Livブランド創設者、ジャイアントグループ副社長であるボニー・ツー氏へのインタビュー。富士ヒルクライムを走るために来日した彼女に、「もっとスポーツバイクを女性の身近に」という思いやLivの活動について訊ねました。

ボニー・ツー氏。彼女はジャイアントグループの副社長で、そこから生まれた女性サイクリストのためのサイクリングブランド「Liv」の創設者で、そしてリーダーだ。そんな彼女が永年の夢だったという富士ヒルクライムのため、150名の一般参加者と、33名のジャイアントグループ社員と共に、台湾から日本にやってきた。筆者は大会を明日に控えた土曜日、彼女へのインタビューの機会を得たのだった。

世界で唯一、女性専門を掲げるLivの指揮に立つ彼女の考えとは、どういったものだろうか?



富士ヒルクライムに参加するため来日したボニー・ツー氏。Livブランド創設者、ジャイアントグループ副社長という肩書きを感じさせない柔和な雰囲気富士ヒルクライムに参加するため来日したボニー・ツー氏。Livブランド創設者、ジャイアントグループ副社長という肩書きを感じさせない柔和な雰囲気 photo:So.Isobe


「それはそれはとても綺麗でした。富士山も素晴しいですし、空気、雲の合間から差す光が湖面に輝いていて感動しました。台湾の友人やサイクリストに紹介したい気分でいっぱいです。本当に素晴しい体験でした」。

そう嬉しそうに語るボニーさんの来日は今回で3度目。1回目はしまなみ海道で、2回目は北海道。今回は富士ヒルクライム前日に山中湖周辺を巡り、日本のイメージと寸分違わない光景に感動したと言う。

「数年前、スポーツサイクルは女性に対してアンフェアだということに気づきました」「数年前、スポーツサイクルは女性に対してアンフェアだということに気づきました」 photo:So.Isobeジャイアントグループの副社長であり、Livの創設者であるボニー氏。しかし彼女も会長キング・リュー氏や社長のトニー・ロー氏と同じく、自身がスポーツサイクルを始めたのは壮年以降のことだった。

「私の伯父であるキング・リューが台湾一周サイクリングにチャレンジし、私もその一部に同行することに。それが初めてのスポーツサイクリングでした。ウェアを買おうと思い立ってジャイアントショップを訪れたのですが、アパレルはもちろんバイクも、小物類ですら女性用のアイテムが無かった。広く見れば、その頃の自転車業界には女性向けの品々がほとんど無かった訳です。その時ようやく、女性に対してアンフェアだということに気づきました」と当時を振り返る。

こうして彼女主導のもと、2007年に「Liv/giant」が発足。「女性も使える/乗れるもの」ではなく、完全に女性向けのブランドとしてスタートを切ったという。

「男女では体形が違うから、ジャージのデザインが違ってくるのは誰でも簡単に分かること。でもそれはバイクにだって言えることです。なぜ男性よりも頭が少し小さく、ウェストが細く、お尻が少し大きな女性が男性と同じバイクに乗らなければいけないのでしょう?Livはそんな考えから始まったブランドなのです」

ちなみにLivとはラテン語で、「女性」や「平和」を表す言葉だそうだ。「たまたま偶然ですが、ハリウッド女優のリヴ・タイラーとも一緒ですね」とボニー氏は笑う。

そうしてLiv最初の製品であるジャージが世に送り出され、ジャイアントのDEFYを女性用にカスタマイズしたロングライド用バイク「Avail」がデビュー。2015年には「Liv」にブランドネームを変更し独自路線を歩み出した。今やバイクやアパレルはもちろん、シューズ、ヘルメット、アクセサリー類まで、幅広く魅力的なラインナップを誇っている。

スタイリッシュなLivのサイクリングアパレルスタイリッシュなLivのサイクリングアパレル photo:Makoto.AYANOLivはヘルメットまでラインアップするLivはヘルメットまでラインアップする

フラットペダルに最適化されたバーソールサイクリングシューズLiv FAMAフラットペダルに最適化されたバーソールサイクリングシューズLiv FAMA バーテープやライト、ライトといったアクセサリー類も充実しているバーテープやライト、ライトといったアクセサリー類も充実している (c)ジャイアント・ジャパン


そしてもちろんのこと、それらには彼女をはじめとするLivのスタッフ、そして契約する選手などから吸い上げられる意見が下地にある。サポートするラボバンク・Livチームは世界ロードチャンピオンのポーリン・フェランブレヴォやマリアンヌ・フォスなどを擁し、大成功を収めている。

「Livには素晴しく高性能なバイクもありますが、決して高級志向ではありません。それは女性の"魅力的だな、乗ってみたいな"という思いを価格面で挫折させたくないからです」と語るボニー氏。これはジャイアントの理念を強く受け継いでいる部分だろう。初心者向けに、値段以上に魅力的なバイクを多くラインナップするのは同社の特徴だ。

