初心者から見ると、閉ざされがちなMTBの世界。とくにどこを走るのか?というのはできるだけクローズにするのが習わし。そんな状況に風穴をあけるべく活動する南アルプスマウンテンバイク愛好会の取り組みを紹介します。



11月7日に、南アルプス市の櫛形山をライドする有料イベントがあった。11月7日に、南アルプス市の櫛形山をライドする有料イベントがあった。
Facebookでの呼びかけに対応したMTBライダー達が、このイベントに集まった。Facebookでの呼びかけに対応したMTBライダー達が、このイベントに集まった。 呼びかけ人である『南アルプスマウンテンバイク愛好会』の代表である弭間(はずま)亮さん呼びかけ人である『南アルプスマウンテンバイク愛好会』の代表である弭間(はずま)亮さん 世界を変えるのは難しい。でもMTBで走りたいトレールを、自分で確保するなら、それなりの手はある。いまや自分で走りたい場所は、自分で作り出す時代になった。それを実証にしたのが、11月7日に行われた有料ライドイベント『南アルプス市櫛形山のトレイルを特別限定オープン!』である。この山のトレールをオープンにする第一歩だ。

『南アルプス市櫛形山のトレイルを特別限定オープン!』。11月7日にFacebookでのイベントとして告知、募集されたのが、この有料イベントだ。これは『南アルプスマウンテンバイク愛好会』の代表である弭間(はずま)亮さんの大きな志への第一歩でもある。

弭間さんは、ハードコアなトレールライダーだ。いろいろなところでライドし、ガイドツアーにもお金を払って参加する。最近そんなツアーで、西伊豆の山の古道を整備してトレールにし、冬も走れるとして名を上げるツアーがある。山伏トレールツアーだ。

昨年末に東京近郊のトレールが走れなくなる、として話題になり、それを回避する引き金となった『西多摩マウンテンバイク友の会』の活動。MTBトレール保全活動。ガイドツアーたちの頑張り。怒られることなく隠れることなくMTBで走れるトレールを確保する。そのために、ライダーそれぞれが動き始める時代となっている。弭間さんもそんなライダーの一人だ。

弭間さんは、アウトドアブランド『モンベル』に勤めている。5年前に入社し、その3年後には、MTB好きであるのが評価されたのか直営店の自転車販売への配属となった。

「自分でMTBを販売するときに、お客さまに『どこで乗ればいいの?』と聞かれて、それに応えられなくて。そこに違和感を感じて、なんとかしなきゃいけないなと。モンベルの人間としても、社会人としても」

呼びかけに応えたライダーの中には元五輪XCライダー、小田島 梨絵さんもいた。呼びかけに応えたライダーの中には元五輪XCライダー、小田島 梨絵さんもいた。
走れるように整備されたが、それでも経験あるライダー向けで『楽しい』。走れるように整備されたが、それでも経験あるライダー向けで『楽しい』。 美しい落ち葉の中を走れる機会となった。秋のトレールは美しい。美しい落ち葉の中を走れる機会となった。秋のトレールは美しい。 それまで、この南アルプス市の櫛形山によく走りに来ていた、いわば『ローカル』な弭間さん。勤める会社内にもMTBを広め、プライベートな集まりとしての人数を増やし、この櫛形山を中心としてさまざま走りに行っていた。

「いい道がいっぱいあるんだよなー、と思っていたんですが、それをみんなで走るためにはどう交渉すればいいのかわからなかった」

そんなときに山の中で出会ったのが、NPO『南アルプス山麓いやしの里づくりの会』事務局長の飯島孝也さん。その出会いをきっかけに、飯島さんもMTBに乗り始め、よし、MTBが大見得切って走れるようにしようじゃないか、という話で意気投合。このNPOの活動の一環として、『環境に配慮したマウンテンバイクのコース作り、イベント企画』を行うこととした。

それがこの『南アルプス市櫛形山のトレイルを特別限定オープン!』である。トレールの整備を担当するのが、弭間さんを中心とする仲間には「南アルプスマウンテンバイク愛好会」という名前をつけた。この名前の分かりやすさと優しさもポイントだ。

少しずつトレールを整備し、皆が走れるまでに仕立て上げた。全てのライダーがトレールビルダーだという意識である。少しずつトレールを整備し、皆が走れるまでに仕立て上げた。全てのライダーがトレールビルダーだという意識である。
これまで弭間さんが見つけてきた面白いトレールを、今回のツアーでしっかりと整備して、解放してくれた。今回公開されたのは2コース。1つはUの字型のチューブ系トレールが続き、下りがなかなかにグッとくるもの。途中に積まれた丸太よけセクションがあってかわいい。そしてもう1つが180ターンのスイッチバックと、途中の人工バーム&橋が走りどころのコース。木々の合間を走るシングルトラックが、様々な表情と性格で待ち受ける。

人はバスに、自転車はクルマに乗せて上がる。標高差400mのダウンヒルを1日かけて4本ほど楽しんだ。自然のトレールなので、集中力が必要だ。でも自然というのが楽しい。人は自然を好み癒されるようDNAにプログラムされているらしい。

