2009年1月16〜18日にかけて、東京千代田区の科学技術館で2009ハンドメイドバイシクルフェアが行われた。会場には各ブランドのビルダーが腕を振るった様々な自転車が展示され、訪れる人々でにぎわいを見せた。

好評を博した2009ハンドメイドバイシクルフェア好評を博した2009ハンドメイドバイシクルフェア photo:Yufta Omata昨年は開催されなかったハンドメイドバイシクルフェアが2年ぶりに開催。今年で実に21回目を数える歴史あるイベントだ。日本自転車普及協会の谷田貝さんはハンドメイドバイシクルフェアを始めたきっかけをこう語る。

「素材、機能性、デザインといったものについて、ビルダーさんのコンセプトに基づいて作られた自転車を展示しようと。それというのもそれは大手メーカーさんの作られるものとも違ったものですし、紹介することに意味があるだろうと。それが最初の趣旨でしたね。

そして回を重ねるごとに、各ビルダーさんが自分のコンセプトに基づいて新しい技術を創意工夫することで社会的なニーズに応えるようになりました。その結果、従来のレース用だけでなく高齢者向きだったり、幼児2人乗りといった新たな自転車が開発されています。そしてそれは、ビルダーさんたちが先陣を切って作っているものなんです。その意味でも、このイベントは自転車の幅広い利用を提案する上で役割があるものだと思っています」

谷田貝さんによると今年は過去最高の人の入りだという。確かに最終日の会場には、来場者がひっきりなしに出入りしていて賑やかだ。それでは、各ビルダーさんが腕を振るった自転車をビルダーさんの言葉とともに紹介していこう。

スチールにこだわるDobbat's

ドバッツのスチールロードバイクドバッツのスチールロードバイク photo:Yufta Omataスチールのロードバイクや街乗りクロスバイクを展示していたDobbat's。ビルダーの斉場孝由さんに話を聞いた。

「乗って楽しくて、持って嬉しい自転車をつくることを心がけています。競技だけにこだわっているわけではなくて、持ち物として満足できるバイクづくり。もちろん速い・軽いというのは大事な要素ですけれど、それ以上に乗って嬉しい、それが自分には合っていると思うのでそうやってバイクを一生懸命作っています。」

クロモリにこだわるのは、「造形をして行く上で、自分らしさをどの材料を使えば出せるのかと考えた時に、それがクロモリだったんです。」とのこと。

人目を引く竹のバイクは走りもスペシャル アトリエ・ドゥ・キャファ

アトリエ・ドゥ・キャフェの竹製バイクiF8000 Takeアトリエ・ドゥ・キャフェの竹製バイクiF8000 Take photo:Yufta Omataトライアスロンバイクからタイムトライアルバイク、カーボンロードバイクまで多彩なバイクを並べたアトリエ・ドゥ・キャファのブースで一際、異彩を放っていたのが「IF8000 Take」だ。名前からわかる通りなんと竹をメインフレーム素材に使用しているバイクだ。

ビルダーの辻本誠さんはこのバイクについてこう語る。

「これは作る側のアソビ。作る側だって遊ぶくらいのゆとりを持ってないと。でもこれがまたよく走るんです。作ってびっくりしたよ。カーボンよりもいいんじゃないかって(笑)ただね、割れちゃうんです。乗ってても割れないのに冬場の乾燥で割れてしまうんです(笑)今はその対策をいろいろ考えているところ。竹の種類を変えようかなって。実用性は低いかもしれないけれど、オモシロいよ。」

では自転車づくりにおいて重要視していることとは?

「その人にとって一番いい自転車とは何か?と考えることから始めています。そのために人間工学を使って、その人に合う自転車を作っています。大腿骨の長さに合わせてクランクの長さを変えたりね。市販のパーツでは足りないときはオリジナルパーツを作って対応してるんですよ。

ここに並んでるバイクを見てもらえればわかるけど、雑多でしょ(笑)トライアスロン、TTバイク、サスペンション付きに竹…。いろんなシーンに対応できるバイク作りをしていたらこうなったんです。」

造船技術を注入した木製自転車 サノマジック

サノマジックの木製ロードバイクサノマジックの木製ロードバイク photo:Yufta Omata今回の会場の中でもっとも斬新で独創的なバイクを展示していたブースのひとつがサノマジックだ。自転車界では馴染みの薄いこのブランドだが、実は木造ヨットのブランド。国内外で高い評価を受ける造船の技術を投入して生まれたのが今回の展示バイクだ。ビルダーの佐野末四郎さんにブランドヒストリーを聞いた。

「2002年にドイツで発表した小型モーターボートが世界で最も軽い木造船と評価されました。カーボンと遜色ない軽さだと。それで日本に持ち帰ったら、見た目ばっかり注目されてしまったんです(笑)性能については誰も気にかけない。それでいかに我々の木工技術が高いものか、ということを表現するひとつのモチーフとして自転車を選んだわけです。

