数十年に一度という豪雪に見舞われながらも、お台場海浜公園を舞台に開催されたシクロクロス東京。悪天候の中2日間で1万人を数えた大会のその裏側には、雪をも溶かす主催者の熱い思いがあった。インタビューを交え、お台場にカウベルの音が鳴り響いた2日間を振り返る。

2日間で1万人を動員。砂と雪のシクロクロス東京2日間で1万人を動員。砂と雪のシクロクロス東京 photo:Kei Tsuji
「悪天候だったのはもちろんですが、本当はもっと多くの集客を期待していたんですが…ちょっぴり雪を恨みたい気分ですかね(笑)」そうシクロクロス東京を主催するチャンピオンシステム・ジャパン社長の棈木さんは言う。

「都心のど真ん中でシクロクロス」と銘打ったシクロクロス東京。記録的な豪雪に見舞われた今年は、これまでの2大会とは全く違う様相を見せてくれた。ホビーレースをメインとした1日目に吹き荒れた吹雪はC1レースを中止に追い込み、トップホビーライダーの多くは涙を飲んだが、2日目は一転、雪上を行くプロ選手を青空の下で拝める絶好の機会となった。

全日本チャンピオンの走りは多くのギャラリーを熱狂の渦に包み込んだ全日本チャンピオンの走りは多くのギャラリーを熱狂の渦に包み込んだ 砂をものともせず突き進むザック・マクドナルド(アメリカ、ラファ・フォーカス)砂をものともせず突き進むザック・マクドナルド(アメリカ、ラファ・フォーカス) photo:Kei Tsuji

弱虫ペダル作者の渡辺航先生。会場中からファンの声が止まなかった弱虫ペダル作者の渡辺航先生。会場中からファンの声が止まなかった 仲間が来場できず、90分間を一人で走った方仲間が来場できず、90分間を一人で走った方


今年は2日間の総動員数は1万人。昨年の1万3千人には届かなかったが、交通機関のほとんどがマヒしていたことを考えれば、非常に多いはずだ。

ロードやMTBのように競技志向の強いライダーたちだけでなく、普段ピストやストリート系バイクをメインに楽しむ層からの参加者も多いシクロクロス。ロードレースにありがちなストイックな雰囲気は無く、シクロクロス東京ではその部分を更に強めることで、ショーレースの雰囲気を盛り上げる。

お台場の代名詞となった砂と、数十年に一度という豪雪のコラボレーションを、いったい誰が予想できただろうか。あまりの雪に泣く泣くキャンセルした参加者も少なくはなかったが、数年後には伝説となるだろうこのイベントを走り、そして目に焼き付けた方は何と幸せなことだろうか。大の大人が雪にはしゃぐ光景は、シクロクロスならではだ。

好天に恵まれた2日目の日曜日好天に恵まれた2日目の日曜日 photo:Kei Tsuji
今や野辺山シクロクロスと並び、国内シクロクロスレースのトップイベントに成長したシクロクロス東京。そのモチーフとなったのは、アメリカ最大の興行シクロクロスレース「クロスべガス」だ。

例年に続き、会場ではDJが回す音楽がギャラリーのテンションを盛り上げ、豊富なフードブースや会場を練り歩いたレッドブルガールなど、実際に走った選手はもちろん、ギャラリーもアメリカやヨーロッパのような本場のシクロクロスイベントを十二分に堪能できる趣向が多く凝らされた。

そしてなによりも、会場の熱気の渦に包み込んだのは、エリート選手たちの熱い走り。今年はライアン・トレボンやティム・ジョンソンら怪我によるDNSが目立ったが、それでもRapha-FOCUSのザック・マクドナルドは路面の悪コンディションを感じさせない飛ぶような走りを披露してみせ、全日本チャンピオンジャージを着る竹之内悠はザックの先行を許しながらも、決して諦めない気迫の走りを。もちろんUCIシリーズ王者を決めたケイティ・コンプトンの走りも言わずもがな。そのパワフルな走りは、会場中の全てのギャラリーにため息をつかせてみせた。

エンデューロに出場したRENさんと山下晃和さん。RENさんはMCとしても活躍したエンデューロに出場したRENさんと山下晃和さん。RENさんはMCとしても活躍した 元全日本王者の辻浦圭一さん。自身が開発に携わったバイクを駆り、レースを走った元全日本王者の辻浦圭一さん。自身が開発に携わったバイクを駆り、レースを走った

ベルギービールも多数販売されたベルギービールも多数販売された 応援一等賞?なTEAM TAMAGAWAの皆さん応援一等賞?なTEAM TAMAGAWAの皆さん


また、今年は渡辺航氏が手がける人気コミック「弱虫ペダル」とのコラボレーションも行い、「弱ペダ」特設ブースではチャリティーサコッシュの販売や、原作者の渡辺航さんによるサイン会が行われ、大勢の(普通は自転車レース会場で見かけないような)女性ファンが会場に詰めかけた。

