日々の業務に追われる編集部に J SPORTSさんから1通のメールが届いた。「もてぎ7時間エンデューロにてメディア対抗レースの開催を検討しております。就きましては御社に於かれましても参加のご検討を頂ければ・・・。」
これは明らかに挑戦状だ。

私たちにも”絶対に負けられない闘い”がある。この闘いに備え、日々愛車のメカチェックを入念に進める私たち。そんな闘志みなぎる編集部にアノ男がやってきた。執拗に沈黙を守る私たちをよそに、お人好しの編集長から恐れていた言葉が発せられる。「今度のもてぎのイベントですが、会長はどうされますか?」

「ツインリンクもてぎかぁ~懐かしいなぁ。昔タイヤテスト中に、ブリッジ先の130Rでハイサイド食らって肩甲骨を折ってんだよな。得意なコースじゃないんだけど懐かしいから付き合ってあげるよ。」

この一連のやり取りが、私達の燃え上がる闘志を確実に鎮火させたことは言うまでも無い。メタボ会長が参戦する時点で私たちの”プライドをかけた絶対に負けられない闘い”は、ほぼ試合放棄に等しい。こうして意気消沈した私たちは、克服不能なハンデを背負って”取材に名を借りた闘い”に向かうこととなった。



オープニングはキッズレースだ。みんなヤル気満々。オープニングはキッズレースだ。みんなヤル気満々。 当日の朝。私たちの沈む心を嘲笑うかのように晴天の空が広がっている。いまさらながらメタボ会長の晴れ男っぷりは健在である。輝く太陽に負けじと光るオヤジの笑顔が恨めしくすら感じる。

朝一番の試走を控え、着替えを始めるメタボ会長であったが、あろうことかCWジャージではなく、普段のライドで愛用しているマイヨジョーヌに袖を通している。

私たちには、いつもの見慣れた痛々しいスタイルではあるものの、今日は週末サイクリングではない!

「編集長!今日は取材ですよね?会長にCWジャージ着てもらわなくイイんですか?」慌てて問いかける私に編集長がサラリと答える。

「今回のメディア対抗レースは第100回ツールの盛上げも兼ねてるって J SPORTSさんに聞いてるから、会長には普段着で来て下さいって頼んでいたんだよ。ま、ツールっぽくてイイんじゃない?」

涼しい顔で答える編集長だが、得意げな表情で普段着のマイヨジョーヌを身に纏ったメタボ会長の痛々しい姿が、一緒にいる私達をたまらなく恥ずかしい気分にさせる。

ゲストライダーさんと並んで得意げな表情を浮かべるメタボ会長。ゲストライダーさんと並んで得意げな表情を浮かべるメタボ会長。 ブリッツェンの広瀬GMにまでオヤジの災いが降りかかる?ブリッツェンの広瀬GMにまでオヤジの災いが降りかかる?


いよいよ出走時間が近づき、4時間エンデューロのライダーがホームストレートに揃い始める。メディア対抗レースは4時間エンデューロと併催だ。ブリッツェン、マトリックス、ブラーゼンのゲストライダーが先頭に揃う。後ろに位置する参加者さんの表情も、各々が闘いに挑むべく引き締まった空気を漂わせ始める。

一方、我がチームのスタートを務めるメタボ会長といえば、いつものように、ゲストライダーさんと談笑したり、ウイダーガールにちょっかいを出したりと、緊張感の欠片も無い立ち振る舞いを続けている。あげくには、運悪く隣に並んだサイスポさんの新人君を捕まえて、恫喝まがいの言葉をかける始末だ。

「お?君は今年入社なのか!って事はウチの息子と同じ22歳ってことだな!君も社会に出た以上は目上を敬わなきゃならんからね。今日はおじさんの前に出る事は禁止だよ!」
これは会社の垣根を越えた明らかなパワーハラスメントだ。サイスポさん、本当に申し訳ございません。

オヤジはカワイイお姉様が大好物である。オヤジはカワイイお姉様が大好物である。 「サイスポ君。大人の社会には暗黙のルールがあるんだよ!」「サイスポ君。大人の社会には暗黙のルールがあるんだよ!」


スタートを前に、緊張感高まるピットでは最終の編集会議が始まる。
「会長が3周走るそうです。って事は30分弱で帰ってくるから、次走の磯部君は悪いけど1時間半ほど走って下さい。その次の山本君が1時間。最後に僕が終了まで。これで僕はコース上でスタートから約3時間の撮影時間が確保できるし、君達も各々2時間ずつはコース撮影に時間を使える筈です。では各自の持ち場に散りましょう。交代時間にだけは留意して下さい。」いつになく編集長の手際がいい。

