インドネシアで行われた、3日間のステージレース「Tour de Bintan(ツール・ド・ビンタン)」。日本から夫婦で参戦した小村紗智さんのレースレポートをお届けします。



レースなんて大嫌いだ、あんなもの。
明日はレースだなんて日は1日そわそわして、胃がキリキリとしている。
なぜいい大人達が怖い顔をして競い合うのだろう?
どうせ私は負けるのだ。力の差を見せつけられるのが怖い。
そして自分が負けるのが嫌だなんて考えている自分が大嫌いだ。



私、小村紗智(以下サチ)がアマチュアレーサーである主人の小村太朗(以下太朗)の影響で自転車に乗り始めて3年目となる。私はサイクリングを楽しめればそれで良かったのだが、「それじゃオレが楽しめない」と言う太朗の思惑にまんまと乗せられ男性ばかりの練習会に、沖縄、北海道、イタリアの夫婦自転車旅、自転車レースにまで赴いて、知らず知らず自転車スキルを磨かせてもらっている。

昨年も応援へと訪れていたTDB昨年も応援へと訪れていたTDB シンガポールの強豪チームSwiftCarbon Virgin Activeシンガポールの強豪チームSwiftCarbon Virgin Active photo:SwiftCarbon Virgin Activeチームバイクも用意されていたチームバイクも用意されていた photo:SwiftCarbon Virgin ActiveTDBのために集まったSwiftCarbon Virgin ActiveのメンバーTDBのために集まったSwiftCarbon Virgin Activeのメンバー photo:SwiftCarbon Virgin Active1番なんか獲るより時間を守りなさい!と言う両親に育てられたおかげか、人と競うということには抵抗感さえあるものの、その抵抗感とは自信の無さなのか、真剣に向き合う事への逃げなのかを見つめるためにレースに挑んでいる。

Tour de Bintan(以下TDB)、それはシンガポールから船で1時間のリゾート地、インドネシア・ビンタン島で3日間に渡り開催されるアマチュアレースだ。私にとって初めてのステージレースであるこのTDBは太朗にとって昨年に続き2度目の出場となる。

TDB2015で初の海外レース出場を果たし雰囲気を掴んだ太朗は、タイはバンコクで開催される5日間のステージレース、Tour of Friendship(以下TOF)2015でその存在感を見せつけた。30代の部で総合優勝を飾ったのだ。アジアのアマチュアレースとはいえ、参加者の半分以上はアジアに暮らす欧米人である。その体格差は表彰台のてっぺんに太朗が立っても2位の選手を見上げるほどだった。

加えて彼らはエースやアシストとして、テレビで見るようなチーム戦を繰り広げる。プロトンの様子は思わずツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアを連想してしまう。全くのノーマークだった上に単騎で現れた小さな日本人に、他チームは動揺を隠せなかった。と同時に彼はとても可愛がられた。拙い英語で積極的にコミュニケーションを図り、自転車レースの紳士協定に則ってレースを進めたからだ。チャンピオンジャージを身にまとった彼を皆 Hey Champ, と呼び、総合争いに絡まない選手が太朗のアシストを買って出てくれたりもした。

その活躍が目に留まり、今年はシンガポールの強豪チームから声が掛かった。チームの名は”SwiftCarbon Virgin Active”。フレームメーカーであるSwiftCarbonのシンガポール代理店、ヨーロッパ、アジアなどにフィットネスクラブを展開するVirgin Active、これらのスポンサーを受けるアマチュアチームだ。昨年共に戦った選手らも所属しており、昨年のチャンピオンの加入を喜んでくれている。

そこへ、サチも応援するだけじゃつまらないだろうから今年は出場しなよ、と誘われた。日本の自転車乗りにとって海外のステージレースなんて夢みたいな話なんだよ、とも。

いやいや、昨年だって応援で充分に楽しみました。日々勝ち進めてゆく太朗を、レース前に彼が歩けば必要なものが手に入るように並べ、レース中はサポートカーに乗り、レース後はマッサージをする…そういうのもぜんぜん嫌いじゃないんです、私。

いやいや無理だとか言ってるんじゃなくて、自分の器じゃないというか、そんな舞台は大きすぎるというか、いや逃げてるんじゃなくて、…いやもしかして逃げてるのか?

…こうして私は出場する事となった。

Tour de Bintan 2016の概要は以下の通り。男性は年齢に関係なく実力でCAT1~3に分けられ、太朗は実質アマチュア上級クラスのCAT2に出場。女性は一括りにCATW。

DAY1: プロローグ 個人タイムトライアル(以下TT) 12km 獲得標高130m
DAY2: 第1ステージ 153km 獲得標高1600m(女性は144kmで1500m)
DAY3: 第2ステージ 107km 獲得標高920m

例年11月に開催される本大会はインドネシアの煙霧、Haze(ヘイズ)の影響で半年後の4月開催に。特筆すべきは2日目の144km。全日本選手権でも107km、沖縄国際女子でも100kmというように、エンデューロレースを除けば女子としては異例の長さのコース設定である。 長い登りはないが細かいアップダウンが続く。そして、それは同時に酷暑との戦いでもある。



DAY1: プロローグ 距離12km、獲得標高130m

ホテルから9km程離れた場所に今日のレース会場があるという。ウォーミングアップを兼ねて自走で向かう。気温40℃超の世界で自転車に乗るとはどんなものか。会場に着くとちょうどレースが始まったところだった。

スタート会場に向けてサイクリストたちが集まっていくスタート会場に向けてサイクリストたちが集まっていく
スタートゴールのゲート、選手控え用のチームテント、バイク重量計測場所、メカニック、補給のテントとブースが並んでいる。周りに立てられたフラッグはバタバタと風を受けて強くはためき、心拍が上がりそうな音楽がスピーカーから大音量で流れている。

大会のイメージカラーはグリーンとなる大会のイメージカラーはグリーンとなる 主人の太郎とチームメイトたち主人の太郎とチームメイトたち 一人づつスタートしていく個人タイムトライアル一人づつスタートしていく個人タイムトライアル
太朗の結果は20/68位。(Time 18:31 Ave 38.9km/h)彼自身もその経験は少なく、12kmでアップダウンに富み、予想以上の強風に見舞われた本格的なTT(ただしノーマルバイク、エアロバーなしのルール)は特に苦戦したそうだ。予想はしていたものの周りの海外の選手は大柄なのでタイムが良い。

特にCAT2トップはTime 16:47 Ave 42.9km/h(2位はTime 17:37 Ave 40.9km/h)と圧倒的に強い。レース後に話しかけるとフィリピンのヤングナショナルチーム所属の17歳とのこと。コンニチハーと言われる。可愛くていい子だが、体格は細く登りも強そうで、まともにやりあっても敵わなそうだー。

後編に続く。



小村紗智(こむらさち)プロフィール

[img_assist|nid=201138|title=小村紗智(こむらさち)|desc=|link=node|align=right|width=220|height=]アウトドアアクティビティこそ好きだったものの、スポーツに打ち込む経験を持たないまま突入した30代でアマチュアレーサーの主人と出会う。まんまと自転車に乗り始め、まんまとハマり、まんまと向上心をくすぐられ、今では3度のメシよりライド中に食べる4度目のメシが好き。

レースにも参戦するが、自転車に乗ってずびゅーんと移動するその中で草木を愛で、土地の人と交わる事が好きな性分(タチ)。ちゅなどんこと石井美穂ら女性5人で結成した"SKRK Tinkerbell(シャカリキ ティンカーベル)"では、女性を中心としたライドイベントも随時企画中。

text&photo:Sachi.Komura