倒木を切り、道を切り開く。倒木はいつでも現れる。常なる作業でもある。倒木を切り、道を切り開く。倒木はいつでも現れる。常なる作業でもある。 人工のバームを付けた、トレールが崩れないように、そして楽しく曲がれるように。人工のバームを付けた、トレールが崩れないように、そして楽しく曲がれるように。 お昼は大変肉ニクしい、オトコマエ弁当。ボリューム満点でその後眠くなって困った。お昼は大変肉ニクしい、オトコマエ弁当。ボリューム満点でその後眠くなって困った。 愛好会のみなさんのご協力で、自転車は車であげてくれた。人は紅葉祭のシャトルバスに乗って上がる。愛好会のみなさんのご協力で、自転車は車であげてくれた。人は紅葉祭のシャトルバスに乗って上がる。


今回のイベントは南アルプス市の主催による、地元の紅葉祭に場所と時間を合わせた開催となった。これは行政にMTBイベント開催による効果を見せたいという気持ちがあった。どれぐらい人が来るのか、山への影響はどうか。参加者たちのマナーはどうか。MTBトレールのオープン化(言葉はどうあれ常時走行許可の取得)に向け、まずはオープンな実績を積むことだと彼らは考えたからだ。有料、お弁当付きライドだったのも、その表れだ。

このイベントで、弭間さんを大きくバックアップした山崎さんはこう語る。「行政は、人が入ることで森が生き返るというのはわかるわけです。でもそれがMTBだったら危ないんじゃないか、自然を守らずただ遊んでいくだけなんじゃないか、そういう偏見があるんです。実際やってることを理解してもらって、地元ともうまくやっていることを理解してもらって初めて、行政もやっといいかな、となる」

そのために目指しているのは、会員制のマウンテンバイクコースのオープンだ。山を、森を生き返らせるためのMTB。山を整備し、地元に理解され、貢献でき、行政にも認められた、オープンなコースを目指している。

最後はスタッフがお楽しみの、一大ライドとなった。みんな慣れたもので、その速度も速い速い。最後はスタッフがお楽しみの、一大ライドとなった。みんな慣れたもので、その速度も速い速い。 まず愛好会をつくり、地元の方々とコミュニケートする。それがトレール合法化の第一歩だ。まず愛好会をつくり、地元の方々とコミュニケートする。それがトレール合法化の第一歩だ。

スタッフで記念写真。このイベントの実現と成功が、彼らの新たな一歩となる。スタッフで記念写真。このイベントの実現と成功が、彼らの新たな一歩となる。
イベントでレンタル用として用意したモンベルのMTB「シャイデック」イベントでレンタル用として用意したモンベルのMTB「シャイデック」 とても美しい紅葉も、ライドに華を添えた。とても美しい紅葉も、ライドに華を添えた。


「2年前に始めたこの行為が、いま、やっと身になりました」と弭間さん。「実はもっと標高差の大きいイベントをしたくて。世界にはそういう標高差の大きなスケールのMTBイベントがありますよね。その小さなモデルケースで実績を積んで、他の活動にも貢献して、理解賛同してもらって、山の麓に全体で応援してもらえれば、この山の標高の高いエリアでもできるようになるんじゃないかと。小さな一歩ですね。標高差1000m以上というのを実現するための」

結果35名ほど集まり、最後はスタッフ総出でのライドとなった。これから整備を行い、どのようにトレールは痛んだのか、それをどう整備すれば、前に進んでいけるか。今日のこの日の最後の走りは、『南アルプスマウンテンバイク愛好会』の新しい幕開けの走りとなった。

次回イベントに興味のある方は、まずは『NPO法人 南アルプス山麓いやしの里づくりの会』まで連絡してみよう。連絡先はこちら: [email protected]

これからが、MTBの季節です。これからが、MTBの季節です。
今回のイベントの参加者には、事前にこのコースを走る際の注意事項が伝えられた。これはそのまま、MTBを走る時の、最新かつ効果的な心構えでもあった。そのまま引用しよう。それぞれの意味合いは、読んだ方でさまざま解釈していただければ嬉しい。



注意事項:
・古道を出ると集落の中を通ります。談笑はOKですが、興奮して叫んだり奇声をあげたりしないようお願いします(笑)。
・トレイルを削るような走り方はしないようにお願いします。でも楽しんでください。
・事故の無いようにお願いします。事故が起きると一発で使用禁止になる可能があります。また自己責任でお願いします。
・当日ほたるみ館で感謝祭が開催され無料で食べ物がふるまわれますがほたるみ館会員向けですのでマウンテンバイクの方は受け取らないようお願いいたします。
・今回使用するトレイルはマウンテンバイク用に作られた道ではなく昔の林業古道を再生したものです。ですので部分的に難しい箇所も多く、中上級者向けになります。



参考URL
南アルプス市櫛形山のトレイルを特別限定オープン!
NPO法人 南アルプス山麓いやしの里づくりの会

text:Koichiro Nakamura