いよいよ、私たちの闘いは幕を開けた。スタートから集団は平均速度は40km/hを楽に超えるハイスピードで進んでいる様子だ。走行予定の無い私は、担当のバックストレッチ登坂部分の頂上付近に陣取りカメラを構える。頂上部から見下ろす登りは距離350m斜度7%といった所だろうか。上級者さんが苦にする事はなさそうだが、ずば抜けて低い登坂能力を誇るメタボ会長が、勢いだけで駆け上がるにはどう見積っても距離があり過ぎる。

一斉にスタートして行く4時間エンデューロのライダー達。一斉にスタートして行く4時間エンデューロのライダー達。 スタート直後からいきなり40km/hオーバーの高速走行だ。スタート直後からいきなり40km/hオーバーの高速走行だ。


参加者さんを撮影すべく、坂の頂上付近でカメラを構えていると、不意に1台の”黄色い弾丸”が飛んで来た!重いギアを掛けたまま駆け上がってくるその姿は、ゴールスプリントさながらの迫力だ!予想外の勾配に苦しむ参加者さんの中で、その”黄色い弾丸”は異次元のスピードを見せている。

「どりぁぁぁ~!」聞き慣れた奇声を発しながら私の前を鋭く通過して行く弾丸は、まぎれもなくメタボ会長その人だ。これぞゴボウ抜きという表現がしっくりくるほどの、メタボ会長のマジ踏みに感動すら覚えてしまう。
ウチの会長こそは”やる時はやる!”素晴らしい男だったのだ。
こんな素敵なボスがトップに君臨する組織に属させてもらっている自分が誇らしい!

「どりぁぁぁぁ~!」 坂の下からスッ飛んでくる”黄色い弾丸”。腕力まかせのマジ踏みでゴボウ抜きを見せる!「どりぁぁぁぁ~!」 坂の下からスッ飛んでくる”黄色い弾丸”。腕力まかせのマジ踏みでゴボウ抜きを見せる!

我が会長の雄姿に高ぶる感情を押さえながら、カメラを構える私の元に2周目の先頭集団がやってくる。再び私のファインダーに飛び込んできた”黄色い弾丸”に、1周目の迫力は欠片もない。ノッシノッシといつもの立ち漕ぎで登ってくるそのケイデンスは40回転/分辺りだろうか。
コースサイドの私を見つけて「いや~、疲れちゃったよ。」と、捨てゼリフを残してノンビリ通過して行く黄色い物体。その背中を見送る私の中で、先程までの尊敬の念が音を立てて崩れた事は言うまでも無い。

言い知れぬ悲しい気分に苛まれながら撮影を続ける私の元へ、3周目の先頭集団が流れ込んでくる。もちろんこの集団にメタボ会長の姿はない。トップから遅れる事2分。すっかりサイクリングモードのオヤジがやって来た。”絶対に負けられない闘い”など意に関さず、周囲の参加者さんと楽しげに談笑しながら登ってくる始末だ。
こんな不甲斐ないオヤジがトップに居座る組織に属してしまった自分が堪らなく悲しい。

2周目。すっかりいつもの登れないオヤジに戻っている。2周目。すっかりいつもの登れないオヤジに戻っている。 3周目。笑顔で喋りながら走る場面ではありませんよね?3周目。笑顔で喋りながら走る場面ではありませんよね?


残念なオヤジからバトンを受け継いだ次走の磯部の走りは、安心感に溢れている。1周遅れで取り付いた先頭集団の中を涼しげな表情で走り続ける。さすがに編集部一番の健脚を誇るだけあって、シクロクロスバイクとは思えないスピードを披露している。結果、彼はその後1時間半を遅れることなく先頭集団の中で過ごす。

健脚一番の磯部はCXバイクで疾走する。ちゃんと仕事してる?健脚一番の磯部はCXバイクで疾走する。ちゃんと仕事してる? 頼もしい磯部の雄姿に「普段から仕事そっちのけで練習に励んでいるのでは?」という一抹の疑念が湧き上がらなくもないが、今日の編集部にそんな事はどうでもよいのだ。
”絶対に負けられない闘い”の中で、2時間経過時点までトップから1周遅れをしっかりと維持した彼には称賛を贈るべきだろう。

そんな状況を継いで走り始めた新人の山本であったが、集団に巧く取り付くことができずに、テンパってもがいている。後ろから来る速い集団を待てば楽なのだが、”初めて任された業務”に真剣に取り組む若者には、前しか見えないのだろう。

ほんの一月前まで国立大学に通っていた世間知らずの素朴な青年にとって、”絶対に負けられない闘い”のプレッシャーは重過ぎた様子だ。結果を出せない自分への焦りから懸命にペダルを廻してはいるのだが、その表情はすでに生気を失っている。

重圧に耐えかね、生気を失った表情の青年が走る。重圧に耐えかね、生気を失った表情の青年が走る。 編集長の頼もしい姿。もちろん仕事中ですよね?編集長の頼もしい姿。もちろん仕事中ですよね?


