアルまもる君公式サイトはこちら

伊良部大橋を渡る集団の長い列。橋の全長は3.5kmもある!伊良部大橋を渡る集団の長い列。橋の全長は3.5kmもある! photo:Akihiko.Harimoto
朝7時、皆で「ワイドー!(島の言葉で「ガンバレ」の意)」を三唱してレースはスタート。まず184kmクラスが、10分後に114kmクラスが走り出していく。スタートすぐに伊良部大橋を渡る。なにせ全長3.5kmの長〜い橋。往復するとき、2クラスの集団が橋の上ですれ違う。

それにしても約400人の大集団だ。最前列でスタートして、橋の頂上でふと後ろを眺めると後方にすごい人数が連なっていて壮観である。落車の危険を避けるために、なるべく集団前方をキープして走る。天気はすぐれないが、曇っていても気温は30度ぐらいあり、汗が噴き出してくる。雨が降っていないのは救いだが…。

114kmレースの集団前方を走るCW編集部・綾野。なるべく前キープで中切れを避けたい114kmレースの集団前方を走るCW編集部・綾野。なるべく前キープで中切れを避けたい photo:Akihiko.Harimotoれおくんワイドー(がんばれ)!れおくんワイドー(がんばれ)!


集団のなかで泳いでいると、背中のポッケにボトルを差している選手が何人もいる。訊けばコース途中で何箇所か補給所はあるものの、暑くなると水分補給が間に合わなくなるので、保険で持っているのだそうだ。レース規定でもダブルボトル装備が推奨されている。身体にも掛水をしたくなるので、ちょっと重くとも2本以上のボトルは重要かもしれない。

島のところどころで狭い交差点を通過する島のところどころで狭い交差点を通過する photo:Akihiko.Harimoto距離数表示の看板はトライアスロン大会のものをそのまま流用している距離数表示の看板はトライアスロン大会のものをそのまま流用している


コースは片側車線規制でレースが行われる。ときどき対向車が来るのでセンターラインを越えて膨らむことはできない。ときどきコースが狭くなること、そして往復コース上で184kmクラスの集団とすれ違うときなどに、集団は長く伸びることになる。集団の後方にいると不利なので、なるべく20番手以降には下がらないように位置をキープして走る。

30kmも過ぎると、だんだん集団が減ってきた。集団を小さくしたほうが後々有利なので、スピードを上げたいところだ。この頃になると全体がどれぐらいのレベルか把握できてきた。概ねツール・ド・おきなわよりレベルは低めのようだが、集団の前の方には速い人が揃っているので油断ならない。集団前方は速いので中切れしないように気をつけて前方キープを続ける。

池間大橋を渡る。橋の中央部はせり上がって小山になっている(写真は184kmクラス)池間大橋を渡る。橋の中央部はせり上がって小山になっている(写真は184kmクラス) photo:Akihiko.Harimoto
「回していこう!」と誰かが声をかけると、順調にローテーションが回り始めた。2列でファンを回し、スピードを上げる。このローテに加われるのは20人ぐらい。「後方は長く伸びて、きっと中切れや分断が発生しているはず」と思いながら頑張ってそれに加わる。仕切れる人が何人かいるとレースは活性化するから面白い。

1時間経過。この頃から意識してこまめに補給のジェルを摂るように心がける。ボトルは1本飲みきったが、この先補給を受け取れることを信じて多めに飲むようにする。

池間大橋を渡る114kmレースの先頭集団池間大橋を渡る114kmレースの先頭集団 photo:Akihiko.Harimotoコースの数カ所でボランティアからボトルの補給を受けることができるコースの数カ所でボランティアからボトルの補給を受けることができる photo:Akihiko.Harimoto


池間大橋を往復する。海の上は風が強く、ふらつかないようにハンドルをがっしりと持つ。まだゴールまで60kmを残した時点でアタックをかけていく若い選手が目に入る。「勇敢だけど、それは無謀というもの」その時はそう思っていたのだが…。

宮古島随一の観光スポット、東平安名崎へと到達した114kmレースの集団宮古島随一の観光スポット、東平安名崎へと到達した114kmレースの集団 photo:Akihiko.Harimoto
東海岸を南下して、東平安名崎(ひがしへんなざき)へ。それにしてもこの美しい宮古島随一の風光明媚スポットをレースで走れるというのは快感だ。コースは灯台の前でぐるりと折り返すのだが、手前で逃げる選手がすれ違いざまに確認できた。パールイズミの市販ジャージを着た選手(酒井駿さん)の独走状態で、タイム差は1分30秒。