サノマジックのバイクはハンドルも木製だサノマジックのバイクはハンドルも木製だ photo:Yufta Omataそれで自分の通勤にも使いたいということで、作ってみたらまた性能が良かったんです。今まで乗ってたアルミバイクと比較するのも酷だとは思いますが、乗り心地も非常に良かった。それでいくつかこうしたショーに招待されるうちに、欲しいという声もいただくようになりました。商業ベースでやるつもりはありませんが、需要の高まりには応えたいな、と。ヨーロッパからもオーダーをいただいてるんですよ。」

それでは自転車を作るにあたって、重要視していることは何でしょうか?

「我々は自転車より先に木という素材を意識しています。木を使うにあたって、その良さを100%引き出すのに、自転車フレームのどこにどれだけの力がかかるのか、どれだけ耐えうるのかということを計算することが必要になります。ご存知の通り、現在のレースバイクは剛性の高さが重要視されていますが、木ではこの剛性は出せないんです。弾性のある素材ですから。

ですから、発想を変えて、いかにこの弾性をスピードに変えるか、ということを考えるわけです。それで1年半ほどかけて、よりスピードの出せる木のデザインを起こしました。そうしてできた1号機から、より精密に弾性とスピードとの関係がわかったのでそれを活かして製作されたのが3号機です。これはスピードが出ますよ。この自転車は力学の塊です。数が少ないのが難点ですが、乗ってもらえればその性能はわかるはずですよ。」

繊細な作りの巧さに日本の職人技術を見る

ケルビムのロードバイクケルビムのロードバイク photo:Yufta Omataもちろん会場を埋め尽くす他のブランドのバイクも個性的で眼が離せない。ビルダーさんから話は聞けなかったが、ここにざっと紹介しよう。

ハンドメイドバイシクルフェアのベストバイシクル賞の常連ケルビムはさすがの美しいフレームワーク。ブースで熱心にバイクを見入る人々の姿が目についた。トップチューブとシートチューブに補強が入ったオリジナリティあふれるバイクを展示したのはエンメアッカ。オーダーメイド専門のワタナベは所有欲を満たす美しいフレームを発表していた。

シートポスト一体型のテスタッチのカーボンフレームシートポスト一体型のテスタッチのカーボンフレーム photo:Yufta Omataテスタッチはシートポスト一体型のカーボンフレームを展示。カラーリングもポップかつ洗練されている。ツーリング車もシックな雰囲気を醸し出している。絹自転車製作所のシルクは、美しいポリッシュのバイクがその名の通り絹の目の細やかさを思わせた。

全てがオーダーを受けてからの製作となるヒロセはスポルティーフやランドナー、ロードバイクを展示。細部まで丁寧な作りは職人の技術を感じさせる。

黒の装いがシックなVogue黒の装いがシックなVogue photo:Yufta Omataオリエント工業のヴォーグはロングディスタンスライドに向けたバイクを展示。美しいフレームワークで上質なスポルティーフを展示していたのはトーエイ。ピストとロードバイクを並べたのはビルダー界の御所ナガサワ。フラットバーのピストを並べ、ピストの第一人者として柔軟な展示を見せた。マキノはレーシーなフルカーボンフレーム。ラバネロもレーシーなバイクからクロモリまで多彩なライナップを並べた。

パナソニックはシクロクロス全日本チャンプの豊岡英子のロードバイクや、チタン製ピストバイクを展示。カーボンバイクの草分けアマンダは独創的なカーボンバイクと木製リムを用いたホイールが注目を集める。カラーリングからして山岳仕様と思われるバイクもあり、オリジナリティでは群を抜く。

奇抜なデザインが注目を集めるTAKATAスペシャル奇抜なデザインが注目を集めるTAKATAスペシャル photo:Yufta Omata独創と奇想の間をいくのはTAKATAスペシャル。なんとアルミの平板をメインフレーム素材に用い、メカニカルで工業的な自転車を作り上げた。もう一台はメインフレームに木を用い、アルミ平板との組み合わせでやはり他の追随を許さないデザインのバイクとなっている。

全体として個性的なバイクの展示が目立った一方、クロスバイクといった街で乗る自転車もひとつのジャンルとして精力的に製作しているブランドが目立った。また、幼児2人乗り自転車(別記事にて紹介予定)や高齢者向け自転車など、様々な用途に応じた自転車の展開も、自転車の啓蒙という意味で重要なものだろう。

日本の職人の巧みな技術が詰まったハンドメイドバイシクルフェア。来年はぜひ足を運んでその技術の高さと、ビルダーたちの自転車への愛を感じてほしい。