サイン会を待つ先頭の方は朝4時から並んだと言うから(どうやって来場したのだろう?)、その影響力には本当に驚かされる。「こんな悪天候でも走るだ!と初めて知ったし、男子エリート選手の速さにはびっくりしました。カッコ良かった!」というファンも実際にかなり多い。こうしたことをきっかけにし、少しでも競技の根が広がればと強く思う。



「やっぱりね、僕は自転車がどうしようもなく大好きなんですよ。だからできるんでしょうね。」

オーガナイザーを務めた棈木亮二さんオーガナイザーを務めた棈木亮二さん オーガナイザーを務めたチャンピオンシステムジャパン社長、棈木亮二さんはそう語る。棈木さんは熱き思いで大会を裏側から支えるキーパーソン。自身もC2カテゴリーで走る生粋のシクロクロッサーだ。

会場でレッドブルを配り歩くレッドブルガールさん会場でレッドブルを配り歩くレッドブルガールさん photo:Kei Tsuji「シクロクロス東京のネーミングは、自転車乗りの間では十分に定着してきたように思いますね。昨年のサイクルモードには専用のブースも設けましたが、そこでも今年の大会について訪ねてくる方が多かったですし。」と言う。実際に取材していても昨今のブームに乗って競技を始めたばかりという方は少なくない。公式ホームページのアクセスやFacebookの「いいね!」も、単純に去年の2倍増になったそうだ。

だがその分、「天気が少し恨めしいですよね。」と棈木さんは言う。「C1の中止は本当に心苦しかったですが、あれ以上やると社会的に白い目で見られてしまいますから(笑)。ある意味スペクタルな光景を生んでくれましたが、天気が良ければもっとたくさんの方が来てくれたはず。はやり実際に見てもらうことがとても大事なんです。」

−チャンピオンシステムと言えば、その大きなバルーンアーチを、様々なシクロクロスレース会場で目にした方も多いはず。自社イベントであるシクロクロス東京があるにも関わらず、なぜ他の大会をサポートできるのか不思議に思って聞いてみた。

「その理由は、シクロクロスの底辺を拡大させたいから。やっぱり関東でAJOCCのキチンとしたレースが少ないですから、やる気のあるレースイベントのサポートしたかったんです。やっぱりお金の掛かることなので限界はありますが、なるべくシクロクロスを盛り上げたいな、という気持ちが根底にありますね。」

—去年インタビューをした時、キーワードは…

大会を盛り上げた白戸太朗さん大会を盛り上げた白戸太朗さん 「"感動だ!"って言いましたよね。覚えています(笑)。今年も変わらないですよ。やっぱり賞金の発生するキチンとした興行イベントとして開催することでトップ選手を呼び、彼らが全力で走ることで生まれる「感動」や「憧れ」は決して少なくないはず。良いレースがあって、それを見る観客がいて、そこに広告を出してくれる会社が、それを伝えてくれるメディアがいてくれる。そうした循環を作るには、絶対に「感動」が必要なんです。

ファットバイク最強伝説ファットバイク最強伝説 photo:Kei Tsujiそれはコースに関しても同じこと。単純に面白い、難しくするのではなく、写真に収めた時にバナーの置き方も含めて美しいコース作りを目指しました。

見てカッコいいと思えばギャラリーの中にもシクロクロスを始める方もいるはずですし、そうして競技の底辺拡大をしたい。僕らはもう遅いけれど、十代、二十代の若い人たちがシクロクロス東京を通して競技に目覚め、どんどんと世界に飛び立って欲しいと思うんです。」

—根本的に、なぜそこまでできるのですか?

やっぱり、僕は自転車が好きだからだと思います。自転車のことしか考えられないですし、若い頃から自転車で楽しんできたので、その分の恩返しをしたいんですね。僕が本気で遊んでいたころは認知度も低くて白い目で見られがちでしたが、今は違う。そうして遊ぶ場の提供ができれば幸いなんですよね。

—クロスべガスがモデルイベントでしたよね?次第に近づいていると感じますか?

「僕の中ではもう既に同じくらいの規模にはなっているのかなと思いますね。向こうはスヴェン・ネイスを呼んでいるので、レースの内容的にはより大きいですが(笑)。出場選手のレベルはやや差があることを否めないですが、やっぱり観客の「感動の量」は変わらないはずです。

エリート男子の表彰式には大勢の観客が駆けつけたエリート男子の表彰式には大勢の観客が駆けつけた photo:Kei Tsuji
実は今年、私自身もC2に出場しようかなと思っていたんですよ。やっぱり私もシクロクロスが好きですし、私が実際にレースを走ったらどう思うのかとか。来年こそは走りたいですよ。

でもこれでようやくシクロクロス東京2014が終わりました。本当に大変でしたね(笑)。外人選手が言ってくれたのですが、「今年の苦労は、来年に必ず帰ってくる」と。向こうの言い伝えみたいなものらしいですけれどね。これに期待したいですね(笑)。」

text:So.Isobe