世界チャンピオンを擁するRabonank-Liv世界チャンピオンを擁するRabonank-Liv photo:CorVosLivがサポートするもう一つのトップチーム、Liv PlanturLivがサポートするもう一つのトップチーム、Liv Plantur photo:CorVosLivの目標は、製品や活動を通じて、スポーツとして自転車を楽しむ女性に対して希望や自信を与えることにあると言う。

「自転車は人を若く、アクティブで、そして健康にさせてくれます。例えばどこかに移動するとき、クルマで出かけるとしましょう。確かに快適で目的地にも早く着くでしょうが、それでも私は自転車を選びます。なぜでしょう?自転車なら全てのものを感じられ、香りを楽しみ、目、耳、そして時たま味覚でも楽しめる。私は"サイクリングの五感"と呼んでいますが、本当に素晴しいものだと思います。だからこそ、もっと多くの女性にサイクリングを楽しんで欲しいのです」

そしてLivの特徴と言えば、男性が羨ましくなってしまうほどに洗練されたデザインを忘れてはならない。

「女性用と言えばファンシーで、ピンクで、花をモチーフにしたデザインが多いですが、それは半分正解で、半分不正解。女性にとってデザインはとても重要なことですから、Livのバイクのデザインはとても凝ったものが多いのです。するとバイクにマッチするように、美しく格好良いアパレルも必要です。素敵なものを身に纏えばより気分が高まるし、楽しさだってもっと広がるでしょう。Livにとってデザインは女性が自転車を楽しむための大切な要素です」



"もっと女性にとってスポーツサイクリングを身近に"というLivのポリシーは、製品を生み出すだけにとどまらない。一歩を踏み出すための敷居を下げ、さらに女性のサイクリスト同士を繋げるため、世界規模で取り組んでいるのがLivの専門店を作ることだ。

「そうすると機材面のサポートを受けられることはもちろん、仲間が増え、一緒にライドに出かけ、お互いの経験や素敵な思い出をシェアすることができる。そうやって広がった仲間の輪は、何にも代え難い大切なものになると信じています」とボニー氏。国内でも大阪でLivストアが展開し、台湾を始めオーストラリアやアメリカ、イギリスでは既に大成功を収めているそう。日本もこれら海外諸国に続くだけの可能性を無限に秘めている、とも。実際にLiv大阪では、定期的にさまざまなイベントやセミナーを開催して、サイクリングを始めたい女性を応援しグループライドの楽しさを広める活動を行っているそうだ。

国内で初めてのLivガールとして活躍する武田和佳選手国内で初めてのLivガールとして活躍する武田和佳選手 photo:Satoshi.Oda.
「日本では一般的に、ママチャリと呼ばれる自転車には誰もが乗ったことがあるでしょう。それだけ自転車は馴染みがあって身近なもの。私が3度訪れた中でスポーツバイクに対するニーズは確実に増していると感じます。以前北海道を訪れた時、私はエスケープ(ジャイアントのクロスバイク)に乗った若い女性と出会いました。彼女はいつも一人で乗っているそうなのですが、Livが目指しているのは彼女にグループライドの機会と楽しさを提供すること。少しずつでもいいのです。私たちLivの目標が叶えば、きっと素敵なことになるでしょうね」



スバルラインに挑むボニー・ツー氏スバルラインに挑むボニー・ツー氏 photo:Naoki.Ysuokaとても晴れやかな気分になったインタビューだった。実際にお会いしたボニー氏は、「Livブランド創設者、ジャイアントグループ副社長」という緊張感とは一切無縁の、とても柔らかい性格の持ち主。英語が堪能で、積極的に日本語を織り込んで思いを伝え、いつも笑顔で周りを華やかな気分にさせてしまう。でもその奥には強い信念があって、発した言葉のふしぶしにパワーが宿っているかのような。

1949年生まれ、65歳。年齢を聞いて信じられないほど、彼女はいきいきと輝いていた。「自転車は人を若く、そしてアクティブでいさせてくれますから」と笑う言葉の通りに。

翌日、ボニー氏は24kmのスバルラインを3時間31分で駆け上がった。私は随行オートバイで下山しているところですれ違ったが、「あまり登りは得意ではないですから」という言葉通り(?)、かなり苦しんでいる様子だった。それでも頂上に辿り着いた時は、周りを元気にしてしまうほどの笑顔が輝いたのだろう。

彼女はまた年末、日本の女性にスポーツサイクリングをアピールするために来日する予定だという。可能であればまた会って、話しをしてみたい。そう思わせてくれる人だった。

text:So.Isobe