東平安名崎へと向かう114kmの先頭集団。CW綾野もなんとか先頭付近をキープ東平安名崎へと向かう114kmの先頭集団。CW綾野もなんとか先頭付近をキープ photo:Akihiko.Harimoto
約60kmにおよぶ独走に成功した19歳の酒井駿選手約60kmにおよぶ独走に成功した19歳の酒井駿選手 photo:Akihiko.Harimoto沿道の応援もけっこう多い沿道の応援もけっこう多い


いよいよラスト20km、最後の海上道路、来間(くりま)大橋を渡る。風がキツく、往路は誰も前を引きたがらず、スピードががくんと落ちる。しびれを切らした遠藤優選手(TeamSHIDO)が前を追って集団から飛び出していく。遠藤選手はおきなわ50〜100km系クラスで常勝の選手で、優勝候補筆頭だ。追いたい気持ちはあるが、脚は無いので見送る。あの勢いなら前の逃げに追いつくだろう。それにしても両サイドでエメラルドに輝く海が美しい! そんなコースでレースを走れるのは最高の気分だ。

東急リゾート前を通過し、残り15km。ここからゴール前4kmまでは緩い上り坂になっている。見回せば集団は40人にまで減っている。ゴールスプリントのことを考えはじめたとき、前を捕まえようとする集団のペースが急に上がり始めた。

市民114kmレースのフィニッシュ。19歳の酒井駿選手が逃げ切った市民114kmレースのフィニッシュ。19歳の酒井駿選手が逃げ切った photo:Akihiko.Harimoto
コーナーで中切れが発生して、前と間が開く。諦めた選手を追い越して前のグループにジャンプ。なんとか合流したが、先頭集団のスピードはいっこうに落ちない。脚に来ている状態で、集団後方にぶら下がる。ピンチだ。

114kmレースで独走優勝した酒井駿選手。市販デザインジャージがノーマークの秘訣?114kmレースで独走優勝した酒井駿選手。市販デザインジャージがノーマークの秘訣? 114kmクラスの先頭集団のゴールスプリント114kmクラスの先頭集団のゴールスプリント photo:Akihiko.Harimoto


最後の5kmで遅れて独走状態でフィニッシュするCW編集部・綾野。気持ちは晴れ晴れ最後の5kmで遅れて独走状態でフィニッシュするCW編集部・綾野。気持ちは晴れ晴れ photo:Akihiko.Harimotoリアルまもる君も4:50:48でしっかり完走。ただしタイムオーバーにつき成績は無しリアルまもる君も4:50:48でしっかり完走。ただしタイムオーバーにつき成績は無し


続いて2分半おいて先頭集団の8人のスプリント。その後は、小グループでポツポツと戻ってくる。女子のトップは男子184kmの27位相当だった。この2人は114kmの先頭集団が途中で抜いたので、どうやら184kmクラスは25人ほどのレベルは相当に高いが、その後ろの選手たちは先頭集団に残れる感じではなく、114kmと走力レベルは被っているようだ。最初から完走を目標に走っているような感じの選手も何割かいるようだ。

114kmクラスは参加者が約400人と、人数が多いぶんレベルが揃ってレースとしては面白いものになっているように感じた。筆者がツール・ド・おきなわ140kmに出場したのはもう15年以上前で、最近のおきなわはオートバイ随行撮影で様子を知っているけれど、ツール・ド・宮古島はツール・ド・おきなわ未満のレベルで、まだまだこれから人気が出て行くレースだと思った。

「ホビーレースの甲子園」と言われるだけに、近年のツール・ド・おきなわは各クラス血走っていて、かなりレベルが高い。宮古島はそんなおきなわの予選と言ってもいいかもしれない。おきなわの普久川ダム(与那)の上りのような厳しい上りがないだけに、レース運びをうまくすれば最後まで集団で走れるのもいい。