最終走者の編集長に心配は何もない。こと”仕事を忘れて遊ぶ”ことに関しては、抜群の集中力を発揮するのが彼の特徴なのだ。小さな集団を利用しながら、前へ前へと確実にポジションアップを果たす彼の頭の中に、業務の事など在する余地はない。わが編集部の長としての資質を考えると、この現況は微妙ではあるものの、今日の私たちにそんな事はどうでもよいのだ。ただ、このイベントを心から満喫している事は、彼の表情から疑う余地もない。

こうして4時間の経過とともに、私たちの”絶対に負けられない闘い”は幕を下ろした。

結果は当初の予想通り、メディア全9チーム中3位という惨敗である。ちなみに”4時間ロードチームの部”に出場した全205チームの中でも19位という微妙な順位だ。周回数33周、総走行距離158km、トップのバイクラさんチームから2周遅れの3位という中途半端な結果に苦笑いを浮かべて誤魔化す私たちであったが、全くヤル気のない黄色い弾丸というハンデを差し引けば、ある意味立派な成績と言えなくもない。

照れながら表彰台に上がる編集部チーム。それぞれの顔が充実感で光り輝いている。ただ、オヤジの笑顔は意味が違う。照れながら表彰台に上がる編集部チーム。それぞれの顔が充実感で光り輝いている。ただ、オヤジの笑顔は意味が違う。

中途半端な3位という結果を引っ下げ、表彰台で記念撮影に臨む編集部チーム。素直には喜べない順位に照れ笑いを浮かべる編集部の後ろで、黄色いオヤジはウイダーガールとちゃっかり腕を組み、締りのない顔を披露している。公衆の面前でのこの所業はひとえにお恥ずかしい限りである。ここは夜の銀座ではない!

仕事を忘れて走り抜けた編集長。さすがの存在感を示した磯部。やっと生気を取り戻した山本。そして、1周目の登坂で一瞬だけ輝きを見せた”黄色い弾丸”。それぞれの表情はどれも充実感に溢れた抜群の輝きを放っている。やっぱり、自転車イベントはイイもんである。仲間の笑顔を見ていると思わず羨ましさすら覚える程だ。

「二人ともカワイイな!ウチに入社しない?」もちろんダメです。「二人ともカワイイな!ウチに入社しない?」もちろんダメです。 私の中で、貧脚を露呈せずに済んで良かったという感情とできれば走ってみたかったという感情とが入り混じる。もちろん、重圧に潰された青年を思い返せば正解は前者で間違いない。ただ・・・。

そんな複雑な心境に苛まれながらも、新人と共に帰り仕度に取り掛かる私にメタボ会長から声が掛かる。
「今日の取材の獲れ高はトータルでどんなもんだ?」

不意を突かれた私は思わず普通に応えてしまった。
「先程チェックした限りではカメラは4人合わせて約3000カット。コメントは17本といった所ですね。」

いやいや、これは私の大失態だ!日々編集長からは”会長への報告は3割増”と強く言われていただけに、嫌味を言われるに違いない!と身構える私に対し、優しい笑顔を浮かべた会長から意外な言葉が返ってくる。

「結構いけたねぇ。走りながらそれだけの獲れ高があれば十分だよ。確かにメディア対抗レースの結果は残念だったけど、その獲れ高ならメディアとしての取材レースは君達がダントツで優勝だな。ご苦労さん。」
ポンと私の肩を叩き、缶コーヒー片手に喫煙スペースの方向へ去っていくメタボ会長。

その言葉の真意が、そのままの褒め言葉なのか、果ては自身の不甲斐なさを誤魔化すための戦略なのかは定かではないが、少なくとも取材で疲れた私の心がちょっとだけ癒された事だけは確かだった。


今回、編集部チームが実走取材にお伺いした"第1回もてぎ7時間エンデューロGW2013"を支えて下さった大会関係者並びにサポートスタッフの皆様に心より御礼申し上げます。       <編集部一同>





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「ポイ捨てはダメだぞ!」「ポイ捨てはダメだぞ!」 メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : もうすぐ4年

当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。


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