東京・渋谷にて、7人の現代アーチストによる自転車を巡るエキシビジョンが行われている。いずれも一線で活躍する前衛的な芸術家たちによる、自転車に関連ある作品を集めて展示した作品展だ。



夢走する自転車 : ART×BIKE 夢走する自転車 : ART×BIKE 東京は恵比寿、広尾五丁目交差点近くのギャラリーにて3週にわたり開催されている「夢走する自転車 : ART×BIKE = A NEW UNITY」展。作品のひとつに製作段階より関わった綾野真がレポートする。

この作品展に出品しているアーチストは、寺田尚樹、クボタタケオ、根本有華、千倉志野、添野和幸、日下芝、糸井潤の7人。いずれも絵画、写真、彫刻・オブジェ製作などにより意欲的な作品づくりに取り組んでいる現代アーチストだ。

出展者の一人で、自転車好きのクボタタケオさんの何気ない発案で始まったというこの展示。親しいアーチストに声をかけ、自転車をモチーフにした作品や、もともと自転車に縁のある歴史的な品目を集めて展示するに至ったという。それでは7人の作家による作品を簡単に紹介していこう。なおこの展示は11月29日まで開催されているので、この記事をガイドにギャラリーに観に行って欲しい。

寺田尚樹 「Road race」

寺田尚樹 「Road race」寺田尚樹 「Road race」
ギャラリーの広い窓を舞台に設置されたのは、ツール・ド・フランスを完走しきった160名の選手たちのプロトンを、紙の模型で表現した作品。小さな模型はポージング、自転車のライディングスタイルにこだわって製作。なかには悪魔おじさんやホイールを積んだニュートラルサポートのオートバイの姿も。

サイクリストのシルエットはツール・ド・フランスを良く知っている人でも納得できるディテールを追求し、山を登る集団が細いアクリル板に載せる形で展示されている。ガラス窓を利用しての展示が前提にあり、160人は今年のツール・ド・フランスの完走者数だ。マイヨジョーヌを意味する黄色いサイクリストが先頭にいる。

サイクリストの姿を再現した紙模型サイクリストの姿を再現した紙模型 応援する悪魔おじさんの姿も応援する悪魔おじさんの姿も


シクロワイアード編集部の綾野 真は、サイクルフォトグラファーの見地から、自転車選手の体つき、上半身が細く脚のスラリとした長さの体格的な特徴、フレームの形状や人体との比率などを細かくアドバイス。テラダモケイが数度の試作を重ねて作り上げた。テラダモケイの製作する紙の模型キットは世界的に有名で、コレクションする人も多く居るという。(詳しい説明は記事下部に改めて記します)

チネリ・レーザーとペデルセン型自転車

チネリ・レーザーとペデルセン型自転車チネリ・レーザーとペデルセン型自転車
チネリ・レーザーは言うまでもなく前衛的なロードレーサーを造ってきたチネリ社の名車。金属溶接を感じさせないなめらかな仕上げと、全体にわたってデザインされた美しい車体が自転車史上最高の傑作として評価されている1993年製の名車だ。展示される実車の保存状態に驚く。
ペデルセン型自転車は1905年製の復刻モデル。アーチストの一人が実際に乗っている愛車だ。

クボタタケオ 「a Bicycle view」

クボタタケオ 「a Bicycle view」クボタタケオ 「a Bicycle view」
写真家でもあるクボタタケオ氏。自転車に乗っている中で視界に流れてくるような情報を抽象化した作品だ。自転車で走っている時に目に飛び込んでくる風景や、そのスピード感さえもがリアルに感じることができる。

デュシャンに習いて

オブジェ「デュシャンに習いて」オブジェ「デュシャンに習いて」
マルセル・デュシャンの作品「自転車の車輪(1913年)」を複製したオブジェ。ちなみに元になったオブジェの世界的名作は、作家の家族に捨てられたために今では現存していない。これはその名作を再現したもの。車輪を回すと、浮遊感を感じる。製作協力には「ユキリン」の名前がある。また、そのオブジェのすぐ上には抽象画のような小さな写真が展示されている。これも不思議な感覚だ。

根本有華 「壊れた自転車でぼくはゆく」 他、絵画10作品

根本有華 「壊れた自転車でぼくはゆく」他、絵画10作品根本有華 「壊れた自転車でぼくはゆく」他、絵画10作品
絵本の表紙などを手掛けるイラストレーター、根本有華による絵画。市川拓司著の「壊れた自転車でぼくはゆく」の表紙画が元となる、絵画10作品。モネを思わせる中央の絵がきっかけとなり、自転車で通り過ぎる風景を描いている。一点一点が個別の作品だ。