雰囲気も柔らかで、ぎすぎすしていないためレース中に罵声が飛ぶことも無い。集団走行のテクニックが身についていれば、完走を目的にして長距離ロードレースをまずは体験してみるのもいいだろう。ツール・ド・おきなわが11月、宮古島は6月で、時期的にも離れているのも良い点だ。



レース仲間との交流が楽しめる表彰とアフターパーティ

表彰式パーティは宮古島流でオリオンビールで乾杯から表彰式パーティは宮古島流でオリオンビールで乾杯から
レース後は提携ホテルのホールを貸しきっての表彰式&パーティが開催される。主催者からは食事やビールが振る舞われ、和やかな雰囲気のなか参加者同士の交流ができる。表彰式は各距離ごとに性別、年代別ごとに細かくたくさん表彰される。だから、先頭争いの他に年代別の入賞についても希望が残っているから、レースが終わってみるまでわからないということ。入賞者たちには泡盛や宮古島の特産品、そして主催者からパワーバー製品の詰め合わせなどがたっぷり提供される。

参加者には軽食が振る舞われ、楽しく交流できる参加者には軽食が振る舞われ、楽しく交流できる フラの踊りショーも披露されて気分を盛り上げてくれるフラの踊りショーも披露されて気分を盛り上げてくれる


184kmレースの男女優勝者には宮古まもる君のミニチュアがプレゼントされる184kmレースの男女優勝者には宮古まもる君のミニチュアがプレゼントされる 沖縄県下の各クラブの有志で結成した沖縄県自転車競技部の皆さん。最大勢力でした沖縄県下の各クラブの有志で結成した沖縄県自転車競技部の皆さん。最大勢力でした


やっぱりツール・ド・おきなわ同様、沖縄での長距離レースの後はオリオンビールと食事で仲間たちと語り合うひとときを過ごせるのが楽しい。フラの踊りショーもあり、ホスピタリティーもばっちりだ。



レースのTIPS 体験的ワンポイントアドバイス

レースに用意したパワーバー製品など一式レースに用意したパワーバー製品など一式 大会主催者のパワースポーツはパワーバーの輸入販売元なので、大会会場ですべてのサプリメント商品を購入することができるのも助かる(アドバイスも貰える)。今回はレース中の補給食としてPowerGel 4本、PowerBar 1本、そしてパワースポーツが独自開発したというスズメバチエキスによる決戦用スペシャルドリンク「TOPSPEED」を1本携帯し、計算通りすべて使いきった。

天気が晴れて暑くなればドリンク系を充実させたいところだ。チームのサポートが有る場合はコース途中の上りポイントなどで任意に補給を行うことができる。ボトルの心配が要らなくなること、好きなドリンクや補給食を渡してもらえるので有利だ。大会側によるコース上の補給ポイントは4箇所ほどで、水のボトルを受け取ることができる。

コースはほぼ平坦なので、ギアはクロスレシオで十分。エアロ系ホイールを使用する人も多く、有利ではあるが強い海風に煽られてふらつく危険もあるので、天候にあわせてロープロファイルの前輪も用意しておくのがいいだろう。路面は概ねいいのでパンクの心配は少ないようだ。ニュートラルサポートは各クラスに随行しており、先頭集団に居れば随行車からスペアホイールや応急修理サービスを受けることができる。メカニシャンのレベルはトライアスロンも担当する一流のメカニシャンたちで安心できる。


レースの参考データ

114kmの部 エントリー数:401人
男子優勝 酒井駿(神奈川) 3時間7分42秒
女子優勝 足立リカ(愛知) 3時間37分56秒

184kmの部 エントリー数:109人
男子優勝 中尾峻(神奈川/Team SHIDO) 5時間0分22秒
女子優勝 仲村陽子(浦添市/竹芝レーシング) 5時間46分51秒

完走率
114km 366人中265人が制限タイム内に完走 完走率は72・4%
184km 104人中71人が制限タイム内に完走 完走率は68・3%
※タイムオーバー扱いになってもフィニッシュまで走ることはできる。

114kmレース上位表彰 114kmレース上位表彰  60代の鉄人を讃えるエイジグループ表彰も60代の鉄人を讃えるエイジグループ表彰も


男子と混走で走った114kmレースの女子の部の表彰男子と混走で走った114kmレースの女子の部の表彰


photo:Akihiko.HARIMOTO(PowerSports)
photo&text:Makoto.AYANO

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