千倉志野 「バイシクルトラベル」

千倉志野 「バイシクルトラベル」千倉志野 「バイシクルトラベル」
世界を旅しながら「自転車のある風景」を作品にしてゆく写真家、千倉志野。自身が興味をもった被写体を、旅しながら、写し止めていく。ヨーロッパやアジア、日本、スリランカなどで撮影。

添野和幸 「遠い道」

添野和幸 「遠い道」添野和幸 「遠い道」
モノクロを中心に作品展開する写真家、添野和幸による大判のモノクロプリント。北海道の風景を撮影したものだ。添野はこの条件にあった風景を探すために北海道のある一帯に一週間滞在し、自転車に乗ってロケ地を探し求めた。この作品「遠い道」は、1分間の長時間露光で写し止めた。ほぼ真っすぐに撮影しながらも、ブレ、ぼかしが入ったような、トーンで見せる写真だ。観るものに、自分が自転車に乗って動いていることを感じさせる。

日下芝 「line#36(イタリアン組みからのオマージュ)」

日下芝 「line#36(イタリアン組みからのオマージュ)」日下芝 「line#36(イタリアン組みからのオマージュ)」
抽象表現を得意とする日下芝(くさか・れいし)によるアクリル画。日下によれば、自転車はあまりにも具体的なオブジェクトであるが、その造形のなかでホイールの「イタリアン組み」に興味を持ち、それを表現した。補足すると、「イタリアン組み」とは、競技用自転車のスポークの通し・組み方。キャンバス布にアクリル絵の具を用いて描かれる。超大判の作品だ。

糸井潤 「Silpa's House #8780」「Silpa's House #8705」

糸井潤 「Silpa's House #8780」「Silpa's House #8705」糸井潤 「Silpa's House #8780」「Silpa's House #8705」
写真家・糸井潤がフィンランドで撮影した作品。戦争からの帰還兵に政府が貸与した住宅跡地で、放置されているものを撮ることが多い糸井氏。
なかでも海沿いで約50年ほど手付かずであった家の片隅にあったモチーフを撮影。
「写真を絵のように見せたい」と、紙にこだわり、友人が開発した特殊紙にインクジェットでプリントしたものでつくる写真作品だ。漁に使う網や錆びついた自転車の質感は、見ていると鳥肌が立ってくるほどのディテール感で立ち上がってくる。被写体となった50年経った漁網と釣具の一部が作品の脇に展示されている。

以上、ここで紹介するものは展示会で直接観ていただくことを前提に、細部には迫らない。小さな小さな展示会だが、ぜひ立ち寄って観て欲しい。



テラダモケイ「1/100建築模型用添景セット No.63 サイクルロードレース編」

テラダモケイ「1/100建築模型用添景セット No.63 サイクルロードレース編」テラダモケイ「1/100建築模型用添景セット No.63 サイクルロードレース編」
疾走するツール・ド・フランスのプロトン サイクリストの姿を再現した紙模型だ疾走するツール・ド・フランスのプロトン サイクリストの姿を再現した紙模型だ 冒頭で紹介した寺田尚樹さんによる作品の元となった紙のサイクリスト人形は、テラダモケイから12月に販売される予定になっている。

この紙による模型は、「建築模型用添景シリーズ」として文字通り60種類以上が取り揃えられており、このNo.63 サイクルロードレース編の製作にあたっては、私ことシクロワイアードの綾野が監修役として参画。ツール・ド・フランスのフォトグラファーとして、選手の体つきの特徴や、自転車のフレームの形状やサドル等の高さや角度、サイズ感、ニュートラルサポートのオートバイのディテール、悪魔おじさんのディテールなどを、細かくアドバイス。試作を重ねてきた。すでにプレ製品版としてのシートは完成しており、発売を待つのみ。なおなるしまフレンドの鈴木淳氏他もアドバイスに参画している。

テラダモケイによる紹介記事はこちらだ。



展示会名 :「夢走する自転車 : ART×BIKE = A NEW UNITY」

会場となる Gallery 工房 親(ちか)手前の自転車と犬はエキストラ出演だ会場となる Gallery 工房 親(ちか)手前の自転車と犬はエキストラ出演だ 展示会会場:Gallery 工房 親(ちか)
      東京都渋谷区恵比寿 2-21-3
アクセス:  http://www.kobochika.com/access.html

日時   :2015年11月6日(金)〜11月29日(日)
      12:00〜19:00(日曜・最終日18:00)月・火曜 休廊

参加アーティスト:
糸井潤 日下芝 クボタタケオ 添野和幸 千倉志野 寺田尚樹 根本有華